第21話獄上の厨房
「に、人間の聖女様がこのような場所になんのご用が――!? お、おやめください、この場所は私たち下位の魔族たちしか立ち入らぬ厨房ですよ!?」
その後、のえるは魔王城の地下、下級魔族の居住区に来ていた。
ベルフェゴールさえ名前を知らない、太り肉のオーク女が躍起になって止めるのにも関わらず、のえるは一切を無視するように油染みた厨房に分け入り、鋭い目で辺りを観察している。
その長いまつげに縁取られた目は明らかにいつもののえるの目ではなく、魔王でさえ気圧されるような何かの迫力と覚悟がある。
しばらく壁にかかっている道具、調味料の壺などをあれこれ検めて――ハァ、とのえるはため息を吐いた。
「よかった――ここは比較的まともだわ。なんとかなりそうでマジ安心した」
「せ、聖女様! 一刻も早くここをお出になってください! こんな不浄の場ともいえる場所に聖女様ともあろうお方が入られるなどとは……!」
「不浄? 不浄って何? マジ意味わかんないんだけど。ご飯食べることの何が不浄なん?」
ギロリ、と、のえるが物凄い眼光でオーク女をひと睨みした。
その迫力に、ヒィ、とオーク女が涙目になった。
「で、ですから、人間との戦いで負傷するような下級の魔族であればこそ、未熟にも食事などというものをしなければならないので、その……こ、ここは魔王陛下や聖女様ともあろうお方が来られるような場所ではないと……」
しどろもどろに言うオーク女の顔には、酷い火傷の痕があった。
固唾を呑んでこちらを伺っている他の下級魔族たちも、腕を失っていたり、足を引きずっていたり。
ここにいる魔族たちは、全て人間との戦いの中で傷つき、負傷した者たちが、怪我を癒やすために食事を摂る場所だ。
その一言に、のえるは一転して悲しそうな表情を浮かべ、ベルフェゴールを見た。
「ねぇベルベル、魔族ってみんなこうなん?」
「え――」
「上とか下とか、みんないちいちそんなこと気にして生きなきゃなの? 必要とか必要じゃないとか、そんなこといちいち考えなきゃなの? 美味しい料理をみんなで食べて、美味しいねって言う、ただそれだけの事も――魔族には無駄でしかないことなん?」
その問いかけに、ベルフェゴールは訳もなく胸を衝かれた気がした。
のえるはベルフェゴールから視線を外し、オーク女を、そして周囲で凍りついている魔族たちを眺めた。
「人間にはそういう時間が必要だよ? だって四六時中上とか下とか考えてたら疲れるばっかりじゃん。だから人間は食事の時間を大事にするものなんだよ。準備が面倒だからこそ、世の中がめんどくさいからこそ、美味しいものを作って、みんなで美味しいねって笑って、救われた状態でご飯を食べるもんなんだよ――」
その一言は、途轍もない衝撃を持ってベルフェゴールの胸を揺らした。
面倒だからこそ、美味しいものを、救われた状態で――それはベルフェゴールが知らない、否、忘れて久しい感覚。
のえるの言葉に、ベルフェゴールだけでなく、そこにいた下位の魔族たちもが、動揺したように顔を見合わせる。
野太いため息を吐いたのえるは、キッ、と目つきを鋭くさせた。
「ウチは嫌だ。この世界に馴らされてたまるかよ。ウチは死ぬまで美味しいもの作って、死ぬまで美味しいもん食って、死ぬまでゲラゲラ笑って生きてやるんだ。――ギャルは自分に正直だからギャルなんだって、みんなにも今から見せたげる」
ギャル。その一言に、オーク女が雷に打たれたかのように硬直した。
「ま、まさか……!」と素っ頓狂な声を上げたオーク女にも構わず、のえるは傍らにあったナイフを取り上げ、ボウルにうず高く積み上げられていた肉を切り分け始める。
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