第31話:予想の斜め上

 動植物学部の飼育棟。

 チッチと組んで校内を調べて回っていた俺は、キーッキーッという甲高い動物の声を聞いた。


「動物たちが騒いでる!」

『飼育棟にヘビの魔物出現! 攻撃魔法科は殲滅に向かえ!』


 慌てて駆け出すチッチの後に、俺も続く。

 松本先生の校内放送が、事態を報せる。

 飼育棟に向かった俺とチッチは、巨大で長い生物を発見した。


 ……が。


 予想したのと状況が違う。

 驚きのあまり入口で固まっていたところへ、イオが駆け付けて来た。


「校内にヘビが出たって、ここ?」

「出たけど、ウサギたちに返り討ちにされて転がってる」

「……へ?」


 呆然としながら俺が指差すモノを見て、イオもポカンとする。

 それは想定外の出来事だった。


「飼育棟にヘビが出た! って聞いて俺もダッシュで駆け付けたんだけどさ……」

「うん」

「……着いた時には、ウサギに巨大ヘビがボコられてるところだったんだ」

「ウサギつえーな!!!」


 飼育棟の中では、侵入したヘビが夢幻ウサギの集中攻撃を受けていた。

 イオが来る頃にはヘビは倒されて、床で伸びていたよ。

 ヘビの生死チェックを引き受けたイオが室内に入り、掃除用具入れからホウキを取った。

 イオはホウキを手に近付くと、柄の部分でヘビをつつく。


 ツンッ、シーン。

 ツンツンッ、シーン。

 ツンツンツンッ、シーン。


 ヘビは全く動かなかった。


「イオ君、それ研究棟へ運んでもらえるかい?」

「はーい」


 ロッサ先生に頼まれ、イオはヘビの死体を異空間倉庫ストレージに収納して運んだ。


 動植物学部の研究棟は、飼育棟の隣にある。

 普通の魔物なら解体して食べたり素材にしたりするけど、このヘビはこの辺りの生物ではないらしい。


「これは魔物ではないようだね……しかし野生動物とも違う……」


 うーんという感じで首をひねるロッサ先生。


 検査薬が入ったガラス容器の中には、巨大ヘビのウロコが入っている。

 ウロコはそれを持つものが生きた年代や年月を示すという。

 検査薬はそれを調べるものらしい。


「何か、今ではない時を生きてきたようなウロコだね」

「ちょっと図書館行ってきます」


 ロッサ先生が言うと、イオが飼育棟を離れて図書館へ向かう。

 おそらく禁書閲覧室の書物を調べに行ったんだろう。


 イオが出かけた後、俺は巨大ヘビの死体を爆裂魔法エクスプロージョンで片付けた。

 あんまり美味しそうには見えないなと思ったら、このヘビは食えないらしい。

 しかし肥料にはなるそうだから、粉々にして袋詰めして学園内の農園に使ってもらおう。


「モチ君、女子寮にもヘビが出たから片付けに行ってくれるかい?」

「分かりました」


 ロッサ先生に頼まれて、俺は女子寮へ向かった。

 片付けろって言われたから倒すのかなって思ったんだけど。

 どうやら普通に片付ければいいらしい。


「女子寮にヘビが出たって?」

「お、おう」


 誰かの魔法で転移してきたイオに訊かれたので、とりあえず頷く。


「リユちゃんの部屋に出たんだけど……」

「えっ?!」

「……パニックになったリユちゃんがボコり倒した」

「………」


 女子寮エリアに来てみれば、ヘビは妹ちゃんに倒されて粗大ゴミになっていたよ。


「リユちゃん泣いてるから、なぐさめてあげて~」

「リユ、大丈夫?」

「うえぇ~ん! おにいちゃぁん!」


 部屋の中からヒョッコリ顔を出して、カジュちゃんが言った。

 イオが部屋の中に向かって呼びかけた。

 妹ちゃんが駆け寄って泣きついている。


「こわかったよぉぉぉ~!」


 って号泣してるけど。

 妹ちゃん、君さっきそれボコッてたよね?

 部屋の中、巨大ヘビが伸びている。


 さて、俺はあれを片付けようか。

 イオが妹ちゃんをなぐさめてる間に、俺は掃除用具入れからホウキを出して、ヘビに歩み寄る。

 ホウキでつついてみたけど、ヘビは動かなかった。


「モチ、それ収納して研究棟に持ってって」

「OK」


 イオに言われて、異空間倉庫ストレージにヘビ収納。

 この場で粉々にすると、妹ちゃんが嫌がりそうだもんな。


「じゃ、ロッサ先生んとこ行ってくる」

「モチ、片付けてくれてありがとう~」


 ヘビを収納したら、ホッとした様子で妹ちゃんが言った。

 肥料にして農園に使うことは、黙っておこう。

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