第28話:氷魔法講習と身体強化

 3つ目の飛ばされ先は、冷凍庫のように寒い部屋だった。

 体育館よりも広い室内の床は、白い氷に覆われていた。


「寒っ! 何だこの部屋……」


 呟きと共に吐いた息が白くなる。

 俺は凍った床に右の掌を向けた。


「出てこいフラム、氷を融かせ」


 命じると不死鳥フェニックスが現れて、氷上を優雅に旋回し始める。

 床を覆っていた氷だけが超高温で融けて蒸発した。

 室内の他の物は燃えたり焦げたりせずにそのままだ。

 冷凍庫みたいな寒さではなくなり、室内の温度は冷房を強めに効かせたくらいになった。


「ふう、これで過ごしやすくなったな」

「何やってんのよ」


 戻って来たフラムを撫でながら、氷が無くなった室内を見回す俺。

 その背後から、低くて怖~い声が聞こえた。

 俺は凍り付いた。精神的な意味で。

 声の主が誰かは、すぐ分かった。


「誰が氷を融かしていいって言った?」


 山根さんだ。

 絶対零度の美少女が、白いワンピースを着て、部屋の扉の前に立っていた。

 作動部の着物姿も美しいが、フィギュアスケート選手が着るようなワンピース姿も麗しい。

 でも心を凍結させそうなくらい怖い。


「この後、体育学部のフィギュアスケートクラスが練習に来るんだけど」


 ……やばい。

 氷全部消しちゃったよ。

 フラムまで怯えて目を見開き、両翼で俺に抱きついた。


「氷、出・し・て・くれる?」


 凄まれて、俺はヒィッとすくみ上がった。

 フラムも抱き付いてガタガタ震えている。


「……す、すいません、俺まだ氷……」

「なんか言った?」


 氷魔法を覚えてない、と言わせてくれない山根さん。

 俺とフラムが目をウルウルさせ始めたところで、山根さんは片手を俺の頭上に近付ける。

 凍らされる?! 物理的な意味で。

 と思ったけど、山根さんは、異空間倉庫ストレージから出した本で、俺の頭を軽く叩いただけだった。


「へ………?」

「あんたが氷魔法をまだ使えない事くらい知ってるわよ。これで習得しなさい」


 呆然とする俺に、山根さんが手渡す本。

 それは氷魔法の魔法書だった。


「覚えたらここの床一面に氷を張って、アイススケートリンクを作りなさい」

「は、はい!」


 表情が絶対零度から-40℃くらいになったけど、山根さん怖い。

 俺は必死で魔法書を読み、氷魔法を覚えた。


最上位氷魔法マヒャデドス!」


 起動言語を唱えると、ブワッと氷の結晶が部屋全体に舞い、床に落ちたら凍結が一気に広がった。

 床は氷に覆われ、スケートリンクに変わる。

 氷の表面は鏡のように平らで滑らかだ。


「やれば出来るじゃない。ここでの修行は終わりよ。次へ行きなさい」


 命拾いしたと思った後、山根さんが起動した転送陣で、俺たちは次の場所へ飛ばされた。

 飛ばされた場所4つ目は、以前来た事がある場所だった。


 西洋の円形闘技場にドーム状の屋根が付いた、体育学部の建物。

 武道館と呼ばれている場所だ。


「これまでの流れでいくと、今度は俺の修行かな」

「その通りだ。モチはベンチで休憩してていいぞ」


 イオの呟きに答えるのは、松本先生。

 俺は精神的に瀕死だったから、ホッとしたようにベンチに座った。


「じゃあ修行始めるぞ」


 松本先生が片手の指先で空中に六芒星を描く。

 西洋竜ドラゴンが現れた!


「ここでの課題は、お前の身体強化をフル使用してあれを倒す事。4つ全部使えよ」

「はい」


 松本先生はイオが習得した4つの身体強化魔法を知っていた。

 それは属性神が創った魔法で、世界に1人だけが授かるもの。

 爆裂魔法や完全回避と同じで、それをもつ者が存命中は、次の習得者は出ないらしい。


 火神の激怒イグニス:一撃のダメージを大幅に上げる。

 水神の必中ティアマト:物理・魔法問わず命中率が100%になる。

 地神の慈悲ガイア:体力が半減している敵を即死させる。

 風神の息吹ルドラ:行動の素早さが大幅に上がる。


 その魔法を、イオはまだ使い慣れていなかったそうで、最初は1つ1つ試すように使っていた。

 火神の激怒イグニスを使うだけで、ドラゴンは即死だ。

 以前に黒オークを倒した時に使ったのがその魔法だろう。

 水神の必中ティアマトは夢幻種の捕獲で既に知ってる。

 地神の慈悲ガイア風神の息吹ルドラを使うのは、今回初めてだったそうだ。


「よし、合格!」


 イオが1頭のドラゴンとの対戦で身体強化を4つ全て使用して倒すと、合格となった。

 魔法の効果を把握させることが目的だったらしい。


「捕獲任務に使いどころは少ないかもしれんが、自分の魔法の性能を把握するのは大事だからな」


 言いながら、松本先生が片手を向けると、足元に魔法陣が現れる。

 もう飛ばされ慣れてきた俺たちは、次の場所へと移動した。

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