2.近隣の村

 お店を始めて一週間。

 仕事という仕事はほとんどなく、暇を持て余していた。


 そんな時、時刻は夕方。知らないおじさんが孤児院を訪れた。


「すみません。ここで空を飛んで荷物を届けてくれるって聞いてきたんだ。大至急」


 ちょっと疲れた顔をしたおじさんは、孤児院の子供に連れられて私のところに来た。


「はい。航空宅配便ですね」

「そうそれそれ。ベルギット村まで飛んでほしい。急患なんだ。珍しい病気なんだけど、村には専用ポーションがないんだ。今から馬を飛ばしていっても助かるか怪しいぐらいでね」

「はい。それで空を飛んだら、なんとか?」

「そそ、何とか大丈夫だと思う」


 ベルギット村は王都から二つ先にある小さな村だ。


「えっと相手の住所とかは分かりますか?」

「小さい村だから、たぶん誰に聞いても大丈夫。村長のサイン貰ってきてくれ」

「分かりました」


 その病気の専用ポーションをそっと渡される。


「ポーションはそこまで高くないけど、命が掛かってる。頼む」

「はい。お任せください」


 ベルギット村なら去年、一人で空を飛んで遊びに行ったことがあるから、場所は分かる。


「料金は……」

「そうでした。えっと王都外、往復でも当日なので五十ドロンでどうでしょう?」

「お、早馬より安いじゃないか。いいのかい?」

「え、相場とかよく分からなくて。ごめんなさい?」

「いや、いいんだ。もちろん払うよ」


 大銅貨五枚を受け取った。

 おじさんは、疲れたのか、座り込んでしまった。


「休んでいてください。すぐ行ってきます」

「お願いします。もうあなたしか、望みがなくて、頼みます」

「はい、もちろん」


 テリアと抱き合う。

 いつもテリアは温かくてふわふわで気持ちがいい。


「じゃあ、テリア、いってきます」

「いってらっしゃい」


 テリアの温もりから離れると、少し寂しい。でも頑張らなきゃ。

 すぐに建物から出て、飛び立った。


 進路を一路南へ、向かうはベルギット村だ。

 以前行ったから、トップスピードで行っても大丈夫。


 すぐに町は途切れ畑が見えなくなり、周りは林になった。

 細い街道を見ながらその上を飛ぶ。


 道は森や林でも、馬車が通れる幅があるので、上から見ても木が生えてない場所があって判別しやすい。


 森には魔物が出ることがある。

 魔物の中には、空を飛ぶことができるタイプもいるので、最速で飛ばして、不要な接触をされたくない。


 私は手にはナイフを一応持っていた。

 今日は荷物は新しく買ったバッグに入れてある。


 森の先に、町が一つ見える。

 ここはアースル町。とくに寄る必要はないので、素通りする。


 下を見れば、上の私に気が付いて指さしている人も何人かいる。


 そのまま続いている街道の上を飛んで行く。


 森が続きもう少し行ったら、森に囲まれた小さな村が見えてきた。

 ベルギット村だ。


「あそこだね」


 村の中心の広場に、降り立った。


 すぐに村人が出てくる。


「あんた、なんだい?」

「私はアルル。急患のお薬を運んできました」

「ああ、そうか、そうか。ありがたい。教会へ行ってくれ、そこにいる」

「分かりました」


 村の教会へすぐ向かった。

 教会は建築様式が違うので、すぐに分かる。

 だいたい白い建物がそうだった。


 教会の礼拝堂ではなく付属の建物のほうへ向かう。

 そこにはぐったりしている病人がベッドで寝ていた。


「あの、王都からです。私はアルル。お薬、特効薬のポーションを運んできました」

「それはそれは。ありがとうございます。翼人族か天使様、神様のおかげだな」


 神父様がすぐに薬を病人に与えたら、すぐに顔色が良くなってきた。

 さすがにただ荷物を渡してはい終わりでは、いくら運送業といっても不味かろう。

 もう少し様子を見ていこう。


「なんとか落ち着いてきましたね。あなたのおかげです」

「いえいえ」

「まさか翼人族のかたが協力してくるとは、思いませんでした」

「あの、受け取りの村長のサインがほしいんですけど」

「ああ、はい。すぐ呼んできます」


 神父様は村長を呼んできてくれた。


「私が村長です」


 村長にサインをお願いする。


「では、はい、お駄賃です。まだ若いのにいい目をしている」

「そうですか、ありがとうございます」


 村長は銀貨を一枚、私にくれた。銀貨は百ドロンだ。


「本当は、輸送費はもう貰っているので、けっこうなんですけど」

「まあ、そう言わさんなって。人の命を救ったんだ」

「そうですよね」

「そうだ。あんたはえらいことをしたんだよ」

「ありがとうございます」


 私は頭を下げる。お小遣いまで貰ってしまうのも、なんだか申し訳ない。


 外に出ると、村人が集まってきていた。

 私が再び飛び立つと、下では村人が手を振ってくれる。


 なんだかうれしい気持ちになって、王都まで戻っていった。


 孤児院についたら、まだおじさんがいた。


「おかえりなさい」

「ただいま戻りました」


「どうだった?」

「はい。薬が効いて、顔色もよくなってきたので、戻ってきました」

「それはよかった」


 おじさんは頭を下げた。

 恐縮してしまう。


「では私も戻るか、ありがとう、翼人族のお嬢さん」

「いえいえ」


 こうして今回の仕事も無事に済ませることができた。

 途中で変な魔物に絡まれなかったのは、本当に助かった。


「ただいまぁ~テリアあぁああ」


 ガシっとテリアに抱き着く。


「はい、おかえり。アルル。ちょっと遠かったけど頑張ったね」

「うん、頑張った」


 テリアがいいこいいこしてくれる。

 テリアに甘える私。テリア大好き。


 テリアは私のことを大切にしてくれる。

 私もテリアのことを大切に思っている。


 もうすぐ日も暮れる。

 馬で飛ばしていっても、日が暮れたら村までいくのは厳しい感じだった。

 空を飛んで行く私は余裕で往復できるけど、みんなはそうじゃない。


 私の空を飛ぶ力をみんなの役に立てているというのは、正直うれしい。

 私個人も、お金がもらえて、うれしい。


「そういえばね、テリアぁ。あのね、向こうで銀貨もらっちゃった」

「お、それはよかったね」

「うん」

「半ぶっこしたいけど、一枚だからお小遣いバラして半額渡すね」

「律儀だね、アルルは」

「うん、いつもテリアとは半ぶっこがいいんだもん」

「そうだねぇ、ありがとう」

「ううん」


 こうして今回のお駄賃も半分になったけど、それでいいのだ。

 今私が普通に孤児院で生活できているのはテリアのおかげといっても間違いじゃない。

 だから私はテリアに感謝しているし、大好きなのだった。


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