第39話:世界の選択★

【両親】から話を聞いた後、2人の案内で俺たちは森の中心にある世界樹の根元へ向かった。

 そこに創世神かみさまがいて、話す事が出来るらしい。

 世界樹の根元には、さっき別行動になった王様と江原・カジュちゃん・妹ちゃんたちの他に、2組の夫婦らしき人々がいた。

 2組の夫婦はカジュちゃんの前世の両親と、妹ちゃんの前世の両親らしい。


 世界樹と呼ばれる巨木は、横へ伸びている枝がどこまで続いてるのか分からない長さだ。

 枝は近くの木の枝と繋がっている。

 周囲を見回してみたら、この森の木々は枝と枝が繋がっている様子が視界に入った。


 夢で見た森の風景だ。

 この巨木の根元に、5人が集まっていた。

 俺の中の人に、激しく心を揺さぶられる。


 ここだ!

 この場所で……


 多分、夢で見た場面以外に、ここで何かあったんだろう。

 中の人は、それがトラウマになってるんだ。

 痛みのような感情は、幸い他の人々には気付かれずに済んだ。


 中の人から、強い不安感が伝わってくる。

 それは、イオに向けられている。

 俺はコッソリ横目でイオを見た。

 今は起きているから目を開けているし、俺の隣に立って巨木を見上げている。

 鼓動を聴くまでもなく生きていると分かり、中の人はホッとしたようだった。



『…おかえり、世界樹の子らよ…』


 しばらくして、誰かから脳に直接言葉を送り込まれた。

 姿無き者からの念話、俺はそれが創造神の【声】だと察した。


『私がお前たちに組み込んだ運命とは違った形になってしまったが、白き蛇が異世界を荒らさずに済んだ結果は、良いものと言えるだろう』


 神様の言葉は続く。

 転生者の俺たちには、神の力によって戦闘プログラムのようなものが組み込まれていたらしい。

 そのプログラムを【運命】という。

 しかし、【前世返り】が起きたことで、プログラムは消失してしまったようだ。


『蛇が捕らえられた事で、今のお前たちには自由がある。そこで問おう、お前たちはどちらに根を下ろしたい?』

「それは、この世界に残るか、日本に戻るか、どちらか選べるという事ですか?」

「僕はこちらの神殿に就職して、日本にはたまに里帰り出来ればいいんですが、それは可能ですか?」


 神様の問いに、俺は問い返した。

 江原も聞いた。


『先に日本からの転移者たちについて説明しておこう。魔王の力で送られて来た人々は、魔王に頼めばこちらと日本とを行き来出来るだろう』

「じゃあ、僕は予定通りこちらの世界を活動拠点にします」


 765名の転移者たちは、今後は自由に日本とナーゴを行き来できると神様は言う。

 それを聞いた江原の決断は早かった。


『続いて世界樹の子らについてだ。お前たちは元々この世界の人間ゆえ、状況は異なる』

「もしかして、私たちはもう日本には住めないの?」

『今のお前たちは転生前、世界樹の民の身体に戻されている。そのまま転移すると地球の毒によって命を失うだろう』


 問いかけるカジュちゃんは、神様の返答に一瞬言葉を失くした。

 世界樹の民の身体では地球に住めない理由は、有害物質への耐性が無いからか。


『地球人がこちらで生存する事は出来るが、世界樹の民が地球で生存する事が出来ない理由は、地球の大気がこちらの生物にとっては猛毒になるからだ』

「転生後の状態にして日本に転移は出来ますか?」

『出来るが、代わりにこちらでの記憶は全て失う。今こうしてここで話している事も含めて』


 代わって問いかける妹ちゃんも、神様の返答に沈黙した。

 前世返りしている身体を、日本人の身体に戻すことは、転生と同じなのかな。


『地球での記憶は残る。名前は今は忘れているようだが、向こうへ移動すればこちらでの名前を失う代わりに思い出すだろう。』

「つまり、異世界転移した事とか、みんなで過ごした事とかは思い出せなくなるんですね?」

『そういう事だ』


 最後はイオが問いかける。

 神様はそれを肯定した。


 転生者4人は、しばらく考え込む。

 2つの世界の片方にしか住めないのなら、選ぶ世界は?

 地球? ナーゴ?



※イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093075127332133

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