第34話:巨大白蛇を捕まえろ★

 俺とイオは、あのデカい蛇にどうやってセーターを着せるかっていう話し合いをした。

 イオの加速魔法があれば、着せることくらいはできる。

 しかし、【ナーゴの変ないきもの図鑑】によれば、アレが動き出すまでには数秒の間がある。

 音速とまではいかないけど、あの蛇かなり動きが速いからな。

 普通に着せても、手足の無いツルツルした身体では、瞬時に脱ぎ捨ててしまうだろう。


「詩川先生に耳栓アイテム貰ったけど、ヘビの姿だと耳が無いから使えないよね?」

「うん」


 トゥッティ捕獲用アイテムは2種類。

 セーターを使うには、数秒でいいから大人しくさせないといけない。

 耳栓を使うには、蛇から人間に戻さないといけない。

 じゃあ、物理か魔法でダメージを与えて弱らせよう。

 ということで、俺たちは攻撃に出た。


上位火魔法メラゾーマ!」

「ふん、効かんな」


 俺は範囲を縮めて威力を上げた火球を放つ。

 けど、白蛇はパリパリと脱皮して、焦げた身体を回復させた。

 一緒に再生した尻尾が俺に襲いかかるのを、イオが割り込み斬撃で切断した。


「このクソガキ! さっきもお前か!」


 2度も尻尾を切断され、巨大蛇はお怒りだ。

 蛇はイオを丸飲みしようと、大きく口を開けた。


白き翼エルブランシュ!」

爆裂魔法エクスプロージョン!」


 その口の中へ、イオが白い羽根の必殺スキル、俺が爆裂魔法を放った。

 巨大白蛇は、一瞬意識が飛んだのか地響きを立てて倒れる。


「「気絶した?!」」


 チャンス!と思って捕獲用セーターを被せるイオ。

 しかし残念ながら、すぐに意識が戻ったトゥッティに、振り払われてしまった。


「クソガキめ! 変な物を被せるな!」


 またも脱皮で回復した白蛇が、今度は間近のイオに巻き付き攻撃を仕掛ける。

 イオは蛇の胴体に白き翼エルブランシュを撃ち込み、痛みで一瞬動きが止まった蛇の身体を駆け上がった。


「これならどうだ!」

聖なる雷ライデイン!」


 頭上まで駆け上がったイオが、蛇の脳天に深々と剣を突き刺して飛び退く。

 刺さった剣に、俺が最近覚えたばかりの雷魔法を撃ち込んだ。

 脳に大ダメージを食らった白蛇が、口を開けたまま崩れるように倒れる。

 巨大なヘビの身体が縮んで、姿が変化し始めた。

 トゥッティは、最初に見た白髪の少年の姿に戻った。


「今だ!」


 イオが、耳栓型魔道具を、白髪の学生の両耳に突っ込んだ。

 超小型の魔導具が、耳の奥へと入り込む。


「なっ?! ……ギャアァァァ!!!」


 白髪の少年が、ハッと意識を取り戻した直後に絶叫する。

 耳の中の小型魔道具から、何が聞こえたんだろうか。

 それっきり、トゥッティは静かになり、動かなくなった。


「よし、今のうちだ」


 俺とイオ二人がかりでトゥッティにセーターを着せる。

 耳栓魔道具の効果はかなり強いのか、気絶した白髪の少年はピクリとも動かない。

 その後、少し離れて様子を見ていたら、セーターに変化が起きた。

 使われている糸が、生き物のようにウネウネと動き出す。

 それから、糸はブワッと伸びて縄くらいの太さに変わり、少年の全身をグルグル巻きにしてしまった。


「怖っ!」

「だから首には近付けるなって言ったのさ」


 えげつない効果に、イオが軽く引いた。

 異世界の拘束生物、おそるべし。

 首を締め上げられた奴は窒息拷問だな。


「あらぁ~やったじゃなぁい」


 部屋の外から声がして、振り返ったら詩川先生が来ていた。

 隣にカジュちゃんがいる。


「これ、けっこう首締まってますけど、大丈夫ですか?」

「平気平気、窒息させて動けなくしてるだけだから」


 イオの問いに、詩川先生はなんでもないみたいに答える。

 白髪の少年、泡吹いて白目むいてピクピク痙攣してるけど。

 窒息させとけばいいの?


「運搬手伝いにきたぞ。詩川のところへ運べばいいか?」

「そうね、お願いするわ~」


 松本先生も来た。

 詩川先生が言うと、松本先生は異空間倉庫ストレージからストレッチャーを出して、トゥッティを乗せる。

 怪しい生物グルグル巻きにされたまま、白髪の少年が運ばれていった。


 その場にポツンと残されたのは、俺とイオ。


「俺たち、割と真面目に戦ったよな?」

「そうだね」

「なんで詩川先生が来ただけで、一気にコメディになるんだ?」

「なんでだろうね?」


 なんか気が抜けてしまいながら、2人でそんな会話を交わした。



 ◇◆◇◆◇



 その夜、俺はまた夢を見た。


 色とりどりの花が咲き誇る中に、瑞々しい緑の葉を茂らせる1本の木が立っている。

 木の隣には、石と木で造られた小さな家。


 木の下に立っているのは、青い髪の青年。

 その青年に寄り添うように、長い黒髪の美しい女性。

 女性は獣人? 頭には犬のような黒い立ち耳、お尻の辺りにはフサフサの黒い尻尾がある。


 俺は現在の6歳児の姿で、2人と向き合っていた。

 女性はこちらを見て微笑み、お礼を言うように少し頭を下げる。


 夢はそこで終わり、俺は目を覚ました。

 これは何を意味するものだろう?

 俺の中の人に関係するものみたいだけど。

 青い髪の青年が、イオの前世だというのは分かる。

 黒髪の女性は誰なんだろう?



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https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093074951531184

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