チョコレイト・デイ
かきはらともえ
小さなひめゴト
わたしはバレンタインデーが好きなのです。
今の気の使い合いみたいな環境のバレンタインはどうにも意味が感じられなくて億劫なので、あまり好みではありませんが、私はいわゆるバレンタインというものが好きなのである。
あの『青春している!』という感じが好きなのです。
それは幼い頃から愛読している漫画が古めの少女漫画だからかもしれません。
きゅんきゅんするような甘いぎっとぎとの少女漫画が好きで、少なからずそういうものに憧れがあります。
この高校三年間でわたしは一度お付き合いをした方がいらっしゃいましたが、今ではそういう関係もなかったことになっています。
「うっそ! チョコレートを持ってきてたの?」
放課後。
わたしは義理チョコも何もお渡ししないことにしています。昨今の時代の流れに対しての反抗です。
なので、持ってきたのは本命チョコです。
手作りなんていうのはさすがに気持ち悪いので、学生の身分にあるわたしのお財布事情ではなかなか手厳しい金額のチョコレートを包装してきました。
「好きな人がいたの? 誰なの? ぜんぜん知らなかった」
「そりゃあ言っていないからね。好きっていうか……、まあ、気になる人だよ」
「それって誰なの?」
「小野田くんだよ」
「あー……」
少し見上げて考える。
「なんで? 確かに清潔感もあるけど、別にかっこいいってわけじゃないし」
「なんでって言われてもなあ……」
「それってもう渡してきたの?」
「うん。やっぱり男子からすると大きなイベントだからね。ちゃんと手渡しだよ」
バレンタインになれば恋愛にヤキモキする少女から男子の視点に変わります。
そのときの男子のドキドキ感。
あれがいったいどれくらい本当かわかりませんが、わたしの読んできた漫画では大イベントです。
「はーん、かっこいいわねー」
と相槌を打って、
「それで返事はどうだったの?」
と言った。
「さあ? 別に告白したわけじゃないから。でも、受け取ってくれたわよ」
「告白しなかったの? 本命なのに?」
「だから飛躍し過ぎだって。あくまで気になるってだけだよ」
「どう気になるの? 夏奈と小野田くんが話しているところなんて見たこと、一度もないんだけど……?」
「別に何ってことはないわよ。なんとなく気になっただけだよ」
●
あれは年明けの頃だった。
掃除当番でごみを捨てに行ったときだった。
気怠そうに帰ろうとしている小野田くんとすれ違った。
「あ、木川」
すれ違ったところで、声をかけられた。
少しだけびっくりしながら「なに?」って振り返りました。
「おまえ、ささくれ凄いな」
とわたしの手を指差した。
言われて自分の指を見て、両手の指のほとんどがささくれていました。
わたしは小野田くんという人物を意識したのはこのときでした。
いきなり失礼なことを言われたと思いましたし、ちょっと恥ずかしかったという気持ちもありました。
デリカシーのない人だなと思いました。
それから意識するようになったんです。
そういう小さなきっかけがわたしの気持ちを動かしたんです。
ささくれみたいなきっかけがあったんです。
チョコレイト・デイ かきはらともえ @rakud
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます