第10話獄上の貴賓室①
「うおー! ここがウチの部屋!? スイートルームじゃん! 鬼ヤバ!!」
その後、これから生活してもらう部屋に通されたのえるがキャッキャと騒いだ。
なんというか、ギャルとはどうにも騒がしく、なおかつ素直な種族であるらしい。
確かに、この貴賓室に揃えられた調度品や家具、寝具は全てが魔族謹製の最高級品であり、どれもこれも贅が尽くされたものである。
感嘆の声を上げながら部屋の中を跳ね回るのえるを、ベルフェゴールは呆れて見つめた。
「何をそんなにはしゃぐことがある。そりゃ貴賓室なら豪華なのが当たり前ではないか」
「んもぉー、そういう言い方がホント可愛くないね。テンサゲ星の王子かよこの魔王は。ないわー」
のえるがムッとした表情でこちらを睨んだ。
「人生はこういうのにいちいち感動してフレッシュ感拾ってかないとでしょ。あんまりテンション下がるようなことばっか言ってると感性枯れるよ?」
「……これは驚いた。お前の口から感性などという高尚な単語が出てくるとはな。お前に関する認識を一部改めさせてもらうぞ」
「あっ、どーいう意味だよ! これでもウチ国語のテストでは一回も七十点以下取ったことねーし! 馬鹿にしてんのか!」
「ふん、間違ったことを言ったつもりはない。語彙な豊富で感性豊かな女が童貞だなんだと人に平然と口にはするわけがなかろう」
腕を組み、フン、と鼻息をつくと、むぅーっとのえるの白い頬が膨れた。
ようやくこの聖女に一泡吹かせた気持ちになったベルフェゴールは、まぁよい、と雑談を打ち切った。
「とにかく、今後お前はこの部屋で寝起きしろ。一応、お前専用のメイドは用意する。必要なものは何でも言え」
ベルフェゴールは矢継ぎ早に説明した。
「今後はお前がどのように大予言者の予言を現実にしてゆくのか、方法はこちらで探る。今後の生活については何も心配は要らぬ。わかったな?」
のえるが頷いたのを見て、よし、とベルフェゴールも頷いた。
「それなら、今日はゆっくりと安むがいい。今日は遅くまで突き合わせてしまって悪かった。それでは俺は執務に――」
「ちょい待ち」
踵を返そうとした途端、ぐいっ、とマントを掴んで引っ張られ、グェ、とベルフェゴールは潰れた声を上げた。
「そっ、そこを掴むな! せめて口で言って振り向かせろ!」
「寝る前に自撮りしとくから。ベルベル、ちょっとかがんで」
相変わらず、この聖女は人の抗議をスルーするのが上手い。
ちょっとムッとして顔を上げかけたベルフェゴールの長身は、次の瞬間、するりと首に回ったのえるの腕によって強制的に屈まされてしまっていた。
「な――! ちょ、おい……!」
「動くなっつーの。今自撮りしてんだから……」
いや、こちらにもちょっと心の準備というのものが――!
何しろ、三百年間も女の子と手を繋いだことすらない魔王のことである。
のえるの端正な顔が自分のすぐ横に迫り、身体を密着させられただけで、もうその後どうすればよいのかわからなくなる。
あ、あう、と困っていると、のえるがなにか板のようなものを取り出し、自分たちの顔にかざすようにした。
「じ、自撮りとはなんだ!? なんだこの板は!? おっ、お前ぇ……! 一体魔王に何をする気なのだ!?」
「うわ、うるさいなぁ……心配しなくても今やって見せっから」
次の瞬間、のえるの手に握られた板に、パッと自分とのえるの顔が映り込み、ベルフェゴールはぎょっとした。
四角く切り取られた窓に、満面の笑みを浮かべたのえると、その横で魔王のものとも思えない間抜け面をした自分の顔が映り込んでいる。
これは……何かの魔導具だろうか。そんな事を考えた刹那、パシャリ、という音と共に、画面が発光した。
「よし、これで魔界初自撮り完了。……あははは! ベルベルの顔、ちょー固まってんじゃん! ウブかよこの魔王!」
爆笑しながら、切り取られた己の間抜け面を見せられ、流石の魔王もかなり居心地悪い気分になった。
「な……なんだこの魔導具は!? 見たところ念写機のようだが、こんなことをして一体何になるというのだ!?」
「え……何になるとかないじゃん? この部屋がちょー豪華だから、思い出として取っておきたい、みたいな?」
「だっ、だからって、何故俺まで映す必要があるのだ!? そんなもん一人で勝手に撮ればよいではないか!」
「そういう言い方が可愛くないなぁ。この部屋ってベルベルが用意してくれたんだよね? せっかくだし写っとけし」
その板をひらひらと振りながら、のえるは一転して蠱惑的な表情になり、ニヤニヤと自分を見つめる。
「ベルベルの初自撮り、ウチがもらっちゃったね?」
なんだかよくわからないが――その一言が途轍もなく恥ずかしいものに思われ、思わず魔王はむぐっとうめき声を上げた。
その様をさも楽しいもののように見つめながら、ハァ、と、のえるが太いため息を吐いた。
「まぁでも、こんなもの撮ってもこの世界じゃ電波入らないし、インスタにもストーリーにも上げられないんだけどね」
なんだか、一転して物凄く沈んだ声に聞こえた。
電波、インスタ、ストーリー、という単語に、それが異世界の文明なのだろうとベルフェゴールは理解した。
「この世界、なんかスマホの充電は減らないらしいんだけど、召喚されてからずっと圏外だしなぁ。せめて一瞬だけでも電波が入ってくれればお父さんに連絡取れるのに……」
お父さん。その単語に、ベルフェゴールも何かを察した。
一瞬、その単語を出した瞬間、のえるの顔が凄まじいまでの焦燥と絶望に揺れた気がして、ベルフェゴールははっとした。
「もう呼び出されて一週間だしなぁ……そろそろ留年とかも危ないし、元の世界のみんなもウチのこと心配してんだろうな……」
今の目、今の目には、見覚えがある。
あの、己の運命を変えた炎の夜に。
血膿に塗れ、悲鳴と怒号が渦巻いていた村の中で。
赤々とした炎の逆光に照らし出された、絶望の坩堝の中にいる女の目――。
「のえる、お前……」
これはいけない。このままでは、この聖女までがあの女と同じ運命をたどることに……。
そう言って一歩、のえるの小柄に歩み寄ろうとした、その瞬間。
「ん……? ……あれ!? 嘘!? で、で、電波入ってる――!?」
◆◆◆
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