French Revolution by American Girls アメリカ女子のフランス革命サバイバル戦記

泉 和佳

第1話

 NYのクイーンズ西部に住んでいて、親は金持ちで、夢を叶えるために仲間と充実した日々を過ごしている。


 これだけ聞くと、皆羨ましいと思うでしょ?


 でも、


 家の話をすると、皆……


「18年我慢できてたあんたが信じられないわ……。」


 カレンが引き気味、いやドン引きで言った。


「しょうがないじゃない!! だってウチは親が弁護士よ!? しかも、NYで1〜2を争う弁護士事務所のオーナーなんだもの! 脳みそイカれてるって訴えても、誰も信じてくれなかったのよ!!」


 マリーは教科書を机でまとめながら叫んだ。


「怖ハイスペ親。」


 カレンは肩をすくめた。

 2人は教室を出て廊下を歩きながら喋った。


「それにしても、王室並みのマナーに、異性交友禁止に、家の中でドレスコードがあって、家の中の公用語がフランス語!? なんだろうね、あなたの親、どこぞのヨーロッパの王室にあんたを嫁がせようとか考えてたんじゃない?」


「冗談じゃないわっ!! 絶対嫌!! 自由がないとかっ……耐えられないっ!!!」


 マリーはリュックを車の後部座席に投げ、助手席に座った。


「それも、もう、おしまいよ!! 家に荷物だけ取りに行くから少しだけ寄って。」


「わかった。私達の部屋についたらパーティね! とりあえずデリバリーで色々注文しといたから。」


 カレンは車を発進させた。


 マリーは実は起業していて、卒業までに稼げるようにしようと躍起になっていた。

 そして、ついに、それが叶ったのだ。


 隣にいるカレンや他の仲間と一緒に、ファッションのコーディネートや、商品の提案をしたりできるアプリを開発。


 学業片手間に営業に周り、時には親に届いたパーティの招待状なんかも勝手に借りて突撃しに行ったり、途中SEに逃げられたりピンチもあったが……。


 やりきった!! ここまでっ!!!!!


 親から独立したい一心で、それはそれは頑張った。

 学業も一刻も早い自立のために、16で大学に飛び級入学を果たしたし、大学に提出するレポートを打ちながら、提携してくれそうなアパレルショップの物色をするという器用なこともしていた。


 お陰でこの数年、極限の疲労によりぶっ倒れるなんてことも経験した。


 しかし!


 全ては、この家とおさらばするため!!


「あんたの家……豪邸だけど、いつ見ても雰囲気ヤバいわ〜。

 確実にホーンテッドマンションより出そう。」


 カレンは実家の門前に車を止め、見上げた。


 築150年、文化遺産にも登録されている我が家。


 石レンガの壁に塔が一つついてまるで、小さな城。


 今日みたいな曇天の日には特に、幽霊でも出てきそう。


 その時、


「Bienvenue à la maison, jeune femme.《お嬢様、お帰りなさいませ。》」


 我が家のレディースメイド、ヨランダが足音もなく現れた。

 カレンは、ヒィっと小さな悲鳴を上げて後退った。


 そりゃそうだろう。


 ヨランダは御年70歳にして、鉄骨でも背骨に仕込んでるのか? と疑わしくなるような、ピンっと伸びた背筋、神経質そうな細い眉毛に、伝統的なひっつめ髪、詰め襟のダークグリーンのロングドレスを着ている。


 このままで十分ハロウィンの仮装だ。


「その嫌味なフランス語やめてっ! ここはアメリカよ!!」


「Mon mari m'a dit de m'abstenir d'utiliser un mauvais anglais à la maison.《家の中では下賤な英語は慎むようにと、旦那様からのお言いつけです。》」


「あぁ💢 もういい! 荷物取りに来ただけだから!!」


「J'ai compris《畏まりました。》」


 マリーが屋敷に入ると、マホガニーの重厚な扉をヨランダは閉めた。そして……


 ガチャっ_____。


 と、鍵を締め、カレンを睨みつけ、ひどいフランス語訛の英語で言った。


「オ嬢様ハ、本日ヨリ貴女トオ会イ二ナルコトハ、ゴザイマセン。

 ゴキゲンヨウ。永遠に__。」


「は!? どういうことですか!? いくら家族でも監禁だなんて……。」


「貴女ハ部外者デス。オヒキトリヲ!!」


 そう言うと、ヨランダはカレンに背を向けどこかヘ消えていった。


「マリー……。」


 カレンは不安げに屋敷を見上げた。


 一方マリーは、鍵を締められたことを分かっていたが、そう慌てもしなかった。


 なぜなら彼女、幼い頃から脱走の常習犯で、窓からスパイダーマンのごとく壁を伝い外に出ることなど、朝飯前だったからだ。(お陰で、骨折したり、親に窓におしゃれな鉄格子をはめられた時は、マジドン引いた。)


