7.マジックバッグ
ある情報を小耳にはさんだ。マジックバッグのことだ。
「ねえテリア、テリアぁああ」
「どうしたの、アルルそんな大きな声出して」
「あのね、あのね」
「うん」
「マジックバッグがほしいよぉ」
「マジックバッグ? なにそれ?」
「あのね、見た目よりもたくさん荷物が入る魔法の袋なんだって。それでね、重量軽減の魔法も一緒に掛かっていれば、私でもたくさんお魚運べるらしいよ」
「それはすてきね、でもそんなもの実在しているの?」
「それは、たぶん、うん」
ちょっとしょんぼりしてしまう。
確かにマジックバッグは実在しているのだろうか。
噂話みたいなものなので、本物があるかは分からない。
でも魔道具店、というのは実際に存在している。
「一緒に、魔道具店、行ってくれる?」
「もちろんいいわよ。アルルに付き合うのも私の務めだわ」
「ありがとう~テリアぁ」
テリアと二人、手を繋いで、孤児院から出ていく。
向かう先は、魔道具店だ。
魔道具店はちょっと高級街の一角にあると思う。
孤児院は教会区にあるから、ここからはそれなりに近かった。
手を繋いで、テリアを感じながら、歩いていく。
これだけでも私は幸せだ。
テリアと一緒に生きているって感じられるもの。
目的のお店に到着した。
ドアを開けると、ドアベルがカランカランと鳴った。
「ごめんください」
「あら、いらっしゃい。珍しいハルピュイアさんね」
「はい。あの、あの、マジックバッグって存在していますか?」
「あはは、もちろん存在していますよ。当店でも取り扱いをしています」
「やったあ」
「航空宅配便アルルテリア?だったかしらね」
店員のお姉さんはウィンクしてくる。
そうです、そうです。その航空宅配便アルルテリアです。
「よくご存じですね」
「はい。楽しそうなことしているな、と思ったので。確かに一度にたくさん荷物が運べれば、いっぱいお仕事できますもんね」
「そうなんですよ。あの空間圧縮と重量軽減の両方が付いているものってありますか?」
「はい、それもございます」
「えへへ。それください。おいくらですか?」
「大きさにもよりますが。そうですね。一万ドロンからでしょうか」
「一万ドロンっ、ひえええ」
さすがにびっくりしてしまう。金貨十枚。一万ドロン。
「そんなに、お金ないよお」
「そうだよね、すみませんでした。では退散しましょうか、アルル」
「はい。しょぼん」
私は意気消沈して、とぼとぼ歩いて帰る。
「そうだ。アルル。トールさんとか元孤児院の商人さんとかに出資してもらって、マジックバッグを買うというのはどうかしら」
「でも、なんか悪いし。それって借金ってことだよね?」
「うん、でも借金じゃなくて、出資だよ。お金を返すのではなくて、儲かったら利益の何割かを納めるの。別にお金じゃなくて、お魚を納めるのでもいいと思うけど」
「なるほど。お魚の現物支給で、バッグ代を免除してもらうのね」
「そういうこと」
再び私はテリアの手を取って、さっそくトールさんのところに向かった。
「トールさんこんにちは」
「アルルちゃんか、どうしたんだい? 今日は魚の日じゃないよね」
「実は、私、マジックバッグがほしくて」
「ああマジックバッグね。いいよね。それならもっと魚だけでなくて、色々な種類も買ってきてほしいし、うちの店だけバッシングされないように、他の店にも売れるかもしれない」
「そうですよね」
「うん、それで?」
「あのですね。ほしいマジックバッグが金貨十枚なんです。でもほしいんです。それでなんだっけ」
「アルル、出資だよ出資」
「そうそれ、ありがとうテリア。マジックバッグに金貨九枚、出資してほしいんです。どうですか?」
背の高いトールさんに上目遣いで、見上げる。
「う、金貨九枚か、確かに高額だね。でもそうか金貨九枚かあ、わかった。トールお兄さんは、将来性をアルルちゃんたちに見ている。分かった。金貨九枚全額出すよ」
「おおお。ありがとうございます。ありがとうございます。トールお兄ちゃん」
トールさんは目が輝いていて、やる気に満ちていた。
「はい、金貨九枚、落とさないように」
「気を付けます」
黄金に光る、金貨が九枚も手渡しで預かった。
「よし、すぐにバッグを買いに行こう」
「はいはい、アルルは転ばないように、気を付けて」
