第29話:捕獲アイテム

 5つ目の飛ばされ先は、魔工学部の職員エリア、詩川先生の研究室だった。

 多くの魔道具を生み出しているそこは、【ウタの館】と呼ばれる場所だ。


  「あんたたち遅かったじゃなぁい」


 傍らで作業を手伝う男子生徒、江藤の尻をナデナデしながら、詩川先生は言う。

 江藤は、顔がヒクッと引きつっていた。


「先生、パーツの組み立て終わりました。チェックお願いします」

「い~んじゃなぁい?」


 組み立てていた魔道具(?)を差し出す江藤。

 詩川先生がニッコリ笑い、江藤の耳にフッと息を吹きかけた。


「じゃっ、俺帰りますんで」

「あら冷たいんじゃなぁい?」


 それが日常なのか、江藤の撤収が素早い。

 詩川先生は残念そうに言いながら見送った。


「「俺たちも帰っていいですか?」」

「ちょっと待ちなさいよ~」


 俺とイオがハモる。

 帰りかける俺たちの襟首を、詩川先生がガシッと掴んで引き留めた。


「あんたたちに渡す物があるんだから」


 観念した俺たちが振り返ると、詩川先生は江藤に作らせていた物を差し出してくる。

 それは、耳栓に似た小さな魔道具だった。


「「…何スか、これ?」」

「今回の作戦に役立つアイテムよ」


 ハモる俺たちに詩川先生が答える。

 修行のインパクトが強過ぎて忘れかけてたけど、魔王の手下を捕獲するんだっけ?


「トゥッティの耳の中にこれを突っ込めば気絶するから、楽に捕獲出来るわよ~」

「「トゥッティって誰?!」」


 詩川先生は、モチと俺に1つずつ超小型魔道具を手渡して言った。

 それを受け取りつつ、俺たちはハモりツッコミをした。


「あんたたちが捕まえる奴の名前だけど。まだ聞いてなかったの~?」

「「聞いてませ~ん!」」

「あらあら。学園長ってば説明足りないわね」


 捕獲対象の名前を聞いてないって答えたら、詩川先生は苦笑した。

 今頃になって、ようやく捕獲対象の名前が分った。

 名前は分ったけど、特徴は知らないぞ。


「トゥッティ捕獲後の管理はアタシがやるから、捕まえたらここへ連れてくるのよ」

「王宮じゃなくていいんですか?」


 そういや、捕獲後のことも聞いてなかったぜ。

 学園長も王様も、捕まえた後の事は何も言ってなかった。


「こっちの方が脱走防止魔道具が揃ってるからね」

「じゃあ、ここへ運びます」


 幸い(?)、詩川先生のところでの修行は無かった。

 捕獲に役立つ魔道具を受け取り、使い方や捕獲後について聞いたところで完了した。


「じゃ、最後はリユのところへ行きなさ~い。アタシが頼んでおいた物が出来てる筈よ」


 6つ目の飛ばされ先がラストか。

 妹ちゃんは何を作っているんだろう?

 そんなことを思いつつ、俺たちは次の場所へ飛ばされる。

 飛ばされた場所は、カジュちゃんと妹ちゃんがいる女子談話室だった。


「おかえり~」

「夕飯とっといたよ」

「「ありがとぉぉぉ!」」


 妹ちゃんが、異空間倉庫ストレージで保管していたクリームシチューを、テーブルに置いてくれた。

 出来たてが維持されたシチューは、湯気が立つほど熱々だ。


「修行どうだった?」

「どんな事してきたの?」


 シチューを貪り食う俺たちに、カジュちゃんと妹ちゃんがお茶を出しつつ聞く。

 腹が満たされたところで、俺たちは起きたことをありのままに話した。


「死んじゃった笹谷先生がゾンビになって追いかけてきた」

「やだそれ学校の怪談?!」

「福島先生に言われてソース100パターン作ったら【神の雫】が出来上がった」

「なにこれ調合の伝説?!」

「スケートリンクの氷を蒸発させたら、山根さんに心臓凍るほど怒られた」

「それは北極の海に落ちるより凍っちゃうね」

「修行始めるぞって言って、松本先生が西洋竜ドラゴン召喚した」

「それで、お兄ちゃんも東洋龍シェンロン出しといた?」


 交互に話す俺とイオ。

 思えばツッコミ満載な修行だったな。


「あと、詩川先生が捕獲用アイテムくれた」

「リユにも何か作ってもらってるって言ってたぞ」

「うん、出来てるよ」


 食事を終えてテーブルが片付いたところで、妹ちゃんが異空間倉庫ストレージからレース編みセーターみたいな服を取り出した。

 少し緑がかった茶色いレース糸らしき物で編まれた、涼し気な夏用セーターに見える。


 ……いやまて。その素材は……!


「これが捕獲用アイテム?」

「ただの糸じゃないよ、前にモチが教えてくれた、300メガ倍増のアレ使用なの」


 俺は一気に青ざめた。

 間違いない、アレだ。

 動植物学部にあったアレだ。


「2人に持たせるように言われてるから、渡しておくね」

「使い方はモチが知ってる……のかな?」


 3人が、不思議そうに首を傾げて俺を見る。

 俺は、ハッと我に返った。


「………それ、首には絶対近付けるなよ」

「え? 着る物じゃないの?」

「腰に巻いとけ」


 俺が言うと、イオは少し首を傾げた後、レース編みセーターを腰に巻いた。

 動植物学部で見かけた後、俺はコッソリ調べたんだ。

 アレは、絶対に首には近付けてはいけないやつ。

 【ナーゴの変な生き物図鑑】に載ってるアレは、危険な特殊効果をもっていた。

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