第21話:赤いタマゴ

「モチは前世で、不死鳥フェニックスと契約してたみたいだよ」


 ロッサ先生からタマゴの説明を受けた後、教えてくれたのは不死鳥の主のイツキだった。

 この世界では召喚獣をもつと、それに合わせた毛色になるという。

 全身が毛で覆われた猫人なら毛並み全体と瞳が、転移者のようなヒューマンタイプは頭髪と瞳が変化する。


「モチが赤いタマゴを育てたら、前世で仕えていた不死鳥が生まれてくるかも」

「じゃあモチ、これあげる」


 イツキから話を聞いたイオは、俺に赤いタマゴと指輪をくれた。


「せっかくの特賞だろ? 貰っていいのか?」

「いいよ。不死鳥が召喚獣になれば、自爆メガンテ使っても、江原に頼らず復活できるだろ?」


 俺が訊いたら、イオがそんなことを言う。

 気遣ってくれるのが嬉しくて、ウルッときてしまった。


 が……


「爆死だと蘇生薬が使えないからな」


 ……って、チャポチャポ振ってる、それ。


 使えたとしても、使われたくないぞ。


 学園の必須科目だとかで、最近習った救命講習。

 医学部の笹谷さんの授業とは違うやつ。

 医学の知識が無くても、あるアイテムがあれば蘇生や治療ができるんだ。


 医薬品の店で買えるという、蘇生薬と完全回復薬。

 それなりのお値段がするので、学生が気軽に使えるものではないけれど。

 冒険者になれば緊急用に必ず1つは持つそうで、学園では全ての生徒に使い方を教えている。

 その使い方というのが、簡単だけどハードルが高い。


 蘇生薬は死後24時間以内の死体に、完全回復薬はまだ生きている相手に、液状の薬を飲ませる。

 それを使う相手は死んでたり意識が無かったりして、自分で飲めない場合がほとんどだ。

 食道でも気管でも流し込めたらOKってことだけど、瓶を口に当てたくらいでは喉を通らず零れてしまう。

 それで、口を塞ぐようにしながら口移しで飲ませるんだと。

 人工呼吸のマウストゥーマウスくらいの難易度だぜ。


 講習時は人形を使って練習したけど、あれ実際にやれるかな?

 かなり躊躇するぞ。

 イオは「相手がモチならできるよ」って言った。

 親友を救うためなら口付けくらい平気らしい。

 おまけに、先日の買い出しで蘇生薬と完全回復薬を買ってきて、異空間倉庫ストレージに保管中だ。


 とりあえず、イオに蘇生薬を飲まされないように、不死鳥に孵化していただこう。



 ◇◆◇◆◇



 夏の森。

 深緑の森の中、二足歩行の黒い牛みたいな魔物たちに、スタスタと歩み寄るイオ。


「「ブモッ?」」


 なんだお前は? と言いたそうな声でハモる2頭は、ミノタウロスと呼ばれる魔物だ。

 その肉質は、日本の黒毛和牛のようだと松本先生は言っていた。


「「ブモォ~?」」


 怪訝そうなミノタウロスたち。

 大柄で力も強い魔物に、ほとんど無防備で向かっていく6歳児イオ。

 左右からジリジリ近付いて来る、二足歩行の巨大黒毛和牛みたいなミノタウロスたち。

 互いの鼻息がかかるくらいの至近距離まで接近した。


 はい、俺の出番ね。


上位火魔法メラゾーマ!」


 俺はミノタウロス2匹がスッポリ入るサイズの火球を飛ばした。

 ミノタウロスたちは一気に猛火に包まれた後、地響きを立ててその場に倒れた。


「さすが異世界人、上位魔法が最上位並の火力だね」


 俺の後ろで感心してるのは、一緒に狩りに来たチッチ。


 抽選会で最上位魔法セットを手に入れたチッチは、魔法学部の授業も受けるようになった。

 今日は野外授業で、夏の森でミノタウロス狩りをしているところだ。

 俺は抽選で当てたカードから習得した火魔法を使ってみたら、属性適正値が高かったようで、普通の人より高火力になっている。


 そんな俺の右手、人差し指には赤いリングが嵌まっている。

 赤いタマゴと一緒に貰った指輪だ。


「火魔法が使えるなら、それを使ってると孵化に必要な魔力が早く貯まるよ」


 ってロッサ先生が教えてくれた。

 だから張り切って火魔法を使いまくっている。


「上位魔法をこんなに使い続けてへっちゃらなんて、モチの魔力はどうなってるんだろうね」


 チッチが苦笑して言う。

 そういや俺、魔法を連発しても魔力切れなんてなったことがないな。


「転移者や転生者は魔力が桁違いなのは聞いてるけど、両方の効果がついてるのかな?」


 俺たちのグループの目標数を狩り終えて、木イチゴに似た赤い実を採集しながら、チッチが聞いてくる。

 異世界転移も異世界転生も、能力の大幅な上昇があるそうだ。

 俺やイオみたいに、元はナーゴの住民が日本人に転生して、日本からこちらへ転移した場合は、ダブルで能力上昇効果がつくのでは?というのがチッチの予想だ。


「イオもダブル効果ついてるのかな?」


 チッチがイオにも訊く。


「え、俺? どうだろ?」


 イオはよく分からない様子だ。

 まあ、俺もどういう能力上昇があったのかなんて、さっぱり分からんけどね。

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