第2話

 マジなんなん?

 意味わからん。


 目の前の青年がルイ16世だとぉ!?


 ナニ幽霊なの? どう見ても生身の青年。


 もう意味不すぎwwwwwwwwwwww。

 てか今オーストリア出身って言った?


 あたしは生まれも育ちもUnited States of Americaです!!


 あまりの出来事に思考フリーズ。


 そんなマネキンチャレンジのように、微動だにできない私を見てルイ16世が、あ、王太子だったか今? が


「侍医を呼びなさい。妃の体調が思わしくない。」


 と召使いに言いつけ


「本日の起床の儀は取り止めとする。」


 と指示を出した。

 カーテン越しでも判るほど召使いは慌てて去って行った。


 あれよあれよあれよと言う間に医者が来て、脈拍を測り、触診し、異常無しと告げ、疲れが出たのだろうと言った。


「私は政務がある故、行かねばならん。今夜話す機会があるだろう。くれぐれもフランス語で!」


 ルイ16世を名乗る青年は、マリーに釘を差し、ゴテゴテの豪華な部屋を出ていった。


「Ye.......Oui.」


 マリーは呆然と返事をした。


 その後、寝室に取り残された私に、ガッツリコルセットのドレスに、ボンネットの使用人が食事を運び、ベッドの上で食事を摂った。


 この時、使用人がノックをしないものだから、配膳係が来ていたことに全く気づかず、流石にお腹が減ってきて催促したら……。

 部屋の前で置物のように彼女ははつっ立ていた。


「何でノックしなかったの?」


 と、聞けば。


「恐れながら妃殿下。

 このヴェルサイユにおいて、よりエレガントを求められまする。

 故に爪で戸を擦り訪れをお知らせいたします。」


 エレガンス!?


 何いってんだコイツ!


 現代アメリカ人からすれば驚天動地の域だ。


 因みに、病人ということで、食事は具がたっぷりのスープにパンに果物とかなりあっさりな献立だった。


 まぁ、こんな状況だから助かるけど。


 そして、(仮)病人の私のもとに疫病神が現れる。


「王妃殿下。ご機嫌麗しゅう。」


 と、目つきキッツいオバハンが優雅にカーテシーをして、腰巾着2人引き連れ登場。


 病人だって言ってる人間の元に、普通ガン飛ばしながら見舞いになんて、来るだろうか?


 やだなー。なんて思いながら無言で彼女を見ていると、


「お加減が優れないとのことでしたが、お顔色はよろしいようで、我等臣下一同安堵いたしましたわ。

 しかしながら ……朝の儀式は先代陛下の御世より続くし伝統、御身を顕在を見せしめる重要な儀式でございます。時代を引き継がれます王太子殿下の………ウンタラ〜カンタラ〜」


 優雅に説教を歌い続ける。


 何ッだ!? こンのババア??


 朝から押しかけてマウント取りに来ただけか!? ウザっ!!!


 しかも(仮)病人相手に!?


 喉元まで出かかった“黙れ💢”を必死に押し留めて


「まぁ、夫人はお元気そのもですのね。羨ましい限りです。それにしても夫人、私は心配になってしまいますわ……。」


 ババアの顔が若干引つる。


「心配とは、お心嬉しく思います。ですが……。」


「わたくし、本当に心配なんですよ。こんな朝早くから

 貴方までどうにかなってはこの宮が立ち行きませんどうか?」


 と嫌味てんこ盛りで言い返してやった。

 わかりやすく言うと、

“ババアが朝から調子こいて気張んなや! 

 ボケ!! 年寄りは帰って寝てろ!!!” 

 である。


「無理だなんて! 身を挺してお使えするのは当然でございます!」


「そうなのね! 素晴らしい心掛けだわ! ヨランダ!!」


「ヨランダ?」


 しまった!!!


 こんな嫌味で腹黒なもの言いするのは、いつもいつもヨランダだったから!


 ついヨランダって言ってしまった!!!


 やべぇ……言い訳、言い訳!!!


「故郷のっ!! 先生に、あなたそっくりだったから、つい呼び間違えてしまったわっ!!!

 あ~! わたたくしやっぱり具合が悪いみたいだわ! ヨラ……夫人に病を移すわけにはいかないでしょ? 今日はゆっくり休みなさい!

 ね???」


「そ、そうおっしゃられるのであれば……ありがたく。」


 ヨランダ、じゃなかった。嫌味ババアは困惑を隠しきれずそのまま引き下がった。


 しかし、少し気になったので、ババアの去り際に一つ尋ねた。


 ルイ16世の妻の側近といえば……まさか


「あなた、ノワイユ夫人?」


「……左様でございますが?」


 当然だが、ノワイユ婦人は困惑と顔の皺を更に深めた。


「そう。ならいいわ。引き止めて悪かったわね?」


「それでは、本日はこれにて失礼いたします。

 妃殿下に置かれましては1日も早いご回復をお祈り申し上げます。」


 ババアことノアイユ夫人は去っていった。

 なんとか乗り切ったのだろうか?


 マリーはバタッとベッドに倒れた。



 ノワイユ伯爵夫人____。


 彼女はマリー·アントワネットの王太子妃時代の側近であり教育係だった人物だ。



 むかーし昔、ヨランダから受けた歴史の授業で学んだ。(何故か18世紀のヨーロッパ史は執拗なまでに学ばされていた。お陰で、学校での歴史の成績は余裕でオールAだった。まさか……)


 マリーは血の気がサーッと引いていくのが判った。


 まさか、ホントに!?


 マリーはサイドテーブルに置かれた手鏡を手に取りその姿を見た。

 その姿に、マリーは恐怖に似た驚愕を覚える。


 マリーの髪は茶髪に近い金髪で、瞳は水色で、軽くウェーブのかかったセミロングだった。


 ところが、今鏡に写っている姿は……


 顎が長めで、白すぎる肌、白金髪、アーモンド型のちょっぴりタレ目で紺色の瞳。


 この顔何度も家で見たことがある!!!


 マリー·アントワネット_____!!!


 白目向いて倒れるかと思った。


 首チョッパーやないかーい☆


 マリーは思わず、自身の首を守るように手をあてた。


 勿論まだつながっている。


 そこへ


 ポリポリポリポリポリポリ


 と、スナック菓子を食べる音が聞こえてきた。


 !?!?!?!?!?!?!?!?!?


 私の目がおかしくなったのだろうか?


 ソファーに寝っ転がり、プリングルスをむさぼり食う黒人がいる。


 因みにだが、この部屋私以外にも使用人が控えており、当然このおかしな光景が見えているはず……。


 ところが、使用人の彼女達には全く見えていないようで微動だにしない。

 一応彼女に聞いてみる。


「ねぇ、あなた。ソファーに誰かいらっしゃるようだけどあの方は?」


「え? 誰もいらっしゃいませんが……。」


 ……。

 そんなっ!! 私の精神がイカれてしまったのだろうか!?


 幻覚を見るなんて!!!


「ねぇ。ちょっと勝手に幻覚にしないでくれる〜? 僕チンここにいるんですけどぉ?」


 あぁ! 幻聴まで聞こえる!!!


 マリーはうずくまり耳を抑えていると、不意に人の気配を感じバッと顔を上げた。

 すると……。


「ぎゃーーーーーっ!! 幻覚!!」


 ソファーに寝っ転がってた黒人が直ぐ側に立っている。


「なにその反応!! 傷つくんですケド!!

 俺ちゃん、幻覚じゃなくて悪魔よ? 君とこの一族と契約した あ・く・ま☆」


 悪魔?


 まさかの人外登場。















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