うさぎさんのたね

summer_afternoon

ささくれ

 おとうさんがつめをきってる。

 パチン、パチン。カバーつきのつめきりをもつ、でっかいてには、でっかいつめがついてる。つめのよこ、たねがはえてた。


 えほんのうさぎさんをみた。たねをまいてる。おんなじ。

 うさぎさんは、たねをじめんにまいて、しろいじょうろでおみずをあげている。ページをめくると、じめんからはっぱがはえてる。


 たねはちいさなさんかく。

 おんなじ。おとうさんのつめのよこにはえてるのとおんなじかたち。


 このまえ、ふれあいどうぶつえんでうさぎさんをだっこした。てはちっさかった。えほんのうさぎさんのてとたねのおおきさをくらべる。だっこしたうさぎさんをおもいだして、たねのおおきさをかんがえる。

 まちがいない! おとうさんのおやゆびはたねをはやすんだ。

 

 さすがおとうさん。なんでもできるもん。たかいたかいができる。くるまのうんてんができる。パソコンにじをかける。みみくそをとおくにとばすこともできる。


 おとうさんはつめをきったあと、つめのよこのたねをきった。それから、ゴミばこのところで、つめきりをとんとんした。


 チャンス。


 ゴミばこのなかみをおえかきちょうのうえにだした。


「なにしてんの?」


 おとうさんがテレビをみながらきく。


「さがしてる」


「ふーん」


 おとうさんは、へんじだけして、おかあさんのところへいってしまった。

 

 おおきなゴミをゴミばこにもどしていくと、おかしのかすとつめとたねがのこった。だいじ。おりがみではこをつくって、たねをいれた。


 よる、ゆめをみた。

 たねをまいてみずをあげたら、はっぱがでてきた。もっとみずをあげたら、どんどんおおきくなって、もっともっとみずをあげたら、はっぱがポテトチップになった。


 つぎのひ、ほいくえんからかえって、たねをまいた。

 しんぱいなのは、1つしかないこと。うさぎさんはいっぱいまいていた。

 きっとだいじょうぶ。また、おとうさんがはやしてくれる。ひげだってすぐはえるもん。


 にわのすみ。はみがきコップでみずをあげた。


「なにしてんの?」


 せんたくものをとりいれてた、おかあさんがきいた。


「ひみつ」


 ポテトチップがなったら、さいしょにあげよう。きっとよろこんでくれる。


「えー。おしえてよぉ」


 おかあさんは、わらいながらこちょこちょしてきた。いっぱいこちょこちょされてじめんにねっころがってわらった。



 まいにち、はみがきコップでみずをあげた。

 まいにち。まいにち。



 ぜんぜんはっぱがでてこない。

 やっぱり1つではダメだったんだ。

 おとうさんのてにはあたらしいたねができていない。


「いたっ。なにすんだよ」


 ソファにねっころがっていたおとうさんのつめのよこから、たねをちぎった。これはほんものじゃない。だって、うさぎさんのたねとはかたちがちがう。

 おとうさんゆびのつめのよこのだけがほんもの。ちぎったのは、おにいさんゆび。


「ちがうの。ちがうの」


 なんだかかなしくなってなみだがでた。ほんもののたねがほしいのに。もっとおおきくて、さんかくのたね。びろ〜んとながいのは、たねじゃない。

 どうしてポテトチップのはっぱがでてこないんだろう。まいにちみずをあげてるのに。ぽろんぽろん、なみだがとまらない。


「どうした」


 こまったおとうさんがだっこしてくれた。


「なかせたの?」


 おかあさんがおとうさんにおこっている。


「ちがうの。はっぱがでないの」


 おとうさんのためにひみつをいった。

 でも、おかあさんにはなんのことだかわからなかったみたいで。くびをかしげただけ。まだおとうさんのほうをにらんでる。

 なきやまなきゃ。

 いっしょうけんめい、なくのをがまんした。

 がんばって、えほんをよむふりをした。

 うさぎさんのえほん。ぽとん、ぽとん。なみだがうさぎさんのてのうえにおちる。


 つぎのひ、うさぎさんのえほんが、まどのちかくにひろげてあった。

 おかたつけをしようとすると、おかあさんがいった。


「ぬれてたから、かわかしてるの」


 それからおかあさんは、わたしをしんぱいした。ともだちとケンカしたんじゃないかって。


「じゃ、しつれん?」


「しつれん?」


 なにそれ。


「そうだ。しつれんにはオシャレだよ。もっとかわいくなって、もっとかしこくなって、もっとつよくなればいいんだよ。がんばれ!」



 ほいくえんのかえり、おかあさんはじてんしゃで、いろんなものがうっているおみせにつれていってくれた。


 いろんなものがある。かわいいシール、フーセン、フォーク、おさら。すなばであそぶシャベルやちいさなバケツ。それから……


「あ」


 じょうろがあった。しろくてステキ。うさぎさんがこれでみずをあげてた。


 にじいろのゴムをてにもったおかあさんは、いった。


「これでオシャレしよう」


「これ」


 しろいじょうろをさしだすと、おかあさんはにっこりわらった。


「いいね。ついでにたねもかおう」


 おかあさんは、じょうろとにじいろのゴムとたねとちいさなうえきばちとつちをかった。


 いえにかえって、ちいさなうえきばちにつちをいれた。たねをまいた。


「たねじゃない」


 それはくろくてちいさくて、うさぎさんのまいていたたねとぜんぜんちがう。


「たねだよ。これ」


 おかあさんがいうなら、たねなんだ。


「たねなの?」


「うん」


 おかあさんは、うえきばちをにわのすみにおいた。おとうさんがはやしたたねをまいたすぐとなり。


「ね、じょうろでおみずをあげて」


 しろいじょうろでみずをあげた。


「はっぱでてくる?」


「うん。おはながさいたあとはたべられるよ」


「すごい! すごいね!」


 ポテトチップってどんなおはななのかな。

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