第十話 狐狩り その一
渡辺颯、碓井愁泉らは翌日の早朝、後詰め部隊の春賀晃、卜部由華、金戸石かがみがと合流した。
「颯
「阿呆、違げぇよ!」
ワンボックスの運転席の窓からの開口一番がそれである。
特別機捜室第一行動班の面々は凪川稲荷の信者応対施設の一角を借り、簡易的な作戦本部を設置し、ミーティングを開始した。
「呪符を使ったというのが気になるな…外法師で人外の力を発揮する、とすれば」
「
神人とは本来下級神官のことを指す言葉だが、『ホクメン』としては、『突発性に後天的神通力に目覚めた者』という意味合いで用いる。大概が自らを神、神の化身と錯覚し騒乱を引き起こすのだ。
「でもそいつは颯兄とやり合った時は
「可能性は捨てきれないが、今のところ碓井さんの式神の探知には引っ掛からない」
「昨日から『ポインター』と『鷹』で探索しているが足取りが途中で途切れている」
真面目な碓井は颯を助けた後、直ぐに追手の式神を放っていた。が、狐面の行き先は市街地を抜けたあと、先程のポインターでも探知できなかった。
「ンぐ…んなら、由華ちゃんの『網』の出番やな」
「卜部、『
「やってみるけど、そうすると一般者と区別がつかないかもしれないよ?」
「構わない、探査網に掛からなかった地域は特定されている。市街地にはいないようだ。山間部に特定すればすぐに」
ガザ、パサ…
春賀、碓井、卜部らの会話の中に、度々雑音が混じる。
「おい、金戸石…」
「ミーティング中だぞ」
「しゃーないやん!こちとら夜明け前から運転して、これから
金戸石が袋菓子と炭酸飲料を抱えながらムキになって叫ぶ。持ち込んだ菓子類の音と咀嚼音が
頭を抱えながら春賀はこの自由奔放な班員をたしなめた。
気を取り直してすぐに春賀達は外に駐車したワンボックスへ移動した。外見は普通の車両だが内部は特殊なセンサー類、電子機器がひしめいており、特に最後列は黒い環状のバイザーと大小のケーブルが臓器のようにつながる座席が設置されている。
ここに座するのがこのチームの補助役、
『
「まず北緯34…」
運転席の背面に取り付けられたモニターにマス目に区切られた地図が投影され、その中にいくつもの赤い点がある。
「由華、生命反応、霊的反応の閾値を人間大にフィルタリングすればそう時間は掛からない筈だ」
「了解」
春賀の指示に従い、卜部が次々と座標位置を移しながら、それらしい存在を抽出しては消し、抽出しては消し、を繰り返す。
「ビンゴ…!これだ…」
地形図をマスクしたマップが映っている。その地形図のピーク地点から少し南にずれた所に2つの赤い点がある。
「これが噂の北別院ってヤツか…」
「ネットの地図上では施設や建築物の情報はありませんね。朽ちた神域をそのまま結界として転用していたので人間や式神にも見つけることはできなかったのでしょう」
「良くからんが、ようやく第二ラウンドだな」
これまでに退屈そうにしていた颯がいきいきと目を輝かせる。
「各員、これから『べついんさん』、いや狐を狩る――」
少年のように爽やかな笑顔で若い班長は班員たちに伝えた。
行動第一班は北別院への唯一のアクセス地点、山林部の林道の終点に到着した。
丁度そこから眺望が開けた地域があり、今回の目標地点が良く見える。
一見するとなんの変哲もない、植林帯の小さな尾根である。仮に好事家の低山ハイカーでも食指が動かないであろう。
そのピーク地点の直下に『凪川稲荷北別院』がある。
その上空には、
この地域に混乱と穢れを持ち込んだ存在がそこに潜んでいると思うと、取るに足らないその日常の風景が、禍々しいものに見えてくる。
すなわち高木と鴉は尖塔に、その
「各員、打ち合わせ通り配置につけ、十秒後状況開始」
すでに沢沿いの林道からは金戸石、そこから回り込む形で颯が待機している。バックアップは碓井。包囲戦を行うには心許ない人数であるが、彼らに不安の色は一切見えない。
「晃!北方向に移動する物体、人間じゃない、式神か人型よ!」
卜部からの報告と同時にモニターに紅い点が増える。奇っ怪な動きを見せるが、『天網』の前には全て掌握されている。が――。
何を考えている?獲物の悪あがきか、それとも――。若き司令官はモニターを睨み次の指示を出しあぐねていた。
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