第48話:ギルドと転生者★

 イオの馬鹿野郎。

 加速魔法の無駄使いしやがって。


 俺は心の中で愚痴りながら、自分の荷物を異空間倉庫ストレージにポイポイ放り込む。

 イオは俺が行く前に、部屋の荷物を片付けて出ていってしまった。


 学園には通うのなら、放課後に行けば会えるかもしれない。

 イオが図書館へ行く日課は、現世モチの記憶で知っている。


 俺は学園長に事情を話して、OBとしての学園敷地内立ち入り許可をもらった。

 母さんにはイオの好物が肉じゃがだと伝えて作ってもらい、放課後のイオを目標に絞った。

 禁書閲覧室には入れないけれど、そこに至る通路は知っている。

 張り込んでいたら、青い髪の子供が行き止まりの壁の中からスッと現れた。


 きた!


 逃げる前に声をかけよう。


「おい! 肉じゃが!」

「へ?」


 やらかした!


 俺は慌て過ぎて、言葉を大幅に省略してしまった。

 本当は「おいイオ、そろそろ帰ってこい。母さんが肉じゃが作って待ってるぞ」って、言うつもりだったのに。


「か、帰ってこい。みんな待ってるから」


 俺はイオがキョトンとして立ち止まっている隙に、言葉を継ぎ足す。

 これでどうにか用件は伝わった筈。

 しかしイオは、また困ったような笑みを浮かべた。


「悪いけど、人違いだよ」

「え?」


 今度は俺がキョトンとした。

 イオは何を言ってるんだ?


「アズは、ここにはいない。君のように復活することは無い」


 6歳児の容姿には不似合いな、諭すように静かな口調でイオは言う。

 責めているわけじゃないのは分かる。

 でも俺は、押し寄せる罪悪感に何も言えなくなった。

 泣いてる場合じゃないのに。

 頬から顎へと伝って落ちる雫を止められない。


「俺のことはもう忘れて、君は家族と幸せに暮せばいいよ」


 そう言って、イオはまた忽然と消えた。

 馬鹿野郎。

 言うだけ言って逃げるんじゃねぇ。

 母さんがせっかく肉じゃが作ってくれたのに、無駄にする気かよ。

 取り残された俺は、悔しいのか悲しいのかよく分からないまま、服の袖で涙を拭って実家へ転移した。



   ◇◆◇◆◇



 翌朝、登録情報更新のために、俺は冒険者ギルドを訪れた。


「アズ?!」


 受付嬢と話している子供を見て、思わず声を上げてしまった。

 幼少期のアズと同じ白い服を着て剣を背負った子供。

 その服は、アズが夜間訓練や野外実習へ行く時にいつも着ていたものだ。

 背負っている剣は、攻撃魔法が使えないアズのために、魔工学部が開発して俺が攻撃魔法を付与したものだ。

 それらを装備している青い髪の少年は、受付嬢と話している時の仕草も笑い方も、アズによく似ている。

 俺はその子供がアズに思えてきて、歩み寄りかけたところで1人の老猫人に先を越された。


「おぉ……その姿は! 勇者アズール様の転生者様ではないですか?!」


 老猫人は、かつてアズと共に魔王軍と戦った冒険者の1人だ。

 20年前はギルド長だったけど、今は引退して息子に任せているらしい。

 アズが勇者として活躍したのは7歳の誕生日を迎えた頃で、受付前にいる子供はその年頃に近かった。


「はい。でも前世の記憶は無いので、新人として扱って下さい」


 本音を隠すジャパニーズスマイルを浮かべ、そう告げたのは転生者イオ。

 その場にいた人々は誰も気付かなかったけど、現世モチの記憶は仮面の下の感情を読み取る。


 イオ、めちゃくちゃ嫌がってるぞ。

 そこから逃げようとしないのは、冒険者になる目的ゆえか。


「承知しました。しかし転生した御方なら、アズール様の剣技を再現できる筈。いつかこの爺に見せて下され」

「分かりました」


 爺さん無茶ぶりすんなよ。

 イオ、微笑んでるけど内心は溜息ついてるぞ。


「これで手続きは完了しました。まだ学生とのことですので仮登録ですが、クエストは受注可能です」

「ありがとうございます。じゃあ、クエスト板を見てみますね」


 受付嬢は爺さんのテンションなんか無視して平常運行だ。

 イオは仮登録カードを異空間倉庫ストレージに入れて受付を離れて歩き出したところで、俺と目が合う。

 声をかけようとしたところで、今度は俺が爺さんに捕まってしまった。


「なんと! エカルラート様の転生者様もいらっしゃった!」

「あ~……どうも。久しぶり」


 テンション高い爺さん、誰か抑えてくれないか?

 しかし誰も割り込んでくれないまま、爺さんの昔話に花が咲いた。


 イオはその間にちゃっかりクエストを受注して、建物の外へ出ていってしまった。



※イメージ画像・ギルドハウス

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093075548507162

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