第33話:白髪の少年★

 今日は本当に想定外なことが多いな。

 小柄なカジュちゃんの、どこからニシキヘビサイズの蛇の群れを天井に突き刺す力が出るんだろうか?


 俺とイオは、天井に突き刺さった蛇を、全て異空間倉庫ストレージに収納した。

 さっき倒した巨大蛇は、既に収納済だ。


「こんなのリユが見たら卒倒しちゃうよ」

「早く片付けよう」

「ありがとう~、こんなのブラブラしたままじゃ、夜眠れないところだったわ」


 ホッとした様子でカジュちゃんが言う。

 刺さっていた蛇が無くなると、天井はすぐに修復し始めた。


「そういやカジュちゃん、タマゴかヒヨコ育ててたりする?」

「うん。この子だよ」

「ピヨッ?」


 イオが訊くと、カジュちゃんは机の引き出しを開けて、ピンク色のヒヨコを見せてくれた。

 妹ちゃんのヒヨコの色違いみたいなヤツだ。


「リユちゃんのと同じ種類の、鳥さんがくれたタマゴだよ」

「手の上でタマゴ産んでったの?」

「うん」

「ピヨ?」


 話してたら、ヒヨコが可愛く首を傾げた。

 桃の花のようなピンク色の羽毛は、夜店の不自然な色とは違う。


「さっきロッサ先生に聞いたんだけど、リユのヒヨコは神鳥のヒナなんだって。この子も同じかもしれない」

「そっかあ、そんなすごい子なのね」

「ピヨピヨピヨ」


 自分の事を話してると分かってるのかいないのか、ヒヨコは口を開けて羽根をプルプル震わせた。

 ヒヨコお前、自分が可愛いと分かってるな?


「はい、ゴハンだよ」


 カジュちゃんがヒヨコに、黄色い粒々の穀類みたいなのを食べさせる。

 小さなスプーンですくって口元へ持って行くと、ヒナは勢いよく食いついてモグモグした。


「他にこのヒヨコの仲間を育ててる人はいる?」

「あとはネーさんくらいかな」

「それは襲う奴の心配した方がいいかも」

「怖すぎて泣いちゃうかもね……ヘビが」


 カジュちゃんが言う「ネーさん」は、山根さんの事だ。

 山根さんのペットを食おうとしたら、魂まで凍らされるぞ。

 そんな事を思った直後、男性の絶叫が響いた。


「うわぁぁぁ! やめろ! やめてくれぇぇぇ!」

「「「え?!」」」


 俺、イオ、カジュちゃんの驚く声がハモる。

 声はすぐ近くから聞こえた。


「行ってみよう!」


 駈け出すイオに続いて行って見ると、場所は予想通り山根さんの部屋。

 でも、山根さんの恐怖を味わっていたのは、蛇じゃなかった。


 身体のあちこちに氷の塊をくっつけて、怯えるのは知らない男子生徒。

 白い髪に赤い瞳の男子が、尻もちをついた状態でジリジリと後退している。


「許可も無くあたしの部屋に入るなんて、いい度胸ね」


 周囲に雪の結晶が舞う中、銀髪の美少女が凄む。

 綺麗だけど、その怖さを俺たちはよ~く知っている。

 山根さんの後ろ、机の引き出しからヒョッコリ顔を出してるのは純白のヒヨコ。

 凄まれてる相手はもちろん、見てるだけの俺たちすらビビる中、白いヒヨコは平然としている。

 ヒヨコお前、自分が愛されてるの分かってるな?


「覚えておきなさい。あたしの部屋は男子立ち入り禁止よ」


 山根さんが雪の結晶を吹雪の如く渦巻かせながら、ズイッと踏み出す。

 白髪の男子生徒がジリッと後退る。


 駆け付けてみたけど、部屋まで入らなくてヨカッタ。

 イオも同じ事を思ったに違いない。


「罰として、しばらく凍っててもらうわよ。……絶対零度アブソリュートゼロ!」


 山根さん、下手なラスボスより迫力あるよ。

 その魔法は、威力も半端ない。

 男子生徒は、氷の彫像と化した。


 数秒後……


 パキン、パリパリパリッ


 ……氷にヒビが入り、それが彫像全体に広がる。


「……え?」


 山根さんが驚く。

 その目の前で、氷の彫像は砕け散り、巨大な白蛇が現れた。

 白蛇の赤い瞳が、不気味な光を放ち始める。


「小娘、よくも脅かしてくれたな……」


 白蛇の尻尾が、山根さんがいた筈の場所と後ろの机に打ち下ろされた。


「「ネーさん!」」

「こっちにいるよ」

「「えっ?!」」


 俺とカジュちゃんが叫んだ直後、背後から声がする。

 驚いて振り返ったそこには、山根さんを抱えたイオがいた。

 加速魔法を使って救出したんだな。


「小娘、貴様どうやって避けた?」


 巨大白蛇が問いかける。

 聞かれた山根さんは、混乱していて無言だ。


「お前、もしかしてトゥッティ?」

「いかにも」

「あなたを捕まえるように言われてるんだけど、大人しく捕まってくれる?」

「断る!」


 俺が聞くと、白蛇は首を縦に振った。

 カジュちゃんが聞くと、拒否する白蛇の尻尾が、床から持ち上がるのが見えた。

 しかし今度はそれが振り下ろされることは無かった。


 蛇の尻尾が切断され、床に転がる。

 えっ?! と思った時には、周囲の動きが止まった。

 尻尾攻撃を読んだイオが、加速魔法をかけて斬撃を浴びせ、切断して攻撃を防いだらしい。

 で、今度は俺にも風神の息吹ルドラをかけたな。


「うぉ、またか!」

「モチ、これどうやって使うの?」

「そ、それ使うのか」


 イオが異空間倉庫から出したのは、妹ちゃんから渡されたサマーセーターぽいアレだ。

 しかし、今は使えなさそう。


「使うには、アイツを気絶させないと無理だな。意識があると効果が出る前に振り払われると思う」

「じゃあ、とりあえず気絶させるところから?」

「だな」


 トゥッティを気絶させて、首にアレを近付ければどうなるか。

 イオはまだ、アレの効果を知らない。



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