第十八話 欲望の果て

 例の土地はもともと入会地であったらしく権利の関係が複雑に絡んでいることが分かった。用地買収の話もまだ始まる一歩手前の状況だった。


 またすでに他の地権者や団体からも計画に反対する声があったらしく、候補地は別の場所を検討しているらしい。


 衛藤には自分の親が地権者の一人であり用地売却には反対であることを伝えておいた。まずはこれで様子見である。


 勇介は今回のことで正蔵に愛美を紹介すると、過去のことをすぐに思い出したようで、「あぁ、あの塩塚さんとこのねぇ」と懐かしそうに語った。


「なんだ、勇介も隅に置けねぇな」

「何いってんだよ、親父。彼女とは例の土地のことで来ただけだって」


「お前もそろそろ身を固めろ。会社のことは心配するな、優秀な奴はいるし、賢介の事業は元々他人のものだ」

「だから…」


 慌てる勇介の様子を傍目で見ながら優しく微笑む愛美。他人が見ても良好な関係だと思うだろう。

 

「すみません、兄があんなことになって、親父も大分老け込んじゃって」

「あんなことあれば当然です。でも本当にありがとうございました」

「いや、運が良かったですよ。地権者が親父で、計画もまだ始まったばかりだったし…」

 

 勇介は意を決して切り出した。

「もしよければ、ささやかですが祝勝会しませんか?」

「ええ、喜んで」

 愛美は少しの迷いもなく快諾した。



 それから、この地方では繁華街のある風橋に移動して、勇介が馴染みにしている料理屋で食事をした後、ホテルのラウンジで、ゆっくりと杯を傾けた。


 ホテル高層階からは眺望も良く、派手な夜景はないが市街地の灯りが点々と小さな星座のようにきらめいている。


 そこで他愛もない話や、身の上話などした。祖父母は既に亡くなっており、愛美は両親ともに名古屋在住で昼間は事務員、夜はたまにクラブでホステスをしているらしい。


「この辺は再開発でまだマシですが真城は本当に田舎でしょう?過疎もひどい。名古屋周辺の方が暮らしやすいでしょう?」


「あら、田舎でも綺麗なところですし、絶海の孤島というわけではありませんから。あちらいけませんね。東京のように洗練されていないのに変に都会風を吹かせて」


「意外と毒舌ですね」


「そう?事実を言ってるだけですわ。あの土地、すごく眺めのいいところみたいですから、いずれは真城に移住するのもありだなぁ、って真剣に検討しているんですよ」


 そう語る愛美を姿勢を正して、勇介は真っ直ぐ見つめた。


「愛美さん、私は田舎者ですが野心もあります。近い将来、政治家として立つ志もあります。今後も…その、会っていただけませんか…?」


 愛美は少し驚いた様子だったが、頷いてはにかんだ。


「私なんかで良ければ…よろしくお願いします」


「ほんとに、やった、いや、よかった」

 

 自信に満ちた有能な議員秘書が少年のように喜ぶ姿を女は気に入ったのか、男の口元に軽く口づけして妖艶に笑う。同時に花の蜜のような甘美な香りが身体を包んだ。


 ラウンジを出てエレベーターで勇介の欲望は暴発した。愛美を抱き寄せて遮二無二、その唇を奪う。


「駄目…だめです。あぁ…」


 愛美は顔を横にそらして少し抵抗する素振りをを見せるが、嫌悪感を示さず、潤んだ瞳で更に求める。


 よりねっとりと、更に唇を重ね舌をからませる。唾液が白く、糸を引いた。


 「あ…」


 部屋に入りベッドに押し倒すと、愛美の口から吐息が漏れた。甘美な音色に更に勇介の劣情が刺激される。花弁のようなブラウスをまさぐり、秘められた部分を探す。

 

 女はまた、より高い声で喘いで応える。


 男は女の肢体から溢れる香りと蜜を貪る虫と化していた。


 女も男をより濃い糖蜜の香りで秘部へいざない、触れ合う快楽で身体をくねらせる。


 そして、幾度なく寄せる悦楽の波に飲まれ、泥のような闇の中に堕ちていった。



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