第10話 廻り出した歯車
あぁ、駄目だ。
溢れようとする感情を押し潰し、殺す。
ゴポゴポと音を立て、胸の隙間から何か大切なものが落ちていく気がした。
「…くる、しい。」
訳もわからぬまま泣きたくなって、ツンとした鼻の奥を誤魔化すように鼻を啜る。
助けてほしい、誰かに。
絶対的な強さと誇りをもって。
再び込み上げた涙をどうにかして抑えようとしたその時、揺るぎない声が教室に響いた。
「何してんの、お前。」
振り返る。
不審そうに寄せられた眉。
射抜くような鋭い瞳。
そこに立っていた彼を、僕が間違えるはずがない。
「…え?」
絶対的に揺らがない彼。
誰も逆らえぬ王者の姿。
憧れ、焦がれ、強く惹かれたその人を前に息をのむ。
「ぇ、あ、えっと…。」
吃ってしまういつもの癖が、どうしようもなく焦ったい。
嫌な汗が背中を伝うのを感じながら、何か話さなければと頭を回した。
途端。
ガッ、と音を立てて机が揺れる。
見上げた視線の先で交わる瞳が、不愉快そうに僕を見ている。
「なぁ…邪魔、なんだけど。」
そのまま、机を蹴倒すような勢いで足を振り上げた彼が、僕の肩を突き飛ばす。
痛い。
なのに、何故だろう。
どうしてか、嬉しいと思ってしまう自分がいる。
僕を見据える強い瞳に、縋りつきたくなってしまう。
戸惑い、それでも、歪んだ感情に目を向けようとしたその時。
「お前といると、イライラする。」
ネクタイを掴み、僕を引き寄せたその人が、耳元で焦れたように囁く。
その真意を、僕に悟らせないままで。
夕暮れ。二人きりの教室。
運命の歯車が、カチリと音を立てたような。
そんな気配を、僕はどこかで感じていた。
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