詐欺師にご注意

※胸糞注意!


 今回は、特に闇が濃い話をする。

 不快な事実であるが。この業界は詐欺師が多い。


 プロの小説家という仕事に幻想を抱く人は多く、プロになれば一攫千金などという勘違いをする人も多い。夢があれば、夢を食い物にする連中がいる。

 それが詐欺師である。


 典型的な手口を挙げよう。

 コミケなんかで、自作小説の同人誌を発表している人がいる。

 詐欺師は同人誌を読んで、さも、感銘を受けたかのような顔で「感動した!」と大げさに驚き、作者がそれを喜んだところで、

「知り合いにA出版の編集者がいるんだ! 紹介してあげるよ!」

 ……などと持ちかける。

 そして、工作費用などと称して金を無心するのである。


 おそらくは、ネットで似たような手段を使う詐欺師もいるだろう。


 この手口、いかにもという感じだけど、引っかかる人は意外にいる。

 前回、前々回で話した、業界の厳しさを知らない人ほど引っかかりやすい。

 具体性のない夢を抱いているから、詐欺師の嘘を見破れない。


 ところで詐欺を働くのはどんな奴かというと、まったくの素人ということもあるが、本物のプロのライターだったりすることもある。

 これがタチが悪い。

 業界の知識があり、本物の小説家や編集者にもコネがある。その上で、そのコネや知識を詐欺に利用するのである。

 ライター業は、企画が当たったり、担当編集者に恵まれたりしない限り、収入が少ないことが多い。その足りない収入を「詐欺」によって稼ぐ、堕落したライターというやつは、実在する。


 詐欺師が、自分を権威付けして、カモを騙す手段は幾つかある。

 たとえば、コミケに来た本物の編集者やライトノベル作家に、ただ単に「挨拶する」という方法。挨拶して、ちょっと世間話をして、立ち去る。ただそれだけのことを、カモの目の前でやる。


 カモは、たいていプロに憧れがあるので「ああ、あの人はプロと対等に話をしている! 本物のプロだ!」などと、勝手に感動して、騙されてしまうのである。


 ほかの方法としては、名刺を使うやり方がある。

 作家、または作家志望者で有望な人間は、しばしば編集者から名刺を受け取る。

 もちろん編集者は、連絡先を教えることで、持ち込みがあることを期待しているのである。これはただの、日常のビジネスの光景だ。

 だが、この名刺を、人を騙して奪ったり、あるいはもっと直接的に、盗んで手に入れてしまう詐欺師がいる。

 そして、その名刺を「コネのある編集者からもらった」などと言って、カモを騙す小道具にするのだ。

 もっと酷い例だと、自分自身がその編集者になりすますこともある。


 ここで話したことは、妄想でもフィクションでもない。全部私が見聞した事例である。

 なんだこれは! と愕然としたのであれば、きっと君は、常識人であろう。

 だが、常識人であるのならば、人並みの正義感を持っているのであれば、注意したまえ。


 もしも君の友人や知人が、詐欺師に騙されていたとして。

 どうするのが正解だろうか?


 社会的な意味での正解は、その詐欺師の手口を暴露して、打ち負かすことだろう。詐欺師は退場し、騙されていた犠牲者は自分の人生を取り戻す。どこかのミステリー小説のハッピーエンドのようだ。

 しかし現実に、そんなことができるだろうか?

 君という人間にとって、この行動が引き起こす結果は正解だろうか?


「だって、初めて人にほめてもらったから」

 これは、かつて私が出会った、とある小説家ワナビの言葉だ。

 あまりにもチャチな手口の詐欺に引っかかっていたので、なぜこんな手に騙されたのかと尋ねてみると、彼はそう回答したのである。

 人にほめられた経験が乏しい人というのはいっぱいいて、そうした人は、わざとらしいほめ言葉で容易くコントロールされてしまうようだ。


 詐欺師は、甘美な言葉を使う。

 あなたは特別だ。

 あなたは優秀だ。

 あなたは私の大切な人だ。

 人が誰しも、誰かに、言ってほしいと密かに願っている、美しい言葉。


 そうした言葉を信じてしまった人間は、いわば、洗脳された状態に陥る。

 そんな状態にある人に、君が、詐欺の手口を種明かししたり、詐欺師の発言の矛盾を論理的に諭したとして、信じてくれるだろうか?


 詐欺師の嘘を暴き、美しい嘘の裏側を、はらわたを引きずりだしたとして、犠牲者は歓迎などしない。君は嫌われ、悪評が付くことさえあり得る。


「あいつの話は嘘だよ。君の才能に嫉妬しているだけさ!」

 詐欺師がこんなことを言ったら、犠牲者はどっちを信じるだろうか?


 現実世界で正義を行うことのリスクと困難を、決して無視してはいけない。

 もしも君の友人が、詐欺師に騙されて、そこから現実に連れ戻すことが困難であった場合、見捨てることを選択肢に含めるべきだ。


 かくいう私も、詐欺師に引っかかった友人を見捨てられなかったがために、散々な目に遭っているので、人のことは言えないわけだが――

 この話を、ここでするつもりはない。


 とはいえ、むやみやたらと人を疑えばいいというものでもない。

 ただ、肝に銘じよう。この世にそうそう「都合のいい話」なんてものは無いのだ。

 編集者を名乗る人物から声がかかって、商業デビューのチャンスを得たと思ったその時こそ、警戒せよ。本当に、その人は信じるべき相手なのか?

 些細なことでも、聞いた話はメモを取り、矛盾がないかどうかを確認しながら、ことを進めるのだ。

 特に、相手の身元の確認は、決して忘れないようにしよう。

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