第6話:芸術学部と図書館★

 次に案内してもらったのは芸術学部。

 美術室から漂う画材の匂いは、地球のものとは違う。

 ナーゴの絵の具は植物っぽい香りがする。


「異世界の画材、興味深いな」


 この世界の絵の具を使って、この世界を描いてみたい。

 芸術学部の購買に並ぶ物は、アンティークショップにありそうな品々。

 フサフサした羽根が付いたペン、いいな。欲しいな。

 あの羽根ペンを使って、文字を書いてみたい。


「オススメはこれ。魔導具で、イメージした色を出してくれる色鉛筆だよ」


 俺が夢中で眺めていることに気付いた購買のスタッフが、商品の説明をしてくれた。

 イメージした色を出してくれる?!

 なにそれ、神品じゃないか!


 ほ、欲しい……


「あ~、買いたいけど、この世界のお金持ってないじゃん」


 ……が、所持金ねーわ。


 ベッドに寝てる状態での転移だから、なーんも持ってない。

 着の身着のまま、その服も身体が縮んだせいでブカブカだ。

 その話を男子寮メンバーにしたら、部屋のクローゼットに子供服があるよって教えられて着替えたんだ。

 寮生活で、衣服や食事は学園が提供してくれるので、基本的な生活には困らないらしい。

 でも、購買利用はさすがにお金かかるだろ。


「学園でアルバイトすればいいよ」

「「アルバイト?!」」


 苦悩している俺に気付いたカジュちゃんが、いい事を教えてくれた。

 イオまで食いついてハモってるぞ。

 異世界のアルバイトって何するんだろう?


「仕事は色々あるよ。料理が上手なリユちゃんは料理学部の講師になったし、寮の食堂で調理師もしてるから一番稼いでるかも」

「マジか……」


 イオが愕然としている。

 妹ちゃんが、異世界適応力高い件。

 彼女はしっかり者だから、ナーゴでも逞しく生きられそうだ。


「モチは漫画家なんだから美術の講師やれるんじゃない?」

「え~、でも魔法学部に入りたいし」

「掛け持ちすればいいよ」

「「出来るの?!」」


 掛け持ちだと?

 魔法学部の生徒と、美術講師の?

 やってもいいなら、やっちゃうよ?



 ◇◆◇◆



 続いて案内してもらったのは、学園の図書館。

 ここ、規模がデカ過ぎるぞ。

 一体何冊の本があるんだ?


 館内は吹き抜け、バロック様式の建物を思わせる豪華な内装。

 2~3階の高さまでありそうな天井。

 長いハシゴを使わないと、上の棚には手が届かない本棚。

 天井には彫刻が施され、青い空が描かれている。

 俺はしばし、天井の美しい絵に見惚れた。


 画材、何を使ったんだろう?

 本物の空かと思うような青、本物の綿雲のような白、よく見ると小鳥も描いてあった。

 年月が経っているだろうに、鮮やかさを維持する保存技術も気になる。


「あれ? イオがいない」


 カジュちゃんの声で、俺は我に返った。

 絵に魅了されている間に、イオがどこかへ行ってしまったようだ。


「あいつ本好きだから、どっかで読書に夢中になってるんじゃないか?」

「うん、そうかも」


 俺とカジュちゃんは二手に分かれて、六方に延びる本棚に挟まれた通路を順に見て回った。

 閲覧コーナーを中央に、延びる通路は全て1本道。

 通路の端から端まで見通せるのに、イオはどこにもいない。


「すいません、青い髪の6歳くらいの男の子が外に出てませんでしたか?」

「いえ、3人が入って来た後は出入りはなかったですよ」


 カジュちゃんが、図書館出入口付近にある受付へ聞きに行った。

 受付の席に座る司書さんは、フサフサ長毛の灰白斑猫だ。

 二足歩行の猫で、身体は俺たちよりデカい。


「ちょっと大声で呼んでみてもいいですか?」

「どうぞ」


 普段は静かにしないといけない図書館。

 人探しのため、大声を出す許可をもらった。


「イオ~?」

「どこ~?」


 カジュちゃんと2人で、呼びかけながら探し回る。

 まさか、本棚の隙間に入り込んで寝落ちてないだろうな?


「お~い、イオ、出てこーい」

「って、そんな狭いところにいないでしょ」


 本を1冊引っこ抜いて棚を覗き込む俺に、カジュちゃんがツッコミを入れる。

 いやいや、世の中には想定外なことが山ほどあるからな。

 6歳児が本の隙間に隠れているかもしれないぞ?


「イオ~?」

「モチ、真面目に探してよ」


 あちこちの本棚を覗いて呼びかけていたら、カジュちゃんに怒られてしまった。

 いやいや、これでも真面目に探してるんだぞ? 一応。


「イオ~?」

「どこ~?」


 そうして、また2人で大声で呼んでいると……


「呼んだ?」


 ……通路の1つから、イオが出てきた。


「もう、1人でいなくならないでよ」

「ごめんごめん」


 カジュちゃんに怒られて、謝るイオ。


 その通路、さっき見たけど?

 奥まで歩いて見回って、誰もいないの確認したばかりだぞ?

 本棚も(ツッコミ入れられながら)隙間まで見たぞ?

 こいつ一体どこに隠れていたんだ?



※イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093075362327582

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