第23話:ついてきちゃうモフモフたち★

 夢幻ウサギから離れて、ダンジョンの奥へ進む俺たちは、想定外のことに困惑した。

 通路を進む3人の後ろから、ついてくるのは3匹のウサギ。


「……ねえ、あれ、ついて来てる……よね?」


 チッチが猫耳を後ろに向けて言う。

 ウサギは一定の距離を保ちながら、俺たちの後ろをついてきている。


「……夢幻ウサギが、仲間になりたそうにこちらを見ている」


 思わず俺は呟いた。

 リリースしたウサギ3匹に、ストーキングされるってどういうこと?!


「「……どうして、こうなった……?」」

「初めて撫でてもらって、気持ちいい事に気付いた……かな?」


 ハモる俺とイオに、チッチが苦笑しながら言った。

 どうしたらいいか分からんので、付いて来るのをそのままにダンジョン内を進む。

 奥に進むと、ダンジョン内は次第に幻想的な風景に変わっていった。


「……増えて……来たね……」


 猫耳を後ろに向けたままピコピコ動かして困惑顔のチッチ。

 他の動物は逃げるのに、夢幻ウサギは近くを通っても逃げないどころか、俺たちの後ろをついてくる。

 増える増える、白い翼つきモフモフ小動物集団。

 おいおい、これどうすんの?!


 やがて、ダンジョンの奥が大きく広がる場所に出た。


 そこにあったのは、幻想的な風景。

 リーン、リーンという鈴虫のような音がする。

 水晶のように透明な木々や草が白く淡い光を放つ空間に、蛍のような小さな緑の光がフワ~ッと舞っていた。

 天井が見えない。見上げても夜空のように感じる。

 星のような小さな光は、天井に嵌ってる水晶が発光しているのか?


 初めて来る場所なのに、以前に来たことがあるような気がする。

 きっとここは、前世でも来た場所なんだろう。


「ここ、洞窟の中だよね?」

「うん」


 イオが問い、チッチが頷いて答えた。

 洞窟という感じがしない、広々とした風景だ。

 普通のダンジョンなら奥へ進めばボス戦があるんだけど、このダンジョンにはそれが無い。


「ここで怪我をしてる子を見つけたんだけど……」


 言いながら、周囲を見回すチッチ。

 それらしき生き物は見当たらなかった。

 俺たちは目的の生き物を探すため、幻想的な森の中へ入る。

 歩いている足元の草から、蛍のような光が幾つも舞い上がった。


 少し進むと、チッチが地面を見てハッとした。


「夢幻種の血だ」


 言われて見たそこには、虹色の光沢がある液体が落ちていた。


「多分、近くにいる………いた!」


 辺りを見回して、チッチが遂に発見した。

 そこにいたのは、純白の仔馬。

 ウサギと同じように背中には白い鳥の翼、額には1本の白いツノがはえてる。

 脇腹に大きな切り傷があって、そこから虹色の血が流れ続けていた。

 倒れて動かないように見えるけど、近付けば逃げるかもしれない。


「イオ、僕に身体強化お願い」

「OK」


 チッチの願いに応えて、イオが強化魔法を起動する。


水神の必中ティアマト!」


 身体強化されたチッチが捕獲玉を投げると、仔馬はあっさり捕まった。

 透明な球体の中、仔馬は目を閉じて倒れた体勢のままだ。

 もしかしたら、もう逃げる体力は残ってないかもしれない。


「昨日より弱ってる……急いで治療しなきゃ!」

「ちょい待ち、回復魔法は、効かない?」


 慌てて帰ろうとするチッチに、イオが訊く。

 そういや彼は、全属性の最上位魔法を手に入れたよな?

 その中には当然、回復系の聖魔法もあるよな?


「効くけど今ここに使える人は………あっ」


 チッチが気付いた。

 習得してから今まで使ってない、回復魔法の存在に。

 チッチはベルトポーチに入れた捕獲玉を、そっと取り出して両手に乗せた。


最上級回復魔法エクストラヒール!」


 球体の中でグッタリしていた仔馬の傷が癒えて、ぱっちり目を開けた。

 その瞳は、七色が混じり合った宝石みたいに見える。

 仔馬自身も傷が完治している事に気付いたらしく、キョトンと首を傾げる仕草が可愛い。


「良かった……。もう大丈夫だね」


 チッチは捕獲玉から仔馬を出してあげた。

 仔馬は、ウサギと同じく呆然と固まっている。


「地球の馬なら、首を撫でてあげると喜ぶんだけどな」

「そうなの? じゃあ撫でてあげよう」

「じゃあ俺も」


 仔馬の首を撫でるイオを真似て、チッチと俺も撫でてみた。

 撫でられた仔馬は、気持ちよさそうに目を閉じる。

 背後にいる夢幻ウサギーズがピンッと耳を立ててソワソワした。


 帰り道。


「……ついて来ちゃったね……」

「……夢幻ユニコーンと夢幻ウサギたちが、仲間になりたそうにこちらを見ている……」


 猫耳を後ろに向けて苦笑するチッチ。

 俺も半ば放心しつつ呟く。


 夢幻ウサギの群れに、加わった夢幻ユニコーンの子供。

 彼らは俺たちが洞窟を出ても、後ろをついてくる。

 結局、動植物学部の飼育棟までついてきて、そのまま飼育されることになった。



※イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093075190161206

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