異世界航空宅配便 ~翼で空を飛んで超特急でお届けします~
滝川 海老郎
1.航空宅配便アルルテリア
孤児院育ちの私は珍しいことに、ハルピュイア、翼人族だった。
「アルルは何のお仕事するの?」
「私、うーん、どうしよっか」
アルルは私。今年で十歳になる。
翼人族は天使の子孫。
はるか昔、人間がまだ天界と交流があったころ、天使と人間が混じり合い、そうして生まれたのが翼人族だという言い伝えだった。
今もこうしてたまに、天使の血が濃く出る子が極稀に生まれてくる。
翼を持つのが特徴で、天使だという一方で、奇異の目に晒されることもあり、あまりよく思われていない場合もあった。
だから私は孤児院の先に捨てられた。
両親はわからない。名前も孤児院の院長先生の命名だった。
「はいはい、お嬢さんたち、宅配便です。院長先生いるかな?」
「あ、すぐ呼んできます」
私は宅配便のお兄さんを見ていて、一緒にいた子が院長先生を呼びに行った。
「ねえ、宅配便のお兄さん」
「なんだい、翼人族のお嬢さん」
「お嬢さんだなんて。宅配便って難しいの?」
「えっと、そうだな。それほど難しい仕事ではないよ。ちょっと荷物が重かったりすると大変で、方向音痴の子だと難しいかもしれないけど」
「そっか」
「宅配便に興味あるの?」
「うんっ」
宅配便はここ三年ぐらいで、ここ王都を中心に普及しだした新しい職業だった。
各家々には住所が整然と割り当てられて、その番号をたどっていくと、誰でもその家に迷うことなくいくことができるようになった。
これは王都だけでなく、現在では国中に住所が割り当てられている。
「院長先生、連れてきました」
「ワシも歳だから、そうせかさんでくれ」
「はい、ここにサインを」
「はいはい」
院長先生がサインをして手紙を受け取った。
「どうやら今年の予算の報告書だな。国王様からだね」
以前は王宮の下働きの小僧が持ってくる仕事だったが、今はこうして専門職の宅配便のお兄さんが持ってきてくれる。
遠くの荷物や手紙も確実に届けられるようになる宅配便は、画期的なアイディアだった。
「決めた。私、宅配便のお仕事するっ」
「おぉおおおお」
一緒にいた、幼馴染のテリアが大きな反応をした。
「テリアも、お店を手伝ってよ。私が運んでいる間に、テリアは荷物の受付ね」
「え、あ、うん。いいよ、お手伝いするね」
「ありがとう~テリア。じゃあお店の名前はアルルテリア。アルルテリアでいいよね?」
「うん、別にいいよ」
こうして私とテリアの「航空宅配便アルルテリア」が発足したのだった。
場所は孤児院。
孤児院が受付になっていた。
私とテリア、そして孤児院の子供たちは、近所の人たちに航空宅配便アルルテリアの告知をした。
近所の人は暖かい目で、見守ってくれているけれど、子供の始めたままごとだと思う人もいるだろう。
お店が始まって、今まで三日。特に仕事がなかった。
今日も朝から店番をしていた。今は昼前だった。
「あ、アルルちゃんいる?」
しかし、ついに近所のおばさんが包みをもって私のもとに現れた。
「航空宅配便ですか? メーデリアさん」
「えっとまあ。そんなところ」
「やった、なんです、何をどこまで運びますか?」
「旦那のお昼のお弁当なんだけど、渡しそびれちゃって。東門前露店市場の一番門に近いところのフルーツ屋にいると思うわ」
「分かりました。超特急で行ってきますね」
「色々忙しくて。もうお昼前でしょ。ちょっと歩いていくとお昼に間に合わないのよね」
「そうですよね。そうですよね。分かります。すぐ、今すぐ行ってきます」
「おいくら?」
「あ、その、王都内なので、十五ドロンです」
「わかったわ」
十五ドロン、銅貨十五枚だ。
おばさんは気前よく大銅貨二枚を払う。
「お釣りはいいわよ。最初の仕事なのかしら? なら仕事始め祝いってことで、取っておきな」
「わああ、ありがとうございます」
大銅貨二枚を抱きしめる。
近所のお手伝いとか、子供のアルバイトではなく、初めて、自分の仕事として、お金をいただいた。
感慨深いものがある。
温かい気持ちが、心の奥から湧き上がってくる。
「じゃあテリア、行ってきます」
「いってらっしゃい。東門なら町の反対側だけど、空飛んでいけばすぐだもんね」
「うん」
私は荷物を両手で大事に抱えて、飛び立った。
王都はそれなりに広い。
飛び立つと、家々の屋根が見える。煙突もあり、お昼前とあって煙が出ている。
うまく風に乗って、空を飛んで行く。
天気は快晴。今日は邪魔をするカラスとかもいないようで、快適だ。
町の向こう側、門の外側には畑が広がっている。
そこをめがけて飛んで行く。
あっという間に東門についてしまった。
外に降りると、通行確認とか面倒くさいので、内側の広場に着地した。
すっとスマートに着陸したけど、周りの人は、なんだなんだと見てきて、指を指したりしてくる。
そうなのだ。翼人族は、王都にはかなり数が少ない。
珍しいといえば、珍しい。
だから珍獣を見るような目で見てくるのだ。
目立つ翼は、普段から見えているので、今更なので、私は極力気にしないことにしている。
門前広場の露店を過ぎて、市場のほうへ歩く。
そしてすぐにあるフルーツ屋に駆け寄る。
知っている顔だ。オードリーさん、四十歳ぐらい。
厳つい四角い顔だけど、孤児院に甘い飴玉をたまに差し入れしてくれる、やさしいおじさんだった。
「オードリーさん、オードリーさん」
「おや、アルルちゃん」
「はいこれ、おばさんから、お昼ご飯」
「あーあー、確かに。忘れていったから、何食べようかと思ってたんだ。ありがとう」
「いいえ。ではこちらに、受け取りのサイン、お願いします」
「サインね。一丁前に、仕事っぽいことしてるね」
「はい。届けた、届けてない、って論争になると困るので。近所の人は信頼しているけど、一応ルールにしたのです」
「なるほどね。はいできたよ」
「ありがとうございました」
「じゃあな」
オードリーさんに無事、お弁当を届けることができた。
先に食べてしまったとかの事故もなく、うまくいった。
お仕事第一弾は、こうして無事に完遂した。
さすがに人ごみの中から飛び立つのは、ちょっと難しい。
できないことはないけど、翼はかなり長いので、邪魔になってしまう。
また東門の前の広場にきて、人が回りにいない場所で、飛び立った。
孤児院は、王都中央西側の教会区の一角にある。
孤児院の併設されている教会は国立の王家ゆかりなのが自慢だった。
そこをめがけて、一直線に飛んで戻った。
もしかしたら、次の仕事があるかもしれないし。
「ただいま。次の仕事はいってる?」
「おかえりアルル。仕事なんてないよ~」
「そっか。あっ、せっかく市場までいってきたのに、何かお土産買って来ればよかった」
「いいよ、いいよ。最初の給料だもの。大事に使って」
「うん」
そこで私は大銅貨一枚をテリアに渡す。
「はいテリア」
「え、なに?」
「テリアだって従業員でしょ。はい、半分。二人だから半ぶっこね」
「うん、ありがとうアルル」
今までも、何でも私とテリアは半ぶっこにして生きてきた。
今のところ出来高制の運送業も、こうして一緒に半ぶっこだ。
テリアが抱き着いてくる。
テリアの体は柔らかくて、暖かい。
初めての仕事で興奮していた私も、とっても落ち着くことができた。
テリア大好き。
□◇□◇□─────────
こんにちは。こんばんは。
【ドラゴンノベルス小説コンテスト中編部門】参加作品です。
他にも何作か参加していますので、もしご興味あれば覗いてみてください。
よろしくお願いします。
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