第17話獄上のLINE

「え――! ?」




 ベルフェゴールは反射的に虚空を見上げ、こめかみに指を添えた。




「え――どうしたのベル坊?」

「い、いや、なんだか妙なイメージが……。これは……のえるが俺に対して通信魔法を使っておる……のか?」

「え? あの子、もう聖女としての素質に目覚めたの? 凄いじゃない」

「い、いや、なにかが違う……。そもそもこれは魔法なのか? 音声ではなくなにか文字が……!?」




 驚いているベルフェゴールの脳裏に、続いてなんだか妙なイメージが湧いた。


 水色一色の背景に、【魔王】という文字、なんだか妙な緑色のフキダシ枠のようなもの。


 そこに、これまた何だか妙な文字のイメージが浮かんだ。




【ファミチキください】




「な、なんだこれは……!? あ、あいつ、文字を直接俺の脳内に……!?」

「え、何よそれ? そんな妙な通信魔法ってあるの?」

「わからん……! 俺も今初めて見た! と、とにかく、これは俺も返信できるものなのか……!?」




 瞑目して意識を集中させ、ベルフェゴールは返信すべき文字をイメージした。




【聖女のえるか? 文字が直接脳内に届いておる。これは一体なんだ?】




 瞬間、ピロリン! という効果音と共に、のえるからのものなのであろうメッセージが再び脳内に展開される。




【あはは! マジクソウケる! 魔王って直でLINEに登録されてんのかよ!! 友だち追加してみたらLINE送れた! 腹いてぇ🤣🤣🤣🤣🤣】




 なんだ? なんなのだこの黄色い笑顔の丸は?


 それにLINE――LINEとはなんだ?




【LINEとはなんだ?】




 おっ、そう思ったら勝手に返信された。


 少し待っていると、素早く返信が返ってきた。




【ウチの世界の通話アプリだよ🤣 なんでベルベルの脳内に直接メッセージ送れるんだろう🤣🤣🤣】


【アプリという名前の魔法か。お前の世界にも魔法があるとは初めて知ったぞ】

 

【ねぇよそんなもん! 誰だって使えるアプリだって!】


【ぬ……アプリとはなんだ?】


【機械みたいなもの! すげー発見! ベルベルのツノって5G繋がるだけじゃなくLINEも繋がってんのかよ!!】




「……なんだか俺のツノに関して妙な発見が相次ぐな……。なぁシルビア、俺のツノってそんなに変か?」

「え? ツノがどうしたの? 立派で男前なツノじゃない。何がどうしてツノの話なんか……」

「い、いや、そうだよな。特に変わったところはないつもりなのだが……」




 そこまで言いかけて、再びピロンッと脳内に音が響いた。

 

 頭に浮かんできたのは、なんだか物凄く知性が薄そうな目をしたウサギの絵のイメージである。




【ウラララァラララウララァ】




 ――なんだこれは? なんなのだこの妙な鳴き声は?




