第4話獄上の激戦

「いたぞ、聖女だ! やはり既に魔王と接触している!」




 その殺気立った声とともにやってきたのは、この聖堂を守っていたはずの僧兵たちだ。


 人数は二十人ほど。いずれも服装や装備を見れば、生え抜きの精鋭ぞろいであることがわかる。




「ふん、やはり真っ先に俺ではなく聖女を狙ったか。獄上だ――」




 ベルフェゴールが顔を歪めると、聖女のえるがぎょっとした。




「うぇ――!? う、ウチを!? なんで……!?」

「人間どもなら考えそうなことだ。有事の際は優先的にお前を始末するようあらかじめ言い含められていたのだろう。俺の手の中に落ちるぐらいならば消す――貴様らがここに来たのはそのためなのであろう?」




 のえるが息を呑んだ。


 僧兵たちは問いには答えず、ただただ憎悪の視線でベルフェゴールを睨みつけ、殺気立った声を発した。




「聖女は止むを得ん! 何があってもここで魔王を仕留めろ!! 合体魔法を実行するぞ!」




 僧兵の一人が号令した途端、バチバチ……と僧兵たちの身体が発光し、溢れ出た魔力が渦を巻いて僧兵たちの頭上に集まった。


 一人一人の魔力量は微量でも、合体させればそれなりの魔力にはなる。今まで魔族が人間たちに辛酸を舐めさせられてきたのは、この集団性、お互いを庇い合い、助け合う習性故だ。




「愚かな……その力を同族殺しのために使うか」




 途端、ピリッ、と空間を揺らした何かの波動に、のえるがはっとベルフェゴールを見た。


 鮮烈な怒りと共に立ち上った黒いオーラが聖堂内を震わせた途端、僧兵たちの頭上に集まった魔力が強い輝きを発した。




「これで終わりだ、【焦熱の魔王】!! 【上級光槍パラディンアロー】――!!」




 その詠唱とともに、鋭い槍の形に変形した魔力がベルフェゴールに向かって飛翔する。


 波の魔族なら、触れただけで蒸発するほどの魔力の奔流を前に、ベルフェゴールは首を傾げて骨を鳴らし――。




 瞬時、唇を尖らせ――プッ、と、息をひとつ吹きかけた。

 



 凄まじい轟音が発した。


 ベルフェゴールが吹きかけた吐息に、魔力の槍は一撃で掻き消されて霧散し――僧兵たちのその背後、崩れかけの大聖堂の壁もが豪快に吹き飛んだ。




「え――!?」




 一瞬、僧兵たちは何が起きたのか測りかね、呆けた表情で吹き飛んだ背後の壁、そこから覗いた夜空を振り返る。




「俺を仕留めるだと? 笑わせるな。――貴様ら程度が殺そうとしたぐらいで、この俺を殺せると思ったか?」




 その言葉に、僧兵たちの表情が凍りついた。




「ば、馬鹿な……!? こっ、この人数の合体魔法を魔力も使わずに吹き消しただと……!?」

「痴れ者が。この期に及んで貴様らの目の前にいる存在を一体何者だと思っている」




 その言葉と同時に発した、魔王ベルフェゴールの圧倒的な魔力――。


 その魔力の量、禍々しさ、何よりも、その信じられない程の冷たさに、居並んだ僧兵たちの身体が竦んだ。




「我こそは【焦熱の魔王】ベルフェゴール。果てることなき怒りとかわきとで世界をき尽くす者なり――曲がりなりにも俺に魔力というものを使わせたいのなら、貴様ら如きの人数では到底足りぬわ」




 オオオオオ……と、地獄の亡者が上げるような唸りとともに、聖堂の中にどす黒い魔力が満ち満ち、まるで波濤のように荒れ狂う。


 その魔力に触れただけ、否、その魔力を目の当たりにしただけで、僧兵たちは最早微動だにすることも叶わず、中には涙すら滲ませてガタガタと震えを起こすものまで。




 敵わない――今自分が死力を尽くしたところで、髪の毛一本散らすことさえ出来ぬとわかる、その圧倒的な存在の差――。




 それを否応なく理解させられてた様子の僧兵どもを睥睨し、ベルフェゴールは魔王の声で恫喝した。




「さぁ、恐れ多くもここは魔王の御前なるぞ。まず我が牙によって果てようという者は進み出るがよい。その勇ある者には我に挑む無礼をも許そう――さぁ、どうする!?」




 天地を砕くようなその一喝に、まず一人が悲鳴を上げて逃げ出した。


 それを見た僧兵は一人、また一人と、血相変えて遁走し始めた。




 覚悟を決めて俺の前に現れた精兵が、この程度の恫喝で逃げ出すものか――。


 不審に思ったベルフェゴールは瞬時、眉間に意識を集中させ、探知魔法の感知野を広げる。


 この聖堂、宮殿の隅々まで魔法的反応を探ったベルフェゴールは――崩れかけた聖堂の壁や柱のあちこちに魔法陣が刻まれているのを探知し、チッと舌打ちをした。




 ベルフェゴールは聖女に向き直ると、硬直したままの身体に腕を回し、力任せにその細い体を抱き上げた。


 いわゆるところの、嬉し恥ずかしお姫様抱っこ――。


 有無を言わさぬその挙動に、うぇぇ!? とのえるが悲鳴を上げた。




「ちょちょ、ベルベル――!?」

「聖女のえる、状況は更に悪くなった。悪いがお前の意志を確認している暇はない。至急、魔界に来てもらうぞ」

「ちょ、まだウチ、今までお世話になったみんなにベルベルのこと話してないし! せめて自分の意志で攫われたってことは――!」

「無駄だ。間もなくここは人間どもの手によって跡形もなく爆破される」




 はっ――!? と、のえるが目を見開いた。




「この聖堂のあちこちに爆裂魔法の魔法陣が刻み込まれているのを探知した。残虐な人間どもめ、お前ごと俺を吹き飛ばしてカタをつける気らしい。元より奴らはお前個人の身の安全など毛ほども考えておらん。――残念ながら、それがこの世界の人間の正体だ」




 聖女のえるの顔が蒼白になった。


 カタカタ……と、抱え上げた腕にまで伝わる震えを感じて、フッ、とベルフェゴールは笑った。




「何、案ずることはない。何人なんぴとが来ようとも、最早お前を害することは出来ぬ。何しろ今お前の目の前にいるのは、地上最強の存在――【焦熱の魔王】なのだからな」




 安心させるための一言だったのに――何故なのか、聖女のえるの顔が物凄い勢いで桜色に色づいてしまった。


 ん、なんだろうこの顔は……と見つめてから、ベルフェゴールは決然と宣言した。




「まぁよい。魔界まで空間跳躍の魔法――瞬間移動を使うぞ。少し気分は悪くなるかも知れないが耐えてくれ」

「そ、そういうことじゃ……! ちょ、ベルベル、この抱っこのされ方は恥ずかしいって……!」

「悪いが今は細かい注文を聞いている時間はない。しっかり掴まれ、息を深く吸え。いくぞ――【断空デジョン】!!」




 その宣言とともに、魔王と聖女のえるの姿が忽然と消失し。


 間に横たわる空間も時間も丸ごと跳躍し、ベルフェゴールが魔界へと消えた数秒後――大聖堂は紅蓮の炎を吹き上げて爆発し、サンカレドリアの夜空を爆炎で赤く染め上げていった。




◆◆◆




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