第5話魔界は獄上だ

 ビキビキ……という音と共に、不毛の大地の空間に亀裂が生じた。


 その亀裂を足で蹴って広げながら、聖女のえるを抱え上げたままのベルフェゴールは魔界に到着した。




「う、うぇ、気持ち悪ッ……! エレベーター乗った時みたいな……」

「ああ、ただの空間酔いだ。数分もすれば治まる」

「そ、そうなんだ……っていうか、とりあえず降ろして! 自分で歩くし!」

「ん? ああ、そうか?」




 そっけない一言と共に、ベルフェゴールはのえるを地面に降ろした。


 のえるはしゃがみこんでオエッとえづき、口元を手の甲で拭った。




「う……! は、はぁ、やっと気分が落ち着いてきた……。そんで、ここが魔界?」

「ああそうだ。ここがいわゆる魔界……魔族領の中心部だな」

「中心部って……なんにもないじゃん。草も木も生えてない……」




 のえるが辺りをきょろきょろと見回した。


 見回せども見回せども、目に入るのはやせ細り、一枚も葉をつけていない立ち枯れの痩せ木ばかり。


 土には水気も何もなくひび割れ、風が吹く度に砂埃が上がる。




「魔界とはこういうものだ。元々空気中の魔素が高すぎて、まともな動植物は生息できない。そんな過酷な環境に適応した種族が、いわゆる魔族ということになる」




 ベルフェゴールは短く説明した。




「魔族は生まれついて高い魔力を持っていて、身体も頑強で長寿だ。しかし繁殖力で魔族に勝る人間どもは己たちだけで魔素の薄い世界を独占し、俺たちを穢れた存在だと迫害した。それに対する反抗こそが今の戦争のそもそもの発端なのだ」




 荒涼とした大地を眺める己の目に、人間たちへの明確な憎悪が混じった。




「俺はそんな状況を打破するべく魔王になった。以来百年……戦線は一進一退を繰り返している。だが今回は違うぞ。聖女のえるの身柄はこちらが手中に収めた。必ずや人間どもを駆逐し、この世界に魔族たちの獄上なる王道楽土の建設を……」




 瞬間、独りごちるベルフェゴールの前にのえるが立った。


 ん? と視線を下に落とすと、なんだかムッとした表情ののえるの両手がベルフェゴールの眉間に伸び、眉間の皮をぐいぐいと親指で広げ始めた。




「え……? あ、あいだだだだだ! な、何をするッ!?」

「もぉー、初っ端からそんな怖い顔で怖い話するからビビっちゃったじゃん! 伸ばせその眉間のシワ!! 伸ばさないならウチが強制的に伸ばす!!」

「や、やめろ! どういう物理的解決法なのだ!? てっ、手を離せ!」

「なら怖い話やめろ! それにウチを手中に収めたって何!? 人をモノみたいに扱うな! ベルベルがウチを使って戦争する気なら絶対に協力しないからね!」




 はっ、と、ベルフェゴールはその指摘に正気に戻った。


 そうだ、ついついいつもの癖で、どう戦争に勝つかを考えてしまっていた。


 しゅん、とベルフェゴールは肩を落として項垂れた。




「す、すまん……何しろ三百年間も戦時であったから、思考が戦争専用になってしまっておるようでな……」

「戦争専用って……物騒だなオイ。とにかく、ウチは絶対に戦争には参加しないからね。人も殺さないし魔族も殺さない。それが守られないならウチを人間界に帰してもらうから」

「う、うむ、肝に銘じておく……」




 すっかりと意気消沈したベルフェゴールを見て、流石ののえるもお説教はこれぐらいと思ったらしい。


 もういいよ、と肩を叩かれて、ベルフェゴールは顔を上げた。




「そんで、これからどこ行くの?」

「まずは俺の居城であり、魔族の本拠地である魔王城ガリアス・ギリへ来てもらう。しばらく歩くぞ」

「え? 瞬間移動したのに?」

「魔王城とその城下には人間たちが攻め入ってこられぬよう、俺が結界を張っている。その中へ空間魔法で転移しようとすると、張った本人の俺でさえ塵になってしまう程の強力なヤツをな」

「ぶ、物騒な……! 自分で張った結界に自分が負けるの!? なんかおかしくない!?」

「俺だって永久に地上最強という訳にはいかぬ。いつかこの世界に俺を超える強者が現れぬとも限らんのでな。ということで、歩くぞ。ついてこい」




 言うが早いか、ベルフェゴールはのしのしと歩き始めた。




◆◆◆




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