第30話:ダンジョンの異変★

 魔王の手下らしきものは、見つからないまま日々が過ぎた。

 俺たちは森や洞窟で狩りをして、食材確保を兼ねた経験値稼ぎを続けている。


 4系統の攻撃魔法を使えるようになった俺は、火力の要になった。

 一方イオは攻撃魔法は使えない代わりに、物理攻撃スキルを習得した。


 スキル名は「白き翼エルブランシュ」。

 鳥系ボスの範囲攻撃スキルだけど、イオはそれを回避してボスを倒したら、スキルを譲渡された。

 物理ダメージの攻撃スキルは、身体強化と併用すれば、かなりの高火力となる。



 冬の森にある、氷雪の洞窟。

 ダンジョン難易度は最上級、能力値の高い転移者でなければ、お手軽に行ける場所じゃない。


「よし、これで全校生徒の給食用は確保出来たな」


 クラス生徒50人全員が転移者の、攻撃魔法科の松本先生クラスなら楽勝だ。

 かなり奥まで狩り進んだところで、松本先生が言う。


「終点ボスを狩らなくても肉は足りているが、ジャミからボスを見て来てほしいと頼まれたから一応行くぞ」

「はい」


 先生の指示で、先頭を進むのはイオ。

 終点ボスとは、枝分かれした通路の行き止まりにいる魔物。

 その他に「中間ボス」と呼ばれる強めの魔物が、通路の中ほどに出現する。

 イオは先程その中間ボスをタイマン勝負で倒し、白き翼エルブランシュを習得したばかりだ。


「ここら辺の罠は殺傷力高そうだね」

「涼しい顔で避けながら言われてもな」


 天井からドッサリ降ってきて、床一面に刺さった氷の槍。

 イオはそれを眺めても平然としている。

 後方から見ていた俺は、ツッコミを入れてやった。


「とりあえずこれ邪魔だから砕くよ」

「はーい。防壁バリア!」


 自分の周囲の地面に突き刺さってる槍を見回して、イオが後方メンバーに告げる。

 江原が答えて、イオ以外のメンバーを防壁バリアで包む。


「じゃあいくよ~、白き翼エルブランシュ!」


 起動言語に応じて、発動する範囲攻撃スキル。

 イオの背中に白い翼が開いて、周囲に羽根が散る。

 大量の硝子が砕けるような音と共に、氷の槍が粉々に砕け散った。

 空中にキラキラした氷の欠片と、白い羽根が舞う。


「うん、片付いた。範囲攻撃スキルっていいな」

「それメイン攻撃にしたら殺戮の天使とか二つ名が付くんじゃね?」


 スッキリした様子のイオに、俺は言ってやった。

 ボスが使う必殺攻撃なだけに、見た目が派手だな。

 アニメやゲームで天使系のキャラが使いそう。


「天使っていうかこれ鶏の羽根だけどね」

「本体無かったら区別つかんだろ」


 イオは鶏のスキルだと言うけれど。

 スキル使用時に現れるのは翼だけなので、ぶっちゃけ鳥だか天使だか分からん。

 そんな会話をしつつ進んで行ったら、通路の行き止まりに到着した。

 難なく着いたボス部屋は、殺風景な広い空間があるのみだった。


「何もいないね」

「誰かが倒して24時間経ってないとか?」

「おかしいな。今日ここへ来たのはうちのクラスだけの筈だけど」

「前に来たのは動植物学部のメンバーか。イオが倒した大鶏の手前で帰ってるな」


 みんなで辺りを探しても、何も見つからない。

 先生がポケットからスマホに似た魔導具を出して、氷雪の洞窟の入場履歴を見てくれた。

 直近の入場は先週で、中間ボス前に引き返している。


「とりあえず帰るか。もともと狩るつもりは無かったからな」


 先生の指示で、クラス一同ゾロゾロと帰る。

 終点ボスは、一体誰が狩ったんだろう?


「最後にボスを倒したのは卒業生だな。冒険者になってるそうだからギルドに行って聞いてみるか」


 森を出て校庭に来ると、先生がそう言って召喚獣を出す。

 大柄な体格に似合わず身軽に、先生がヒラリと背中に飛び乗ったのは西洋竜ドラゴンだ。

 松本先生はドラゴンに乗って飛び去ってしまった。



 ◇◆◇◆◇



「前回ボスを倒した卒業生に確認したが、その時は特に変わった事は無かったそうだ」

「彼等が狩って以降は、そもそもあそこまで進める生徒はいなかったニャ」

「氷雪の洞窟は、そう簡単に終点ボスまで行けるダンジョンじゃないからねぇ」


 街から帰って来た松本先生は、残念ながら異変に関する情報は得られなかったらしい。

 学園長と占いオババが言う。


 四季の森の中でも特に強い魔物が存在する冬の森。

 ダンジョン内の魔物は外にいる魔物より格段に強い。


「イオ、あんたなら最速でダンジョン最奥まで行って帰って来れる。ちょっと全ダンジョン全ルートの終点ボスがいるか見てきてもらえるかい?」

「OK」

「連絡用にこれ持って行きなさ~い」


 イオが単独偵察任務を与えられた。

 見てくるだけなら、イオ1人で行く方が被害も無く早い。

 完全回避と加速魔法を使ってササッと見てこれる筈だ。

 詩川先生が、スマホっぽい魔導具を手渡す。


「それでマップも見れるから、自分がダンジョンのどの辺りまで来たか分かるわよ」

「ありがとうございます。お借りします」

「他の生徒・教師たちは2人1組で校内を隅々まで調べておくれ。不審な物を見つけたら、触らずにアタシに報せるんだよ」


 アサケ学園では、先生方には通信魔導具が配布されているけど、生徒には無い。

 イオが渡されたのは、上級生が引率の先生無しでダンジョンに入る時に貸し出される通信魔導具だ。

 一方ジャミさんは、先生方や各クラスから代表で来ている生徒たちに指示を出した。


「ではみんな、行動開始ニャ!」

「「「「「はい!」」」」」


 こうして、イオはダンジョン偵察へ、他の生徒や先生たちは校内を調べに向かった。



※イメージ画像・氷雪の洞窟

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093075545872113

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