第17話:豚に黒真珠

 イオは採集に出かけたのかと思ったら、ちゃっかりポークを1匹ソロ狩りしていた。


 しかも……


「これは上位種だね。普通のオークよりも能力は高い筈だ」


 ……上位種、だと?!


 イオが異空間倉庫から出した獲物を見せると、ロッサ先生が教えてくれた。


 ポーク狩りに参加したメンバーは全員揃って、解体作業のため動植物学部に来ている。

 全校生徒に配れるくらいの数のポークを狩ったので、今は解体で大忙しだ。

 順番に異空間倉庫ストレージから取り出して、動植物学部のメンバー指導で、魔法学部のメンバーも解体作業に加わった。

 最後の解体作業でイオが出した獲物が皆の注目を浴びる。

 そのポークは他のやつと毛色が違い、二足歩行の黒豚という感じの容姿だ。


「上位種は解体するとレア品が出てくるよ」


 と言うロッサ先生が解体したら、黒いテニスボールくらいの玉が出てきた。

 先生はそれを綺麗に水洗いして、タオルで水を拭き取るとイオに手渡す。


「レア品はトドメを刺した人の特権だからね。これは君の物だよ」

「お~すげえ、黒真珠じゃん」

「街の宝石商に売ったらかなりの額になるぞ」


 狩り経験豊富な獣人の生徒たちが言う。

 黒光りする丸い玉は、高額で売れるレアアイテムらしい。

 いいなイオ、一気にお金持ちじゃないか。

 どこで上位種を見つけたのか、後でコッソリ教えてもらおう。


「街はまだ行った事ないだろ? 案内してやろうか?」

「是非!」


 おっ?! 街へ行けるチャンス?!

 まだ学園から出たことの無いイオと俺が、期待に胸を膨らませる。


「木の実でも採りに行ったと思ってたら、そんなもん狩ってたのか」

「っていうかイオ、攻撃魔法かスキル覚えたの?」

「図書館で勉強して最近覚えたんだよ」


 俺は、イオがいつの間にレアポークをソロ狩りするほど強くなっていたのか気になる。

 他のメンバーも興味津々だ。

 しかし、返ってきた答えは適当だ。

 俺は、何か良いことがあったような顔のイオが、「内緒」とか言ってたのを思い出した。


「あの膨大な数の本を、全部読むとか言うのお前くらいだと思うよ」


 図書館と聞いて、本の膨大さを知る人々が苦笑する。

 あそこの本、1億冊以上あるんだって。

 そりゃあ全部読むとか途方もない目標を立てる奴はそうそういないだろう。



 解体作業終了後。

 一同はポーク肉を給食室へ届けた。


「おばちゃーん、この肉でトンカツ作って~!」

「あいよ~、準備は出来てるよ~!」


 給食のおばちゃんたちは、料理学部の生徒もヘルプに呼んで準備を整えてくれていた。

 ここで働く女性陣は全員既婚者で子持ちだから、「おばちゃん」呼びで大丈夫だ。

 妹ちゃんたちが手伝いに来ていて、せっせと衣つけをしている。


「衣つけ、あんたたちも手伝っとくれ」

「ま~かせて!」


 おばちゃんに頼まれて、俺も手伝いに入った。

 こう見えても、衣つけなどの下ごしらえは得意だ。

 イオたちも加わる。

 人海戦術であっという間に作業完了!


「この世界って赤味噌ある?」

「お兄ちゃん、味噌カツ食べたいんでしょ。私が作れるから楽しみにしてていいよ」

「お、おぅ」


 イオは、妹ちゃんに味噌カツを期待しているようだ。

 妹ちゃんはぬかりなく、その日の給食は「選べるタレのトンカツ定食」になった。

 カツ丼やカツカレーを希望する者も多く、トンカツ定食かカツ丼かカツカレーか、好きなものを選べるメニューだ。

 ちなみに、鬼激辛がデフォルトな福島先生のクラスの生徒たちは、誰もカツカレーを選ばなかった。



 ◇◆◇◆◇



 今夜も爆睡のイオ。

 その胸に耳を当てて、俺は相変わらずの生存確認をする。

 それから、ぐっすり寝ているイオの横に座り、その手を掴んで掌を確認してみた。

 イオはまだ攻撃魔法を使えない。

 コッソリ剣術の特訓でもしてるのかと思ったんだ。

 でも、掌にはマメが見当たらない。

 完全回避の効果で傷を負わなくなったから、特訓してもマメが出来ないとか?


「この手のどこから、黒ポーク倒すような剣技が出んの?」


 柔らかいぷにぷにの手は、自分の倍以上ある大きな獲物に斬撃を浴びせて倒すようには見えない。

 しかし、解体の時に見た黒ポークは、刃物で切り裂かれた痕跡があった。

 禁書から得たスキルか何かか?

 イオは一体どんな技を覚えたんだろう?

 しかし、一度寝たら朝まで起きない奴が答えることは無かった。

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