第49話:説得全敗★
何度拒まれても逃げられても、俺は諦めない。
武道科に移籍したり、冒険者登録をしたりしてから、イオはアズの遺品を身に着けることが多くなった。
そのせいで俺はうっかり「アズ」と呼びそうになる。
「今日は魚の煮付けを作ったわ。イオも誘ってあげて」
母さんも諦めない。
イオの好物は俺やアズと共通のものが多い。
その事を教えたら、今日は魚の煮付けを作っていた。
「うん、誘ってみるよ」
俺はまた放課後の図書館にいるイオに声をかけに行く。
通路の奥、その先に禁書閲覧室が隠された場所、壁の中から出てくるのは、アズの服を着たアズそっくりの子供。
「ア……じゃなくて、イオ」
あまりに瓜二つで、危うくアズと呼んでしまうところだった。
また来たのかという感じで、イオが苦笑する。
「モ……じゃなかった、エカ、どうしたの?」
向こうは向こうで、俺をモチと呼びそうになっている。
似た者同士と笑えればいいんだろうけど、俺にはそんな精神的余裕が無い。
「母さんが魚の煮付けを作ったから、夕食に誘いに来たよ」
帰ってこいと言っても拒否られるから、夕食に招待する程度に抑えよう。
実家に住めとはもう言わないから、せめてメシくらいは食べに来いよと誘った。
「俺に構わず、エカとソナたちだけで食べに行きなよ」
お断りされてしまった。
イオの声も表情も穏やかなのに、はっきりとした拒絶がある。
「そんなこと言うなよ、お前も家族なのに」
ウルッときてしまった。
駄目だ、耐えろ俺。
「俺は家族ではないよ。【家族の生まれ変わり】だ。エカやジャスさんやフィラさんが求める【アズール】とは違う」
「それなら俺も生まれ変わりだ。同じだろう?」
転生後初めて会った時は、父さん母さんと呼んでいたのに。
イオはもう他人だと主張するように、両親を名前呼びした。
俺は必死で涙を堪えながら、自分も同じ転生者だと言い返す。
「同じじゃない。エカには前世の記憶があるし、意識は前世のものだから」
その言葉が、堪えていた涙を溢れさせた。
俺が【モチ】のままでいれば、イオも家族でいられたのかもしれない。
「……ごめん……」
「君は、俺が知っている【モチ】じゃない」
まるで俺の心を読んだかのように、イオは静かに言葉を突きつけた。
俺はもう何も言えなくなり、床に涙を落としながら項垂れる。
「謝らなくていいよ。エカが悪いわけじゃない」
声は穏やかだけど、イオの態度はよそよそしい。
もう家族と暮らすのは諦めて、独りで生きてゆくのだと決めたのかもしれない。
「じゃ、夜間訓練に行くから。夕飯はやめておくよ」
イオは最後まで穏やかなまま、また俺を置いて去ってしまった。
これまでの説得、全敗。
なんで俺はあいつの前では涙もろくなるんだ?
滅多に泣かない筈の俺を泣かしたランキングは、イオがトップ独走中だ。
※イメージ画像
https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093074894471400
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