第15話:解体と調理★

 引率の先生無しで行った初めての狩りは、アッサリ楽勝で終わった。

 

「血抜きとか解体とか、やり方が分からないね」

「とりあえず、異空間倉庫ストレージに収納しとこう」

「動植物学部の先生なら解体出来るかも」


 イノシシ4匹を異空間倉庫ストレージに収納して、学園に帰った俺たち。

 松本先生に狩りの結果報告をしたら、動植物学部の先生と生徒に解体してもらうように指示された。


「イノシシが穫れたので解体をお願い出来ますか? お肉おすそ分けします」

「いいよ。何頭かな?」

「4頭です」


 動植物学部の先生は、体格の良い茶トラの猫型獣人だった。

 6歳児の俺たちよりデカいのは勿論だけど、学園長よりも大きい。


「じゃあ、解体するから君たちも見て、やり方を覚えるといいよ」

「「「はい」」」


 穏やかな口調で茶トラ先生が言う。

 俺・イオ・江原の3人がハモった。


「狩りや釣りをするなら、捌く事も出来るようにならないとね」


 茶トラ先生の名前は、ロッサ・シマさん。

 低くて深みのあるイケボの猫人、多分男性かな?

 猫人の性別は、イマイチ見分けがつかないけど。


「命を殺めるなら、調理して食べるところまで責任を持つんだよ」

「「「はい」」」


 ロッサ先生の言葉に、頷く俺たち。

 このイノシシたちは、食べるために狩ったもの。

 遊びで魔法をぶっぱなしたわけじゃない。


 先生の解体技術は、一流の板前みたいに動作1つ1つが滑らかで、無駄が無くて速かった。

 調理師免許を持つ俺よりも、見事な捌き方だ。

 といっても俺、イノシシを捌いたことはないけど。

 手伝いに入った学生たちも手際がいい。

 血抜きから解体までの流れをしっかり見学して、俺たちはそのやり方を記憶した。


「終わったよ」

「「「ありがとうございました!」」」


 また3人でハモった後、解体が終わったイノシシ肉をロッサ先生たちにお裾分けした。

 残りは異空間倉庫ストレージに収納して、俺たちは魔法学部の校舎前へ向かった。



「お、戻って来たな」

「焼き野菜も貰ってきたよ~」


 校舎前の広場では、魔法学部のメンバーがバーベQの準備をして待っていた。

 料理学部管理の畑から野菜を貰って来た人もいる。

 大きいのも含めてイノシシ4頭分の肉は、かなりの量になった。


「タレは色々作ってきたよ」

「ニンニクやショウガもあるからね」


 妹ちゃんと料理学部の生徒たちも来ている。

 校庭で大人数の焼肉パーティが始まった。


 日本のイノシシよりも、この国のイノシシの方が、獣臭さが無くて味が良かった。

 ショウガやニンニクを揉み込んで、炭火で炙り焼きして、料理学部の人たちが作ってきたタレに浸していただく。

 骨を煮込んで出汁をとったスープも作られた。

 豚骨スープよりもコクがある味で、そこにも肉と野菜が入れてあって、栄養と旨味たっぷりで美味しい。

 匂いに釣られて来た他の学部の生徒たちにも配られて、みんな大満足だった。


「よし、お前ら、明日も狩りに行っていいぞ」


 俺たちの成果を高く評価した松本先生から、次回の許可が下りた。

 ……というか先生、俺に教室を爆破されたくないんだね?

 狩りで魔法を使う方が成長するみたいだから、俺も教室爆破しているよりもいい。


「夏の森で楽勝なら、秋の森でオークを狩るといいぞ」

「オークってどんなやつですか?」

「二足歩行の豚みたいなやつだな。肉も豚肉みたいな味がするぞ」

「それはもうポークですね!」


 松本先生から次の狩りにオススメの場所と獲物を教えてもらった。

 俺の中で、その獲物の名前はポークになった。



 イノシシパーティが終わった後、イオはまた何処かへ出かけていった。

 多分、禁書閲覧室へ行ったんだろう。

 30分くらいで戻ってきたと思ったら、何かいいことがあったのかワクワクしている感じがした。


「おかえりイオ、なにか良い事あった?」

「うん」

「なになに?」

「今は内緒。明日の狩りに役立つよ」


 聞いてもこの時は教えてくれなかった。

 狩りに役立つ知識か裏技でも手に入れたんだろうか?



  ◇◆◇◆◇



 その夜もイオは爆睡だった。

 昼にイノシシ料理を腹いっぱい食べて、夕食もしっかり食べて、シャワーを浴びてスッキリして、ベッドに横になるとすぐ寝付いてしまう。

 日本に居た頃は、俺もイオも胃腸が弱くて少食だったのに、ナーゴに転移して身体が変化してから、かなり健康になったと思う。

 特にイオは【完全回避】の恩恵だとかで、怪我も病気もしない超健康優良児だ。

 俺も食欲はあるし身体は健康なんだけど、夜はすぐには眠れない。


「なんで俺は、毎晩お前の生存確認してるんだろうな?」


 熟睡中のイオの胸に耳を当てて鼓動を確認した後、身体を起こした俺は苦笑しつつ呟く。

 どういうわけか、イオが目を閉じて横たわっていると、心臓が動いているか、呼吸してるか、確認せずにはいられない。

 イオが生きていることを確認しないと、不安で眠れなかった。

 確認を終えると抱き締めて、温もりを感じたら安心して眠る。

 それはまるで、何かのトラウマのようだった。



※イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093075528736172

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