6.魚料理店
いつものように店番をしていたら、孤児院出身の料理店の店長、トールさんがやってきた。
年齢は二十五ぐらいで、長身イケメンだ。
「こんにちは、アルルちゃん、テリアちゃん」
「こんにちは、トールお兄さん」
彼は孤児院を出た後も、定期的に顔を出しにきていて、みんなに人気だった。
「アルルちゃんが生魚を持ってきて売ったっていう噂、聞いたよ」
「あ、はい。孤児院の子に魚料理を食べさせたくて」
「それでさ、お願いというか仕事の話なんだけど毎週一回でいい。鮮魚を届けてほしいんだ。そうしたら魚料理を出すことができる」
「あーそうですね」
「王都の一般のご家庭では魚だけ買ってきても、どうやって食べたらいいか分からないだろう?」
「はい。そうだと思います」
確かに前回は生魚を直接売っても買ってもらえたけど、料理の仕方が分からないなら、主婦のみなさんにはあまり買ってもらえないかもしれない。
「分かりました。一緒に魚料理を出しましょう」
「助かるよ、アルルちゃん」
お昼の仕事もあるので、朝から飛んで夕方帰って来るのは避けたい。
話し合った結果、お昼の門の仕事の後に飛び立って、一泊してきて、朝の新鮮な魚を買って、お昼前に戻ってくることになった。
一泊必要だけど、その経費も出してくれる。
「じゃあそういう契約で、いいかい?」
「はい。いいです。では、よろしくお願いします」
お昼ご飯を食べて、門を飛び回った。
一度、孤児院に戻って来て、そして北へ向けて飛び立った。
今日からさっそく魚を買いに行く。
今回はお金も出してもらえるので、心強い。
無事に、ルベンリードらしい町に到着した。
もう夕方だったので、そのまま宿を探す。
宿屋は前と違って普通グレードのところにした。予算はもらっているけど、そこまで贅沢できない。
宿屋の夕ご飯は魚料理だったので、とても美味しかった。
翌朝、さっそく市場へ行き、この前の場所へと向かう。
前回のおじさんが今日も同じ場所で同じ魚を売っていた。
「おじさん、おはようございます」
「お、おう。おはようございます。嬢ちゃん。また来たかい」
「はい。今日も銀貨三枚分、お願いできますか?」
「もちろんいいよ。まいどありっ! 氷も付けておくね」
「ありがとうございます」
おじさんに魚を売ってもらう。
「その調子じゃあ、順調に売れたみたいだね。いやあ、よかったよかった」
「はい、おかげさまで。今回からレストランにおろすことになりまして」
「そりゃよかった。露店での小売りよりも、買い取ってもらえるのは心強いな」
「はいっ」
とにかく、お魚をバッグいっぱい購入した。
広場に移動して飛び立つ。ちょっと重い。
「ようし、お昼までになんとか戻らなきゃ」
全速力、トップスピードで大空を飛んで行く。
途中休憩もして、王都に到着した。
トールのレストランに直行して、裏口がどこか分からないので、正面から入ると、中に入れてくれた。
「おおおう、アルルちゃん、おかえり」
「ただいまです。トールお兄さん」
ガシっと握手をする。
さすがに抱き着いたりはしない。
魚をさっそく下ろして渡す。
「うん、こんだけあれば午後の営業から売りに出せるな、ありがとう、本当、感謝だ」
「はい」
「さっそく看板書かないとな」
「看板って店の前の?」
「そうだよ」
「ほへぇ」
この看板とは地面に置く黒板の看板のことだ。
自分が買ってきた魚が看板で宣伝されるとか、ちょっと恥ずかしい。
「あ、そうだった。門のお仕事があるので、行ってきます」
「いってらっしゃい」
身軽になった私は先に王宮へと飛んでいく。
「どうも警部部さんこんにちは」
「おお、アルルちゃんか。はいこれが門への通知書」
「ありがとうございます」
王宮から門への連絡書を受け取る。
内容はたぶん「本日、特になし」とかそういうのだと思う。
それから各門を回る。
そこで連絡書を渡して、代わりに報告書を受け取ってくる。
また王宮へ行き、報告書を渡してお仕事終了だ。
孤児院に飛んで戻る。
「ただいまぁ~。テリアぁあああ」
「はいはい、アルルちゃん。おかえりぃ」
テリアにガバっと抱き着いて、すりすりする。
テリアは温かいし、柔らかいし、気持ちがいい。
「お魚いっぱい運んできたから、大変だったよ~」
「そうだね。アルルちょっと魚臭くない?」
「え~やだぁああ」
テリアに頭を撫でてもらい、いいこいいこしてもらう。
「お仕事入ってる?」
「ううん。これといってはないよ」
「そっか」
落ち着いたらお茶を飲んで、それから手仕事をする。
あっという間に夕方になった。
「じゃあさ、トールのレストランに行こうか」
「うん」
私たちは、レストランにお呼ばれしているのだ。
他の子たちには悪いけど、全員呼ぶほどお店は広くないので、みんなごめんね。
この前みんなにはお魚を食べさせたから、許してもらおう。
トールのレストランは、そこそこお客さんが入っていた。
「いらっしゃいませ」
「こんばんは」
挨拶をして席に案内してもらう。
指定席らしい隅のほうの場所だった。
出てきた料理は、魚のスープ煮込み、それから魚フライ。
パスタとパン、サラダ。
けっこう豪華だけど、そこまで高級というほどではないらしい。
メニューの値段も魚料理がちょっと相場より高いぐらいで、あとは普通だった。
「魚、魚」
「おーこれが、魚かあ」
などなど周りの席の人は、魚を注文して珍しそうに楽しんでいるようだった。
「魚、美味しい!」
苦労して運んできて、美味しいって言ってもらえると、やった甲斐がある。
食べ終わるころ、急にお店が混みだして、あっという間に満席になってしまった。
店の外には行列もできていた。
帰り際に小耳にはさんだところ、魚料理を出す店の噂話が、ちょっと周りで有名になったようだった。
翌日の夕方、トールお兄さんが孤児院にやって来た。
「いやあアルルちゃんのおかげで、お店は大繁盛。過去最高の売り上げだよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「ぜひ、来週もお願いしたいけど、いいよね?」
「はい。では来週の月の曜日にまた行ってきますね」
「よろしくお願いします」
またトールお兄さんと握手をする。契約成立だ。
金額は金貨とはいかないけれど、毎日こんな感じの契約を増やせば最低限生活できそうなぐらいの収入になりそうだった。
お魚輸送を始めたけれど、一度に運べる量は、リュックサックに一杯分。
私の飛行能力では、大量に荷物を運ぶことは無理だった。
もしもっと大量の魚を輸送できれば、王都の食生活ももっと変化すると思う。
それに私たちの収入も、輸送できる量が増えれば「宅配便」とはちょっと違って、商人的な利益になってしまうけれど、かなり儲かると思う。
そんなとき、ある情報を小耳にはさんだ。マジックバッグのことだ。
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