第40話:前世と現世★
「俺は、こちらに残ります」
最初に答えたのは、俺。
【両親】が、ぱぁっと明るい表情に変わる。
心配そうに見ていた2人は、残ってほしいと思っていたに違いない。
俺は歩み寄り、2人の手を握って微笑んだ。
「日本にはもう親はいないから。こちらの両親を大切にしたいです」
日本の父はもうこの世にいない。
出て行ったきり音信不通の母は、いないのと同じだ。
それなら、世界樹の里で前世の家族と暮らしたい。
俺の中の人もホッとしたようだ。
前世は、強い未練を残して死んだのだろう。
世界樹の里に来てからずっと、懐かしく切ない気持ちが心の中を満たしている。
ここは、俺の魂の故郷なんだから、帰りたいと思うわけだよね?
「あたしは日本に帰るわ」
って、背後から声がしたので振り返ったら山根さんがいた。
彼女は姿こそ前世返りしているが、名前は日本人のままだ。
きっと地球へ帰る意志が強かったからだろうな。
「あたしはこちらに親いないし。こっちにいたらシリーズ最新刊が買えないもの」
山根さんの前世は数百年生きたそうで、転生時にはもう前世の両親は亡くなっていたらしい。
だから彼女は、前世よりも現世、日本人として生きる道を選んだ。
日本で好きな本を読む生活がしたいんだろうね。
っていうか本なら江原にでも頼めば、代わりに買ってきてくれそうだけどな。
山根さんがシリーズ全巻集めている洋書のファンタジー物、イベントチームみんな知ってるし。
「私はナーゴに残ります」
3番目は妹ちゃん。
彼女を心配そうに見つめていた夫婦が、ホッとしたような喜びの笑み浮かべた。
「物価が上がってばかりで給料ちっとも上がらない日本より、こっちの生活の方がいいから」
しっかり者らしい意見を述べる妹ちゃん。
彼女は前世の両親と思われる夫婦に微笑みかけて、「前世の分も親孝行するね」と言った。
妹ちゃんは2歳頃に日本の両親と離れているので、実の親の記憶は全く無いのだと聞いたことがある。
育ての親だった祖父母は亡くなっているから、前世の両親を大切にしたいんだと思う。
きっと美味しい手料理を両親に御馳走するだろうね。
「私も残ります」
4番目はカジュちゃん。
彼女の前世は、里長の娘だった。
「日本の両親は弟に任せとけばいいし、こっちの両親の方が長生きだし」
カジュちゃんの日本での家庭環境を、俺は知らない。
プルミエタウンに住み込みの人々の大半は、親族がいるんだかいないんだか分からなかった。
親の寿命を考えたら、そりゃ世界樹の民の方が10倍くらい長いだろうな。
これで5人のうち4人の今後が決まった。
残るはイオだ。
俺を抱き締めている【母】と、それに寄り添う【父】が、心配そうな眼差しをイオに向ける。
でも、俺には答えが分かっていた。
イオならきっと、こう答えるだろうって。
「俺は、この世界に残ります」
神様に返事を促された様子のイオが、俯いていた顔を上げて答える。
【両親】が、涙を流しながら嬉しそうに微笑んだ。
※イメージ画像
https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093075271675321
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