 そして、


「Joyeux 18ème anniversaire Marie《マリー18歳のお誕生日おめでとう。》」


「ママ。何そのイカれた格好。」


 振り返ればマリーの母が、パニエを重ねたドレスを身にまとって、階段からこちらを見下ろしている。

 扇子を片手に、ヘアーは後頭部に髷を結ったアップスタイル。

 古めかしい絵画の貴婦人のようだ。


「Eh bien, quelle terrible façon de parler! Je suis sur le point d'inviter une personne noble.《まぁ、何て口の効き方なの! これから高貴なお方をお招きするというのに。》」


「あ、そう! チャールズ3世国王陛下でもお招きしたのかしら!?」


「Ne prononce pas le nom du roi du rosbif dans la maison! Il est le descendant de la personne qui a fait du mal à Son Altesse Royale la Reine!!《ローストビーフの王など、我が親愛なる王妃殿下を害した末裔の名など! この家で出さないで!!》」


 そう母が叫んだ瞬間、後ろの絵画が、稲光で照らし出された。


 絵画に描かれているのは……

 フランス王妃、マリー・アントワネット。


「我が親愛なる王妃って……頭おかしいんじゃない!? まぁ、どうでもいいわ! あたしこの家から出て行くからっ!!!」


 そうマリーが啖呵を切って部屋に行こうとした時、


「Ne le fais pas《なりません。》」


 一体どこから湧いてでてきたのか、ヨランダが立ちはだかっていた。

 仄暗い瞳をカッと見開いて。


 その様子にマリーは一瞬怯んだ。


 そして、いつの間にやら母が後ろにピタリと立っていて、マリーの肩を軽く抱き言った。


「マリー……。

 貴女には言っていなかったけれど、我が家は代々大願成就のため悪魔と契約を結び栄えてきてたの。」


「な……何言ってるの?」


 普段、オカルト番組を馬鹿にしている母が、こんなこと言うなんて……。


 そろっと母の顔を窺い見ると、目が、マジだ。


 ……か覚醒剤? マリファナ? 薬でキメちゃってるの?


 なんかよくわからないけど、ヤバい。


 早く逃げ……。


 ところが、どういうわけだか体が動かない!


 金縛り!? こんな時に!?

 つーか金縛りって、寝てる時になるものじゃなかった!?


 混乱の中、母は更にえげつないことを言い出した。


「喜びなさいマリー。貴女の体を親愛なる王妃殿下に捧げ奉るのよ。我が一族の悲願がついに成し遂げられるわっ!!」


 母は高らかに声を上げ喜び、ヨランダは今まで見たことないくらいニンマリ笑ってる。


 !? そ、ソレ、どういうこと!?!?

 まさか、本気で生贄的な……!?!?


 声もあげられないマリーの心は、混乱と恐怖の嵐である。


 そして、ヨランダがマリーの口をガッと掴み、無理やり口を開けさせ、得体のしれない液体を流し込んだ。


 そして、最期に母の言葉を聞いた。


「さようならマリー。こうして王妃殿下に我が子を捧げられること誇りに思うわ。あちらでも元気でね。」


 は!?!?!?


「ざっけんな……!!」


 ゴーン、ゴーンと遠くで梵鐘が聞こえる。


 天蓋付きのでかいベッド、金糸を織り込んだ重厚なカーテンが降ろされている。


「ここは……どこ!?」


 あたりを見渡す。

 横にはブルネットの長髪の青年が、ヒラヒラしたパジャマを着て眠っている。


 そして、パチっと青年と目が合ってしまった。

 マリーは一瞬なんと言えばいいか分からず……。


「ハ、ハロー。

 ここがどこだか教えて……____んん!?」


 言い終わる前に青年は、目向いてマリーの口を塞ぎにかかった。


「À quoi penses-tu! ? C'est Anglais!《何を考えているんだ!? 英語だなんて!!》」


 コイツ……英語がなんだって言うのよ!!


 マリーは怒りのあまり彼の手に噛みついた。


「ça fait m………!!!」


 その声に側仕えはカーテン越しから声をかけた。が、青年が直ぐに返事した。


「Ce n'est pas important. Retiens-toi《大事ない。控えよ。》」


 なに? この時代劇みたいなやり取り。

 マリーが唖然と眺めていると、青年は声を潜め言った。


「C'est la France. N'avez-vous pas réalisé à quel point il est mortel de parler anglais en public !? 

 Eh bien, avant ça... pourquoi parlez-vous anglais ?

 Son Autriche natale était probablement allemande. 《ここはフランスだ。公の場で英語を話すことがどれほど命取りな行動か、解っておられなかったのか!? 

 いや、その前に……なぜ貴女が英語で話せる? 

 母国オーストリアはドイツ語だったはず。》」


 え……。


 フランス? オーストリア?


 え? どーいうこと!?


「Euh... lequel es-tu ?《あの……貴方はどちら様で?》」


 すると、青年は眉根をぎゅっと寄せて困惑した。


「Je m'appelle Louis Auguste. 《私は、ルイ・オーギュストだ。》」



 …………………………………………………。

 ぬぁんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!





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