他のワナビは味方じゃない

 創作活動とは孤独なものだ。

 ただ一人で、誰かが読んでくれるという保証はなく、ましてやお金を生み出すあてもない小説や漫画を執筆することの、辛いことと言ったら!


 そんな時、創作者の仲間と触れ合うのは気晴らしになるだろう。

 今はSNSという便利なものもある。他人と創作について語り合い、大好きな小説や漫画の感想を話し合えば、楽しい時間になるかもしれない。


 だが、心にとめてくれ。

 自分以外のワナビが、味方とは限らないということを。


 私は色んな小説家志望者を見てきたが、この仕事の実態を知らずに一攫千金を狙う人というのは意外に多い。そして一攫千金とか言い出す人間は、創作が好きなのではなく、お金が好きなのだ。

 ワナビでありながら、他の創作者にも、実績のあるプロにも、何の敬意も払わず、金の話しかしない人間というものは、決して珍しくないのだ。


「XX(売れている作家の名前)みたいなヤツでも売れてるなら、俺の書いたものも売れるはずだ! だのに俺はデビューできない! 世の中はおかしい!」

 そんなことを平然と言い放つ。そんなワナビもいる。

 前回で触れたような詐欺師に騙されている人間がいて、可哀想な被害者かと思って話を聞いてみたら、このタイプのワナビだったという地獄のような現場に遭遇したことがある。こういうときは、そっと立ち去るのが得策だ。


 ワナビは、しばしば自分の同好の士を「善人」と決めつけて、うかつに自分の個人情報を漏らしてしまうケースが散見される。自分の電話番号やメールアドレス、ブログのアドレス、SNSのアカウント、あげく、プリントアウトした自作の原稿まで。

 だが、それは危険である。

 良い作品を作ることよりも、他人を陥れることに血眼になるワナビというものも、実在しているのだから。


 前回の話の中で登場した「プロのライターであるにも関わらず詐欺行為をしている人間」の一例として、小説家を目指して挫折し、その代わりにライターになったという人がいる。

 小説の公募に応募して最終選考まで残った経験があり、結局は挫折し、ライターとなり、でもプライドだけはプロ並みで、知識や経験を活かして詐欺行為を働く。

 まことに厄介な人物だった。


 こういうのがゴロゴロしているのが出版業界である。

 

 20年ほど前の話であるけれど、いつ商業デビューしてもおかしくないというレベルのセミプロの小説家が、ワナビの集団によって嫌がらせを受けて、すっかり創作意欲を失って退場する……というケースを目撃したことがある。

 現代でも、たとえば「なろう」で作品を掲載していたアマチュア作家が、自作の書籍化を発表すると、どこからともなくコメントが集まってきて、その中の少なくない数が作家を責める内容であるという。いわく、いくら金を払って出版社を買収したのかとか、俺の作品の方が優れているから辞退しろとか。


 つまり、この状況は今も変わっていないようである。


 この先は余談になるが、私はしばしば90年代後半から00年代前半にかけて、何か事業を始めようとする人に相談を受けるケースが多かった。その中には、Webで行うビジネスのアイデアを求める人がいたので、「誰でも自作小説をアップロードし、公開できるWebサービス」を提案したことがある。

 これには目的があった。

 その当時、すでに自作小説をアップロードして、ほかのユーザーからの感想を聞くことができる類似のWebサービスは存在していたものの、そこで有名になったワナビが、他のワナビの嫌がらせの的にされる場面をコミケで目撃した。

 ワナビが腕を磨くためのサービスが、潰すためのサービスになってしまっていた。

 これを憂慮して、ワナビがもっと気軽に自作小説を公開し、有望な作品を求める出版社との橋渡しをするWebサイトがあればよい、と思ったのである。

 また、当時はまだスマホが存在せず、ガラケーの時代だったが、ガラケーで入力した小説を気軽にアップロードできるサービスも立案した。

 いわゆるケータイ小説がブームとなり、「小説家になろう」が誕生したのは、それぞれの提案から間もなくのことである。

 私の提案が実を結んだのか、それとも、まったく同じアイデアが別の人から生まれたのかは、もはや確認する方法はない。


 役に立ったかどうかはさておいて、私は正しい提案をしたと信じている。

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