【なんだこのブサイクなウサギは?】


【ちいかわのスタンプ】


【だからこれがなんなのだと聞いている】


【特に意味はない】


【意味がないのに送ってくるな】


【暇だしせっかくだから付き合えよ】


【今俺は執務中だ(💢 ゚Д゚)】




「――あ! なんだかイラついたら妙な記号が追加されたぞ……!」

「え、えぇ……? ベル坊、何を言ってるの?」

「これは……どういう原理なのだ? こんな魔法、俺も初めてだ……!」




【こっちは暇なんだよ。構えし】


【ぐぬぬ……こちらは忙しいんだ。頼むから大人しくしていてくれ】


【いつ暇になるんだよ。さっきの見てりゃ一生忙しそうじゃん】


【それが魔王というものだ】


【引退しちゃえよ】


【とんでもないことを言うんでない(💢 ゚言゚)】




「……おっ、なんかより憤ったら顔が更に怖い感じになったぞ! なかなか面白い魔法ではないか。よーし、もっともっと気張って怖い顔を……!」

「べ、ベル坊、本当にあなた大丈夫? その……過労による妄想とかじゃないわよね?」




 かなり心配そうな声でそう言われ、はっ、とベルフェゴールは我に返った。




「あ――い、いや違うぞシルビア! これは聖女のえるが俺の脳内に直接メッセージを送ってくるからそれに対応してるだけであってだな……!」

「本当? な、なんか傍から見てるとかなり心配なのだけれど……」




 ちょっとヒいた表情で言われると、今しがたの自分の言動は完全にそっちの方に足を踏み入れてしまった魔族の言動なのだと思わされ、ベルフェゴールは大いに慌てた。


 ゴホン、と咳払いをして着座し直し、ベルフェゴールは脳内にイメージした。




【のえる、これはマズい。傍から見てると完全に脳内で会話してる危ない魔族だと思われている】


【🤣🤣🤣】


【笑い事ではない。とりあえずメッセージ送付をやめろ。今後は送っても無視するからな】




 それだけを返信して、ベルフェゴールはキリッとした顔を意識して前に向き直った。




「いやすまん、今のえるにメッセージを送ってくることをやめるよう言った。もう大丈夫だ」

「そ、そう? あなた、本当にダメそうだったら一人で抱え込まずにお医者様に相談するのよ?」

「や、やめてくれ、そういうんじゃないから……! とにかく、執務を続けるぞ」




 ベルフェゴールが書類を手に取った瞬間、物凄い勢いで脳内に音が鳴り響いた。




【構え】


【構えし】


【構えって】


【ウラララァラララウララァ】


【ウラララァラララウララァ】


【ウラララァラララウララァ】


【ツツウラウラ】


【ウラララァラララウララァ】


【ウラララァラララウララァ】


【ウラララァラララウララァ】


【かーまーえ! かーまーえ! かーまーえ!!】


【かーまーえ! かーまーえ! かーまーえ!!】




 圧が、圧が凄いんじゃあ。


 書類を手に取る手が、プルプルと震え始めた。


 それでも努めて無視していると、不意に、さっきまでピロピロうるさかった電子音が止まった。


 ようやく諦めてくれたか。ホッと気づかれないようため息をつき、サッパリ頭に入って来ていなかった書類に目を通し直そうとした、その時。




 ピロリンッ、と音が鳴り響き、一枚の画像イメージが頭の中に流れ込んでくる。


 ん? この魔法は画像の送付もできるのか――と思った、その瞬間。




「んんボフゥッ!?」

「ギャ――!?」




 ベルフェゴールは思いっきり噎せて、激しく咳き込んだ。




 その時、頭の中に流れ込んできたイメージ。


 それはベッドの上でワイシャツのボタンを幾つも外し、豊かな胸を包んでいるピンクの下着が見えるほどに胸元を寛げ、目元を手で隠した――聖女のえるの半裸体を自撮りしたもの。


 いまだおいそれと触れたこともない女体の、それもかなりあられもない姿を直接脳内に流し込まれ――齢三百歳を数えし童帝であるベルフェゴールの頭脳は一分間10000回転のフルスロットルでパニックを起こした。




【これでどうだ! これ以上無視るなら乳首見せたろかこのドーテー!】




「ゴホッ! ゲホゲホ……! ゴホ……!!」

「べ、ベル坊大丈夫!? お医者様呼ぶ!?」

「ゴホ、ゴホォッ! ゲホゲホ……! ガ……!!」

「ちょっと本当に大丈夫なの!? ちょっと誰か! 魔王陛下が崩御しちゃう! 誰か来て!!」

「よ、よいシルビア。違うのだ……これは違う、病ではない。聖女のえるのせいなのだ……!」

「え、えぇ……!?」

「だあああーっ、くそ! もう執務なんぞしてられるか! あのアマ、魔王たるこの俺をからかいおって……!!」




 バシバシと執務室の机を両手で叩いて怒鳴り散らして頭を掻き毟り、ベルフェゴールはゆらりと立ち上がった。




「シルビア、午前中の執務は全てキャンセルだ! 俺は今から聖女のえるのところに行く!」




 えっ? とシルビアが目を丸くしたのに、ベルフェゴールは怒りに燃えて宣言した。




「あの小娘め、ドーテーだ魔界大帝だと人を小馬鹿にし腐りおって! いっぺんガツンとオニャンと言ってきてやる! どうしても裁可を急ぐ書類はアヴォスを通せ! ハンコ捺すだけならお前でも可、よいな!?」

「は、はい、魔王陛下……」

「ぐぬぬぬぬ、あの小娘、あの小娘ェ……! たかが裸を見せたぐらいでこの魔王が倒せると思ったか! 待っておれ聖女め……!」




 そのまま、肩を怒らせてノシノシと執務室を出てゆく魔王を呆気に取られて見ながら。


 無人の執務室に一人残されたシルビアは――プッ、と噴き出した。




「なんだか知らないけれど……数百年ぶりに楽しそうね、あの子」




 その後しばらく続いた笑い声を、誰も聞いたものはいなかった。




◆◆◆




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