第35話:大規模転移の裏事情
魔族との戦いは終わった……のか?
白髪の少年は、いつまであの拘束生物に首を絞め続けられるの?
敵とはいえ、ちょっと可哀想な気もする。
魔王の手下の捕獲は、最後が微妙だけど、一応完了となった。
実は他にも蛇が出現していたけど、何しろ能力補正高い転移者が765名もいる学園内、みんな倒されている。
ボスのトゥッティを捕らえた俺とイオは、三毛猫国王に呼ばれてお城へ行った。
手下を倒したカジュちゃんと妹ちゃん、トゥッティをビビらせて足止めした(?)山根さんの他に、防衛面で活躍した江原も来ている。
「よく来たニャ。今日はみんなに御褒美をあげる日ニャン」
でっぷり太った三毛猫国王は言った。
猫の王様がくれる御褒美って何だろう?
まさか、ちゅ〇るじゃないよな?
かつおぶし1年分とか、いらんからな?
そんな俺の心配をよそに、王様は話を続ける。
「モチ、イオ、国家任務達成ご苦労さまニャン。捕らえたトゥッティは、詩川に任せておけば大丈夫ニャ」
「トゥッティは確か魔王の側近ですよね。魔王は襲って来ないんですか?」
「この時代の魔王は、無害だから倒さなくていいニャン」
「無害?」
「昔、勇者が悪の心を破壊したから、魔王は愛と平和を大切にする者になったニャ」
側近を捕らえたら魔王が取り返しに来るかと思ったら、予想の斜め上な答えが返ってきた。
愛と平和を大切にする?
それもう魔王じゃないような?
「学園に潜むトゥッティの捕獲も、実は魔王に頼まれたのニャン」
「「「「えっ?!」」」」
「あ、そういえば神殿でそんな話を聞きました」
想定外な情報に驚くのは、俺、イオ、カジュちゃん、妹ちゃん。
神殿務めの江原は既に聞いていたそうで、1人落ち着いていた。
「トゥッティは先代魔王の側近で、当代の魔王とは面識が無かったそうニャ」
「じゃあ、どうして捕獲依頼を?」
「地球に悪さをしようとしていたからニャ。当代魔王は地球人で、故郷を荒らされたら困ると言っていたニャン」
王様の話から、俺は察した。
プルミエタウンのNPC(従業員)765名一斉転移は、魔王の仕業だな、と。
地球を荒らしに来た魔族トゥッティを倒すのは、地球人にやらせようと思ったのかな。
「では、頑張ってくれたみんなへ御褒美を渡すニャ」
三毛猫国王が笑顔で言う。
近くで待機していた家臣の黒白猫人が、国王の隣りにあるテーブルにかかっていた布をサッと取り払った。
「まずは金貨ニャ。もしも日本に帰るなら、魔王に頼めば日本円に両替してくれるニャン」
「「魔王が両替?!」」
「え? 日本に帰れるの?」
「もちろん。トゥッティを捕獲出来た今なら、説明してあげられるニャ」
三毛猫国王は765名もの大人数異世界転移のワケを話してくれた。
この世界を滅ぼすことを望まず、猫人たちとの共存の道を選んだ先代魔王。
側近は退屈して、この世界から出ていった。
向かった先が地球で、トゥッティは異世界環境を再現したプルミエタウンに潜り込む。
地球人に転生していた当代魔王は、本来地球に居る筈の無い魔族を元の世界へ強制送還しようとするが、居場所はプルミエタウン内と分ったものの、765名もいる中から見つけ出すのは困難だった。
そこで、全員まとめて異世界転移させたらしい。
「そしてみんなに全寮制の学園で生活してもらいながら、様子を見ていたニャン」
「白髪の生徒は、今までどのクラスにいたんですか? 寮の食堂では見た事が無いです」
説明してくれた国王に、妹ちゃんが聞いた。
寮の食堂で働いていた彼女は、食事に来る全ての生徒の名前と顔を覚えている。
「校内の屋根裏に潜んで、腹が減るとヘビに戻って、森や洞窟で鳥を襲って食べていたらしいニャン」
「………」
ヘビと聞いて、妹ちゃんの顔がが青ざめた。
トゥッティが自給自足で良かった。
食料を奪いにヘビが食堂に来ていたら、妹ちゃん卒倒するよ。
「捕まえたトゥッティは、今後どうするんですか?」
「ウタの館に幽閉して、愛と平和の大切さについて教育するそうニャ」
詩川先生の教育……。
トゥッティ、人間の姿は美少年だったからな。
江藤に代わって、お尻を撫でられる日々が始まるだろう。
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