第3話 『テーマ』ってなにそれ?美味しいの?とにかく書き始めようよ、そして止まらずに!の巻。

※以下の文章はあくまでも、とみき個人がお話を書く上で一番やりやすい書き方を述べています。

他にもっと優れた方法もあると思います。

どうぞお気軽にお読みください。

以下の文章はこの方法を使った個人の感想です。



やはり高校の頃の同級生で小説を目指していた友人がいる。

悲劇的な事に彼に完成作品と言える作品は還暦を過ぎても一つも無い。

そして彼は小説家と言うより批評家になれば?と言いたくなるほど他人の作品に厳しいのだ。


まぁ、腐れ縁だと思っている。


ある日、彼が家に遊びに来てパソコンの前に陣取り、私が書きかけの小説「吸血鬼ですが、何か?」を読み始めた。

休憩を入れながら5時間ほどパソコンのまえに陣取られて勝手に私が焼いたケーキを食べるわビールやワインを飲み始めるわ勝手に台所を散らかしてソルティドッグを作って飲むわ少し殺意が湧く程度に私は迷惑に思った。


陽が落ちて来て彼は初めて私に問いかけた。


「これ、結構面白いけど…テーマは何?」


ああああ~、彼は未だに罠にはまっていて完成作を書けない奴なんだなと実感した。


「…まぁ、生きるって何だろうか?と言うのがテーマかなぁ~?」


彼は納得したようなしないような顔をして缶ビールを開けた。


「テーマ」この言葉が今まで沢山の有望な素質を潰してきたのだと私は思っています。


例えば、愛は素晴らしい!戦争はいけない事だ!人間には無限の可能性がある!こんな事をテーマに書けと言われても大多数の人は混乱し書き出す事も無く挫折してしまうだろう。


「テーマ」これを決めた上で何か書かせる今の日本語教育で文章を書く上で必要な事だとは思うが、架空のお話を作り出す人間にとっては有害だと言えるものかもしれないと私は思うのだ。


愛は素晴らしい?戦争はいけない事だ?人間には無限の可能性がある?全部当たり前に思ってる事じゃんよ!


そんな大きな物を何のヒントも無く目の前に転がされてすらすらと文章を書ける、ましてや素敵なお話を書けるのであれば苦労はしないのですよ!


思えば私も若い頃にそんな罠に落ちかけてしばらく創作から離れた時期があった。


しかし、あるドキュメンタリー番組でアメリカの学校での小説創作の教室での教師の話に衝撃を受けた。


彼女は『テーマ』ではなく何かシチュエーションを考えなさいと言った。


愛は素晴らしいとか戦争はいけないとか大仰な事を言わずに、シチュエーションから考えろと。


例えば地下鉄で洪水に巻き込まれて車内に閉じ込められた人間達とか、夫の不倫で苦しんでいる妻の元に昔の同級生の男が現れたが、彼は体が不自由で車いす生活で生活に介助が必要であったとかエトセトラエトセトラ。


そんなんで書き始めて良いの?と当時罠に落ちていた私は思った。


そして彼女は更に衝撃的な事を言った。


「まずシチュエーションを考え、登場人物を考え、時代背景を考えてお話を書き進めなさい。

 そうすればあなたはまず、スタートを切る事が出来る。

 テーマ…それはあとから湧いてきます。

 人間として生きてきたあなたの人生の積み重ねが、あなたが磨いてきた感性がありとあらゆる問われるテーマに答えを出します。

 隠しようが無い、偽りようが無いあなたの人生自体が生み出したテーマがやがて姿を現します。」


衝撃的だった。

日本の学校やサークルや大学のゼミでもなかなかお目に掛かれない創作法だった。


ともかくスタートは切れるのだ。

よし、まずシチュエーションから考えよう。


そういう訳で私はいつものようにシチュエーションを考えた。


ブラック企業の社畜で人生に何の希望も持てない30代くらいの男がある時宝くじを当てた。


とりあえず生活に困らない収入を手に入れる仕事賃貸物件経営を始める。

そして、オカルト好きな男はネットをサーフィンしまくり、アルゼンチンの田舎の修道院に隠されていた吸血鬼が入っている棺をネット通販で購入して、儀式に必要な生贄の処女の乙女をマッチングアプリで探し出して…準備万端、復活させた吸血鬼がなぜか日本語を話していて。


これで私は書き始めました。

「テーマ」何それ美味しいの?


…邪道です。

はなはだ邪道なのかも知れません。


しかし私は書きかけと言えど少なくとも8か月以上1日も休まずにこのお話を書き続けている。

そして、テーマらしきものも見え隠れして来ている。

これが現実です。


正統にこだわって完成作を一つも生み出せないのとどちらが良いですか?

愚作になっても構わないのです。


何本も書けば良いのです。

いつか素晴らしいものを生み出す可能性が高くなります。


それでも崇高な事を考えて一つの作品を生み出さないよりはずっとましだし、作品に真剣に取り組んでゆけばいつか素晴らしいテーマも姿を現すかも知れません。


今まで一作も完成品が無いあなたに言いたい事は、まずシチュエーションを考えて書き始めようよ!


テーマなんて、後から湧いてくる!


隠しようが無い繕いようが無い逃れようが無いあなたの人生自体が生み出した決して逃れられないテーマが…きっと湧いてきます。


小説家に自殺が多い訳を最近実感しています。

たかがお話です。

たかが架空のおバカなお話に…私は命を削っていると死期を早めていると実感するほどにのめり込んでいます。



…ようこそ創作地獄へ。

己の魂の深淵を覗き込んでしまうかも知れない恐怖の、しかし抗いようが無い魅力に溢れた世界へ…ようこそ。

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