第19話:街の散策と抽選会★

 オトンヌの街、美味そうな物が多過ぎて胃袋が辛い。

 美術講師のアルバイト代が入るのは月末のことだ。


「ポークの串焼き、美味そう……」

「それはポークじゃなくて、オークだよ」


 ジュウジュウ焼ける肉の香りがたまらん。

 俺の呟きに、イツキがツッコミを入れた。


「モチ、奢るから串焼きみんなで食べよう」


 そこへ、神の声がっ!

 勢いよく振り返ってみたら、神のように後光が差した(ように見えた)イオがいる。


「奢ってくれるの? ありがとう~」


 と言うイツキにも、イオが神に見えたに違いない。

 イオの隣でニコニコしているチッチが、お付きの天使に見えるぞ。


「串焼きデカイから、とりあえず1本ずつでいいかな」

「屋台巡りをするならその方がいいよ」


 硬貨が入ってるっぽい革袋を出しながらイオが訊くと、俺たちではなく屋台のオジサン猫人が答えた。

 串焼き1本がバーべQの鉄串サイズのデカさだから、それで充分だ。


「これをかけるとサッパリした味になるよ。串焼きを食べた後に齧るのもいい」


 そう言ってオジサンが俺たちに配るのは、柑橘系の果実をカットしたもの。

 串焼きは塩コショウに似た味。

 タン塩や唐揚げにレモン汁をかけるようなものだな。

 

「いただきまぁす!」

「「「ゴチになりまぁす!」」」


 屋台横のベンチに並んで座るイオとその下僕たち(本日限定)が、一斉にかぶりつく。

 炭火で炙られたポーク肉は、こんがり焼けた良質な豚バラ肉のようだ。


「「うまっ!」」

「やっぱりここの串焼きイチバンだね」

「うんうん」


 俺とイオがハモり、チッチとイツキが頷き合う。

 半分ほど食べたところで柚子レモンぽい味の果汁をかけて、味変わりを楽しむ。

 みんなペロリと完食して、屋台のゴミ箱に串を片付けると、4人で屋台巡りに出た。

 この世界の食文化は地球からの転移者の影響を受けているようで、ケバブや焼きトウモロコシや焼き芋やリンゴ飴っぽいものが売られている。


 しかし、それらよりも、強烈なオーラを放つものを、俺は見つけてしまった。

 俺は無言でイオを肘でつついて、振り向いたところで【それ】を指差す。


「な、なんでアレがこんなところに…?」

「え? 日本あっちにもあるの?」


 呆然と呟くイオに、チッチが言う。


【それ】は、日本人なら多分誰もが知っている物。

 ガラガラ回して出てくる玉の色で景品が決まる、【ガラポン抽選器】だった。


「なんで異世界こっちに……?」

「いらっしゃい……?」


 吸い寄せられるように俺が近付いていったら、受付の猫人が軽く引いた。

 多分、俺は動揺した時に無意識になる変顔、鼻の穴広げて真顔になっていたんだろう。


「すいません、初めてこの街に来たんですが、その道具は何に使う物ですか?」

「この2人は最近こちらに転移して来た異世界人なんだけど、元の世界の道具と似た物を見て、興味を持ったみたいだよ」


 イオ、イツキ、ナイスフォローだ。

 俺の変顔に引いてた猫人が、本来の営業スマイルになる。


「そうでしたか。これはガラガラと呼ばれる、幸運度を調べる魔導具なんですよ。出た玉によって魔法協会から様々なプレゼントが貰えます」

「やってみたらいいよ。特にイオは運に恵まれてそうだし」


 抽選の受付嬢の説明に続いて、チッチが何やら意味深にウインクして言う。

 小鳥サイズに縮んでチッチの肩に乗っている福音鳥ハピネスまでウインクしているぞ。


「運試しをしてみたいんですが、おいくらですか?」

「銅貨1枚です」

「じゃあ銅貨4枚渡すので、1人1回ずつお願いします」


 黒真珠が高額で売れたのか、今日はやけに気前がいいな、イオ。

 俺とチッチとイツキの分まで出してくれるとは。

 ありがたくガラポンを回させてもらうよ。


「じゃあ最初にやって見せるね」


 最初はイツキ。

 ガラポン改めガラガラの取っ手をつかんで、ゆっくり回す。

 コロンと出た丸い玉は赤色で、淡く発光していた。


「はい、こちらをどうぞ」

「お、まだ持ってなかった魔法だ」


 抽選受付嬢からカードを手渡され、イツキが嬉しそうに言う。

 カードは魔法を習得出来るアイテムらしい。


「次はモチがやってみなよ。チッチはいい物引き当てるの分かってるから、先に引いといた方が残念感が少ないよ」


 ってイツキがアドバイスするから、次は俺がガラガラを回す。

 コロンと出た玉は赤色で、イツキが出した玉よりも強い光を放っていた。


「さすが転移者さん、運が高いですね。はい、こちらは火属性の上位魔法ですよ」


 魔法カードきた!

 しかも上位!

 差し出されたカードのデザインは、イツキのカードよりも派手になっている。


「………モチは、メラゾーマを、おぼえた」


 と呟く俺を、イオが苦笑しながら見ている。

 また変顔になってたか?

 それとも、他社のゲームの魔法名を言ったからか?

 この世界では、魔法は使い手が好みで名前を付ける。

 魔法そのものの呼び名としては火属性の上位とか下位とかだけだった。



※抽選会イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093075533308971

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