第18話獄上の安眠
「お、おおぉ……送っちゃった……ウチのブラの写真……」
――一方、それを送り付けた方も、決して無事ということはなかった。
ベッドの上でアヒル座りになり、一度は大きく寛げたはずの胸元を第二ボタンまで留め直し、ぷしゅうぅぅと頭から湯気を上げながらスマホ画面を注視する白ギャル。
「やっば……思ったよりハッズ……! こ、これ、一度やってみたかったけど、実際やるとこんなにハズいんだ……」
魔族に優しいギャルこと恋し浜のえるはこう見えて清純派白ギャルである。
清純派白ギャルであるから――当然、人生で一度もしたことのない己の行いに、真っ赤な顔で涙目になりながら震えていた。
「大丈夫だよね? ベルベルは優しいしドーテーだからこの画像を拡散したりしないはずだし……それに水着とかになれば十分見えるぐらいの露出だし……」
なんだか物凄く、罪深いことをしている気になってきた。
世の中のJKには裏垢などという不埒なものを拵えてささやかな自己顕示欲を満たしている人もいると聞くが、なるほど、これはなかなか悪くないと思える。
何しろ自分はスタイルには自信があるし、着替えのときなんかは友人たちに代わる代わる揉まれて羨ましがられるぐらいで……。
「のえる! のえる貴様、なんということをするのだ!!」
裏返った声で怒鳴り散らし、貴賓室のドアをノックすることもなく入ってきたのは、魔王ベルフェゴールである。
「お、おお……ベルベル顔真っ赤で激おこじゃん。どしたん?」
「どしたん、ではない! おっ、おおおお前、あんなあられもない画像を人の脳内に直接送り込んできおって! 何を考えておるのだ、お前は!?」
「あ……あんなん単なるお戯れじゃん。どもりまくっててウケる。そ、そんなん見たいなら……もっと見せたげようか?」
こっちも羞恥心で死にそうなのを堪えながらスカートをぴらりと捲りあげると、ボフッ、と魔王が咳き込んで顔を背けた。
「あははウケる! JKの生足見て魔王が大ダメージ受けてやんの! このドーテー魔王、ムッツリすぎ!!」
「う、受けてにゃい……! 大ダメージなど受けておらん! とにかく、あのようなことはもう二度とするでない! 全くお前という女は一体何を考えて……!」
「だって……仕事してる時のベルベルって、ちゃんとウチのこと見てくれないじゃん? ムカつくからカマしったっただけだし」
あっけらかんとそう言うと、えっ、とベルフェゴールの目が点になった。
ベッドの上で胡座をかき、太ももに肘をつけて頬杖をついて、のえるはニヤリと笑った。
「ふひひ、今日初めてウチのことちゃんと見てくれたね、ベルベル。痴女した甲斐があったぜ」
その一言に、魔王の顔が物凄い勢いで赤面した。
やっぱりこの男、ウブだなぁ……と思っていると、突然ベルフェゴールが額に手をやり、うう、と苦しげに唸り声を上げた。
「え、ベルベル……?」
「き、急に叫んだら目の前が暗くなった……! けっ、血圧が急に……き、気持ち悪……!」
「え!? 言わんこっちゃない、ちゃんと睡眠摂らないからだよ! ここ来なさい、ここ!」
慌ててベッドの上をポンポンと手で叩くと、意外にもベルフェゴールは素直に従った。
ベルフェゴールはかなり重そうにベッドに腰を降ろし、まだ揺れているらしい頭を押さえている。
「ちょっとベルベル、大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込むと、なんだかただでさえ悪い顔色が土気色である。
相当に無理に無理を重ねていそうだった。
「ベルベル――」
「だ、大丈夫だ、少し目眩がしているだけだ。しばらくすれば元に戻る。そうなったら早く執務に――」
執務。その言葉が聞こえた途端、流石にイラッとした。
瞬間、のえるはベルフェゴールの両肩に手を置き、不思議そうな表情を浮かべたその一瞬を衝いて、その長身をベッドに押し倒した。
「んな――!?」
「にひひ、隙アリ」
そういう内にも、のえるは細い体でベルフェゴールの胸の上に膝を置いて伸し掛かり、起き上がれないように体重をかけた。
「こ、こら、お前何を……!?」
「あはは、声に力が入っていないんですけど? やっぱり過労死寸前じゃん。いいからここで休んでけし。ウチが見守っててあげるからさ」
「な、何を言う……!? 魔王たるものが何故にたかが人間の小娘に見守られる道理が……!」
「その人間の小娘に簡単に押し倒された魔王の言う事? いいから休んでけって」
その一言に、流石にこの魔王も敗北を悟ったらしかった。
ああ、と観念したように嘆息した魔王は、自らを恥じるように目を手で覆った。
「う……情けない、情けない限りだ……魔王たるこの俺がたった数日徹夜したぐらいでここまで弱るなど……しかもよりにもよって宿敵である聖女に世話を焼かれるなどとは……」
そこまで言いかけたベルフェゴールの頭を、のえるはそっと撫でてやる。
その挙動に、少しだけ驚いた表情でベルフェゴールがのえるを見た。
「この期に及んで意地張るなし。どうせ魔王になってからはこうやって頭なんか撫でられたことないんでしょ? ウチが見ててやるからさ、安心して休んでよ、ね?」
そう語りかけてやると、ベルフェゴールがむずがるように目を細めた。
その後、仏頂面が常だった顔がふっと緩み、瞑目したと思った途端、ベルフェゴールは驚くほど早く寝入ってしまった。
死んだように眠る、とは、まさにこんな寝方を言うのだろう。
よっぽど疲れてたんだなぁ、と、呆れ半分、安堵半分で、のえるはその寝顔を眺め続けた。
「寝顔だけは素直なのにさぁ、この魔王と来たら……」
呆れた言葉とは裏腹に、何故かとても楽しげに聞こえる自分の声。
そのまま、のえるはしばし魔王と呼ばれる男の寝顔を眺め続けた。
◆◆◆
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