向日葵と銀色の箱
那智 風太郎
1
その頃、僕の心は手の施しようもないほどにささくれていた。
家では三人兄弟の三番目。
七つ離れた一番上の兄は某有名私立大学を卒業し、誰もが知るエリートIT企業に就職して、現在は部署の有能株として期待されているらしい。
三歳上の姉は今年、名高い国立大学の医学部に進学。
地域有数の大型総合病院で外科部長をしている父も鼻高々な様子で目を細めている。
そして母は出産前に勤めていた雑誌社から時々依頼を受けて、小さなコラムを書いたりしている。またずっと以前から続けている子育てと教育についてのざっくばらんなブログも評判で、そのアフェリエイトだけでもずいぶんと大きな収入になってしまうと嬉しいはずなのにぼやいたりしている。
そんなハイスペックな家族の中で自分だけが平凡だ。
成績はいつも中の中。
兄と姉が通った私立のエリート高校にも進学できず、今は近くの公立高校に通っている。その学校でも成績は鳴かず飛ばず、かといって取り立ててスポーツができるわけでもない。性格も引っ込み思案で親友と呼べるような友達もいない。
そんな自分を家族は温かい目で見守ってくれている。
たまに一緒に食卓を囲んだりすると彼らは口々にこう言う。
「勉強なんてやり方のコツさえつかめば簡単だよ。
「そうよ、まだまだこれからだって。あ、お姉ちゃんの友達に家庭教師頼んでみようか?」
「まあ、そうだな。父さんも中学の頃までは落ちこぼれで、高校に入ってから一念発起したんだ。智史もやる気さえあればなんとかなるさ」
「無理しなくて良いのよ。自分のペースでじっくり焦らずやればいいの」
僕はそのひとつひとつのフォローにうつむいて肯くしかない。
気を遣ってくれるのはありがたいけれど、そんな風に優しくされるとますます惨めになってしまう。
僕は本当にこの家族と血が繋がっているのだろうか。
もしかすると生まれた時に病院から他の赤ちゃんと取り違えられたのかもしれない。そんな妄想が浮かんで目線を上げると、そこにはやはり自分によく似た家族の顔が並んでいる。
ささくれだった心を小さなため息にして吐き出すと、父親がふと思い出したように「そういえば」と切り出した。
「そろそろ親父の七回忌だな。お前たちはどうする」
そう問われると兄と姉はほとんど同時に首を横に振った。
「次の日曜だっけ。悪いけどプレゼンの仕上げで忙しいから無理だよ」
「ごめん、私もサークルの用事があるんだ」
母親は少し渋い顔をしたが、父はわりとあっさり了承した。
「まあ、かまわないさ。智史はどうする」
どう断ろうかと視線を宙に漂わせてみたが適当な言い訳を思いつかず、週末、僕は父の実家へと連れて行かれる羽目になった。
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