「テリアだって、気を付けてね。それじゃあ安全に手を繋いでいこう」
「うん」
こうしてまた来た道を戻る。
魔道具店に戻ってきた。
「お姉さん、マジックバッグの代金、なんとか工面したので」
「あら、もう金貨十枚集まったの? すごいわね。どんな人がバックにいるのかしら」
「えへへ。金貨十枚です。お願いします」
「はい、確かに。すぐお出ししますね」
お姉さんが奥から出してきたマジックバッグは麻の袋みたいな普通の袋で、拍子抜けしてしまう。
「これをリュックサックの内側に入れて、持ち運べばいいのよ」
「なるほど」
リュックサックなどは自分に合う好きなものを選べばいいということだろう。
いつも使っている普通のリュックをそのまま使おう。
次の週の月の曜日。
「では行ってきます。お留守番おねがいします」
「はい、いってらっしゃい」
テリアと抱擁を交わす。
私は再び、北の海沿いの町ルベンリードに飛び立った。
バッグの出資だけでなくて、魚介類の仕入れに使う資金まで、トールさんは出してくれた。
夕方にルベンリードに到着した。
王都の新鮮野菜とかも持ってきてもいいんだけど、こちらはこちらで野菜も育てているから、多分不要だろう。
行きの荷物も何か積めればいいんだけど、何も思いつかない。
いつもの安い宿に泊まる。
ただし狭いけど一人部屋だった。テリアが口をとがらせて、一人部屋にしなさいってしつこかったので、それに従っている。
別に雑魚寝でも全然かまわないのに、とは思うけど、テリアが心配しちゃうから、無茶はしない約束だ。
宿屋のお魚料理はいつも美味しい。
次の日の朝、朝ご飯を食べた私はさっそく市場に向かった。
「お、いつもの翼人族のお嬢さん、おはようございます」
「はい、おはようございます。おじさん、いつもお世話になっています」
「いいってことよ」
お魚をいつもの量の倍、仕入れてみる。
「そんなに買って入らないだろう」
「あの、マジックバッグにしてきたんです。入ります、たぶん」
「あはは、確かめてないのかい?」
「う、確かに調べてみればよかった」
「まあ、入るだろう。じゃあ倍にさせてもらうよ」
「はい。ありがとうございます」
確かに重くないし、たくさん入った。そしてまだまだ入るのだ。
「他に何を買っていったらいいと思いますか?」
「そうだな。エビなんかがいいんじゃないか」
「エビですか?」
「そう。指ぐらいの大きさの手ごろなエビがいいよ。おっきいロブスターは高級になっちゃうからボタンエビなんかがおすすめかな」
「ボタンエビですね」
「まあ中くらいの大きさのエビならなんでもいいさ」
「分かりました」
結局おじさんが一緒に見てくれる。
エビというものを知った。
普通の状態では灰色だけど、茹でると赤くなるという。不思議だった。
ここの市場ではみんな生なので全部灰色のエビだ。
「エビをえっと、銀貨三枚ぶんください」
「そんなに買うのかい?」
「はい。飛んで王都で売るんです」
「なるほどねえ。えらいねえ、こんなに小さいのに」
「えへへ」
エビ屋のおばさんにほめられた。
それからハマグリという貝と、イカというちょっと変な触手生物を購入した。
たくさん買ったけど、バッグは特に重いとは感じなかった。不思議だった。
でもいくらマジックバッグでも時間経過はあるので、早く持っていく必要がある。
だから行商人がマジックバッグで鮮魚を買って王都まで運ぶのは無理なのだった。
トールさんには海鮮各種を卸した。
魚が多かったので、トールさんのお店に出入りしている御用商人の人に残りの魚介類をすべて売った。
「鮮魚ですか。これが噂の。すごいですね。ありがとうございます。ありがとうございます」
かなりの代金になったし、大変感謝されて、それはもう大げさだった。
なんだか、うれしいけど、こそばゆい。
トールさんのお店では、海鮮パエリアなどの新商品も曜日限定で売るようになった。
週に二、三回、買い付けに行ければ毎日海鮮メニューを出せるのだけど、私が疲れちゃわないように気を遣ってくれているらしい。
トールさんにも感謝しなきゃ。
もちろん留守番のテリアにも感謝です。
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