第27話:赤い鳥と青い鳥

 笹谷さんに飛ばされた先は、五右衛門風呂みたいな巨釜おおがまに、お湯が煮えたぎる部屋だった。

 俺はなんと、その釜の中に落下!


「モチっ?!」


 イオがギョッとして叫ぶ声が聞こえた。

 しかし、煮えたぎる熱湯の中に落ちた俺は何ともなかった。

 ボコボコと大きな泡が出るほどの高温なのに。

 ちょうどいいくらいのお湯に浸かってる感じだ。


「あ~いい湯加減。服着たまま入りたくはないけど!」

「悪いけどそこ、風呂じゃないから」


 悠々とお湯に浸かる俺。

 突然声がして、慌てて振り向いたら、そこには福島先生がいた。


「早く出てくれる?」

「す、すいません……」


 福島先生には【デビルアイさん】の異名があり、睨むと山根さんとは違った魔的な怖さがある。

 俺はビビリながら釜の外に出た。

 火にかかっている鉄釜のフチに触っても火傷しなかった。


「笹谷くんのところで、不死鳥フェニックスの孵化に成功したみたいね」


 福島先生に驚いた様子は無かった。

 ここに来る前にどこで何してたか知ってるらしい。


「モチはそこの椅子で休憩してていいわ」

「は、はい」


 言われて、俺は福島先生が指差す木の椅子に腰かけた。

 フラムと名乗った不死鳥フェニックスが、右手からシュルンと出てくる。

 俺の周囲を1周しながら、フラムは衣服を乾かして、また右手の中へ戻っていった。


「ここではイオに修行してもらうわ」


 言いながら、福島さんが釜に向かって指をパチンと鳴らす。

 大コンロの火が消え、釜の中だけ時間が巻き戻ったように、煮えたぎっていたお湯が常温の水に戻った。


「俺は何すればいいですか?」

「ソース作りを100回やってみて」


 福島先生がパチンパチンと指を鳴らす度に、ドンッドンッて感じでハーブやスパイスや調味料の入った壺が出現する。

 調合道具一式も一緒に出てきた。


「失敗してもOK。もしも奇跡が起きて【神の雫】と呼ばれる伝説のソースを作れたら、ご褒美あげるわ」


 福島先生がニッコリ微笑む。

 頑張れイオ。

 俺は椅子で休憩しながら、見物人と化した。


「イオは確か調理は得意だったわね。でも今は調理の事は考えず、思いのままに素材を混ぜなさい」

「はい」


 妹ちゃんにお任せで普段は料理を作ることは無いが、イオも調理は得意分野だ。

 給食室や料理学部でも見たことないようなスパイスを含め、種類豊富に用意された素材。

 イオはそれを、片っ端から混ぜてみる。

 素材を適当に選んで、混ぜて、次々にソースを作る。

 運勝負なので、味見は無し。

 ひたすら混ぜて混ぜて、出来たソースをテーブルに並べている。


 100回目のソース作りの時に、奇跡は起きた。


 食欲をそそる香り。

 ベースはウスターソースにガーリックか?


「……なんか、凄い美味そうな匂いがする……」

「さすが、前世でも福音鳥ハピネス主人マスターだった子。やるわね」


 俺が呟いたら、福島先生も満足そうに言う。

 やり遂げたイオが、ソースを入れた容器をテーブルに置いた直後……


 パキンッ!


 ……何かが割れた音がする。


 イオの右手から、青い鳥が飛び出した。

 青い鳥は急速に大きくなり、飾り羽根が多く尾羽の長い、華やかな姿に変わる。

 それが、イオの前世に仕えていた福音鳥ハピネス「ベノワ」の復活だった。


「神の雫まで作ったのは凄いわ。はい、これご褒美」


 福島先生が、イオに布袋を渡す。

 布袋の中には、1つ1つ個包装されたチョコレートボンボンが入っていた。


「私が作った回復効果つきボンボンよ。ポーション代わりに疲れた時に食べなさい」

「ありがとうございます!」


 イオは布袋を異空間倉庫ストレージに収納した。


「ここでの修業は終了よ。次、いってらっしゃい」


 って福島先生が片手を振ると、またモチと俺の足元に魔法陣が現れる。

 3度目になるともう悟った気分で、俺たちは次の場所へ飛ばされて行った。

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