僕のささくれだった心〜大好きなあの子は兄貴が好き〜【KAC2024参加で800文字ぴったり】

桃もちみいか(天音葵葉)

そうだ、分かっていたんだ

 僕は結愛ゆめと兄貴と夜桜を見に来ている。


 毎年の恒例ってやつ。


 近所の神社で催される『桜まつり』に三人でやって来るのは幼い頃から続いている春の風物詩ともいえる。


 関係に微妙なズレを感じた。


 僕の心がささくれだった。


 兄貴は僕の二つ年上で、僕と結愛は同い年。


 結愛が兄貴を好きなのはずっとずっと前から気づいていた。


 ――そして、じぶんが結愛を好きなこともずいぶん前から自覚していたんだ。


 なにかと先輩風を吹かせる兄貴が嫌いだった。だが同時に憧れている。

 矛盾の狭間で行ったり来たりする。


 兄貴はモテモテで絶えず彼女がいた。

 先月別れた彼女は誰もが振り返るような美人だったし僕にも気さくで良い人だった。

 ――兄貴があの彼女と上手くいってくれればきっと結愛も兄貴のことを諦めるのではないか? 好きが風化していくんじゃないかとか思ったりしてたわけで。

 ちょっと、自分にとって好都合でいやらしい下手な算段があったのは否めない。


 兄貴はどんな彼女でも関係が長続きしない。

 僕はその事実を知っていた。

 そして僕はも分かっていたんだ。



 付かず触れず、けど離れず。

 兄貴と結愛の二人の距離感が僕にはどんな結末が待っているかを残酷に教えてくれて。


 結愛、兄貴。そっと互いを盗み見るように視線が向いている。

 切なげな結愛。

 心を隠そうとする兄貴。


 兄貴を想い憂いている、そんな表情の結愛も僕には眩しくて可愛くて。


「亮介どうした?」

「あっ、いや。僕、あっちのいちご飴買ってくるよ」


 結愛はいちご飴が大好きだ。

 お祭りの時は必ずと言っていいほどお店に立ち寄って嬉しそうに買っている。いちご飴片手に無邪気な結愛は毎年僕らの前でとびっきりの笑顔を見せてた。


 分かってる。

 ――邪魔者は僕だ。

 二人の恋の障害になっているのは僕の恋心だ。

 だって、兄貴は知っている。


 人の良い兄貴は、弟の僕の結愛への気持ちに気づいている。




 だから……。





 僕がここから去れば、結愛と兄貴の想いが通い合うに違いない。






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