第5話:体育学部と給食室★

 続いて案内してもらったのは体育学部。

 スポーツの他に、異世界ならではの剣術とか武器を扱う技術も学べる。

 冒険者を志す子供たちが入る事も多く、人気の学部だ。

 

「武道館で井上くんが練習試合するみたいだよ」

「お!面白そう」

「行こう行こう!」


 練習試合に出るという井上は、同じイベントチームの大学生バイトで、180cm超えの長身に骨太の割とガッチリした体格だった。

 力持ちだが敏捷度は低く、ドジなところもあって、たまに会社の備品を壊してカジュちゃんに怒られてたな。

 彼も6歳児の姿だけど、骨太な体格は残っている。


 アサケ学園の【武道館】は、日本にある武道館とはデザインが違った。

 円形闘技場という方が合っている、西洋にあるような建築物。

 それに屋根が付いていて、その屋根から風が吹いてきて、中の空気が澱まないようにしてある。


 中では井上が猫型獣人と向き合って、対戦前の一礼をしているところだった。

 井上、いつもかけていた黒縁眼鏡をかけていないから、別人みたいに見える。


「あ、松本係長だ」


 俺は、井上以外にもう1人、知っている人物に気付いた。

 審判はイベントチームの上司、松本係長だ。

 その容姿は元の姿と変わってない。

 井上よりも長身でガッチリ体型だった係長は、こちらでもそのままの姿だ。


「今は体育学部の講師だよ」


 カジュちゃんが教えてくれた。


 始まった練習試合、先に仕掛けたのは猫型獣人。

 床を蹴って一気に距離を縮めると、猫パンチを繰り出した。

 爪は出してないけど、人間サイズだから打撃力はありそう。

 井上はそれを何発か避けた後、最後に相手の腕をガシッと掴んで、ブン投げた。

 獣人は猫らしく空中で回転して軽やかに着地して、また距離を詰めると今度は猫キックを仕掛ける。

 井上はその足を掴むと、身体を捻って相手を床に叩き付けた。

 土煙が上がる床、というか土がむき出しで地面と変わらない。

 その土煙がおさまった後、対戦相手の獣人は倒れたまま動かない。


「勝者、イノウエ!」


 審判の松本係長が、井上の片腕を掴んで挙げさせ、勝利を宣言した。


「……井上がこんなにカッコイイ筈がない」

「井上くん、子供の頃はカッコ良かったのね」


 俺が呟いたら、カジュちゃんも感心した様子で言う。

 井上、異世界補正かかってるな。

 異世界アーシアだとVRゲームで鍛えたり女神さまから加護をもらったりしてステータスUPするんだけど。

 異世界ナーゴは自動的に補正がかかるのかもしれない。



 俺たちは武道館を出て、次の見学場所へ向かった。

 次に案内してもらったのは、生徒と教師たちの昼ゴハンを作る給食室。

 生徒が多いアサケ学園には、学生寮の食堂の他にも調理場があり、それがこの給食室らしい。

 寮生は朝食と夕食を学生寮の食堂で食べ、昼食は給食室で作られた物を教室または学生食堂で食べるそうだ。

 765名もの転移者が一気にきたので、学生食堂には入りきらないからね。


「あら、モチとイオも起きたのね」


 なぜか給食室から出てくる福島主任に声をかけられた。

 彼女も笹谷さんや松本係長と同じで、容姿は変化していない。

 プルミエタウンの抽選用魔道具【アタルくん】のCVは彼女の作り声で、地声はやや低い。


「お疲れ様です福島主任、もしかして給食のおば…ゲフンゲフン、おねえさんになったんですか?」


 あっぶね!

 危うく禁止ワードを言っちまうところだったぜ。

 福島主任はアラフォー未婚だ。

 言葉には気を付けないといけない。

 命が惜しければ、未婚の女性は全て「おねえさん」と呼ぶべし。


「給食スタッフではないけど、今日は豚キムチが出るそうだからリクエストに来たのよ」


 幸い福島主任は、俺が言いかけた事に気付いてないようだ。

 しかも、何かゴキゲンで去って行ったぞ。

 とりあえず無事に済んで良かった。


 ふむふむ、「豚キムチ」か。

 そういや福島主任は辛い物好きだったな。


「福島先生のクラス、今日は災難ね」


 カジュちゃん、災難とはなんぞ?

 福島主任がどこかのクラス担任っていうところには、もうツッコミは入れないけどね。


「「災難って何?」」

「福島先生は激辛好きで、給食でピリ辛系の料理が出る日は、自分のクラスだけ辛さUPリクエストするのよ」


 ハモったイオも気になるようだ。

 クラス全員分を辛さUPするとは、災難というより迷惑?

 


※武道館イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093075419714299

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