第8話獄上の会議
魔王城ガリアス・ギリ――それは魔界の都であり、この地上に生きとし生ける魔族の最終防衛拠点である。
都市を丸ごと取り囲む高い城壁、幾重にも幾重にも魔法結界が張られた門を馬車が通過して一時間と少し。
馬車は魔王城に到着し、魔王ベルフェゴールと聖女のえるはその最上階、魔王の玉座の間にいた。
「全員集まったな。それでは魔王臨席の最高首脳会議を始める」
ベルフェゴールがそう言うと、うぐっ、と、隣に着座したのえるが物凄く居心地悪そうな顔で唸った。
「議題については既に聞き及んでおろう。議題はここにいる聖女、恋し浜のえるが、かの大予言者の予言に謳われた通りの、ギャルという種族を自称していることについてだ。そしてもしや彼女こそが伝説に名高き、魔族に優しいギャルなのかもしれぬことについて――」
これを聖女のえるが元いた世界の人間が聞いていたら、随分珍妙な議題の会議だと失笑することだろう。
ここにいるギャルが魔族に優しいギャルであるかどうか、それが世界の命運を左右するのだという内容の会議など、傍から聞けば噴飯ものというほかない。
だがベルフェゴールも、その場に着座した魔王軍四天王の面々も真剣である。
何しろここにいる連中は、全員が過去数百年に渡って人間と死闘を繰り広げて来た連中なのである。
それであるからこそ、人間か魔族、どちらかが絶滅するまで戦い続けるより、融和を選択できた方がいいと、経験から判断できる連中なのだ。
「ついに……」
グスッ、と、湿った洟の音で早速口火を切った奴がいた。
ベルフェゴールの三倍はある巨躯を窮屈に椅子の上に留めた巨大な牛の魔人は、厳つい顔をぐしゃぐしゃに歪め、持参した白いハンカチで頻りに目元を拭っている。
「遂に現れてくれたか……魔族に優しいギャル様が……。死んだ婆ちゃんがよく聞かせてくれた……いじめられ、泣きながら帰ってきた俺に……」
聖女の出現に感動しているのか、はてまた死んだ婆ちゃんを思い出して泣いているのか。
魔王軍四天王の一人、筋骨隆々で凄まじい強面のベヒモスである【暴虐】のギリアムは、何故なのか既に感極まってしゃくり上げている。
「今がどんなにつらくとも、いつか魔族に優しいギャル様が現れ、お前を慰め、頭を撫でて救ってくださるんだと……俺は今日この日までずっとそれだけを信じて頑張ってきたんだ……う、ぐすっ、頑張ってきてよかった……!」
「おいギリアム、泣くか思い出語りするのかどちらかにしろ。お前がその話をし始めると長いんだよ……」
【大賢愚】アヴォスが顔をしかめて嗜めるのにも構わず、ずびーっ! とギリアムはハンカチで洟をかんだ。
小さなハンカチはそれだけで粘液まみれになってネチャネチャになる。
「俺は……俺は信じるぞ! 誰が否定しようとも、そこの聖女様が魔族に優しいギャル様であることを信じる! 婆ちゃんが俺に嘘を言うはずがない! 俺は婆ちゃんと、そこの聖女のえる様を信じるんだ!」
ギリアムが野太い声でそう宣言し、会議は一ポイント、のえるに有利になる。
と――そのとき。のえるが急に席を立ち、トトト……とギリアムに駆け寄ると、その巨躯によいしょよいしょとよじ登り、自分の数倍はあるギリアムの頭を抱えて撫で始めた。
「なんかよくわかんないけど……ウチのこと待っててくれたんでしょ? おおよしよし、ウチも婆ちゃんがいるからわかるよ。婆ちゃんは間違ったことは絶対言わないからね……」
その行動に、四天王の面々が驚きにどよめいた。
まるで子どもをあやすかのようにギリアムの頭を撫で始めたのえるに、ギリアムの巨体がブルブル震えた。
「お、おおおお……! 優しい! 婆ちゃんみたいに優しい! 伝説と婆ちゃんの言ったことは本当だったんだ! ありがとう、ありがとうございます聖女のえる様! 俺のような怪物にも優しくしてくださるなんて!! うおおおおおおん!!」
ヒィィィィアッヒィィィィ、と、感極まりすぎた様子で泣き喚くギリアムと、飛び散る涙とよだれにも構わずそのギリアムを慰め続けるのえるを見て、驚いたとも呆れたともつかない表情で正面に向き直ったのは、物凄く露出の多い格好をした褐色肌の女魔族である。
「フフ……なんだかよくわかんないけど、面白いコじゃないの。ギリアムにも怯えないどころかその頭を撫でるなんてね。流石の
「シルビア……お前、単に面白がってるだけだろう。あと、彼女には手を出すなよ。お前は人間と見ればとかく干からびさせるのが趣味だからな……」
「あらぁ? 味見程度はご愛嬌でしょ? それに今の、干からびさせなければ味見してもいいってこと?」
「
流石にベルフェゴールが嗜めると、あらあら、と魔王軍四天王の紅一点、淫魔の【
彼女は四天王の紅一点であるだけではなく、魔族の中でも最長寿クラスの人物であり、一説によると七百年以上は確実に生きているとかいないとか。
魔族の長老として、本来は「大ババ様」とでも呼ぶべきところだが、そこは腐り果てても女。その呼び方をすると本人は烈火の如く怒るので、仕方なく周囲はやんわりと「大姐様」と上げて呼んでいるのだった。
「おっ、おおお! なんだか黒ギャルみたいな人がおる! 初めましてお姉様、私、恋し浜のえるっていいます! うほぉー、おっぱいでっか!!」
その千年を生きる女魔族にも、流石というかなんというか、このギャルである娘は物怖じしない。
のえるが目を輝かせ、シルビアに頭を下げると、シルビアが一層笑みを深めた。
「あらあら、こう見えてなかなか礼儀正しいのね。それなのに距離の詰め方が上手……あなた、さっきから見てたらやっぱり
「えっ、ええっ!? お姉様ってサキュバスなんですか!? 道理で肌とかツヤツヤ……! あっでもウチ、清楚系ギャルが売りなんで! まだサキュバスは遠慮しときますよ!」
「あら、それは残念……でもいいわ。今からでも考えが変わったらいつでも手ほどきしてあげるわ」
「ところでお姉様のこのネイルって自ですか!? それとも付け爪ですか!? めっちゃ綺麗! こんなグラデーションするんだ!」
「あらあら、この爪の事を褒めてくれた人間は初めて、嬉しいわぁ。……とにかく、私もこのコが魔族に優しいギャル様であることに一票」
これで二票、聖女のえるは魔族に優しいギャルであることになった。
ぐぬぬ、と悔しそうにアヴォスが顔を歪めると、「でもさぁ……」という子供の声が発した。
「そもそも、魔族に優しいギャル様、っていう概念が曖昧じゃない? 頭を撫でてくれたり礼儀正しかったりすることが単純に僕らに優しいってことにはならないと思うよ」
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