千佳ならではの、二つに意味を持ったささくれのお話。

大創 淳

【KAC20244】……ささくれ。


 ――思いもしなかったお題に茫然とする僕。



 何度見ても、変わるわけのない表示。スマホの画面にしっかりと表示されていた。


 でも沸々と、挑戦の心が湧き上がる。

 今再び、蘇るチャレンジスピリッツ。またウメチカの執筆を開始する決心。



 すると隣にいた梨花りかが、僕を見るなり、


千佳ちか、痛くない? 人差し指、思い切りささくれてるけど」


 見ていたのは、僕の指。そしてここは学園の中。丁度お昼時で、食事中だった。今日は僕と梨花の二人きり。いつもは可奈かなも一緒だったけど、風邪で欠席していた。


 ……ささくれ。


 親不孝の証という説もある。僕は、小さい頃に、そう聞いたことがあるの。


 誰から聞いたのか? お母さんではなかった。では、学校の先生だったと思う。小学校の時の先生。お顔は思い出せないけれど……いやいや、確か女の先生だった。


 そして、繰り返す想い出の中へと……


 当時はボッチ。お家に帰ってもボッチ。


 でもその日は、公園で一人ベンチに座って、寒さを堪えていた。何故そうなのか? お家に帰ったのなら少なくとも、この寒さは凌げるのに。……実は、帰りたくなかったからなの。朝、学校へ行く前に、お母さんと喧嘩しちゃったから。僕は悪い子だ。


 きっと、言ってはいけないことだった。


 だから、ささくれ。人差し指に。手袋すれば痛い程に。お母さんは女手一つで育ててくれたから。大変なのも、目の当たりにしているから、それでも、それなのに。



 ――どうして僕にはパパがいないの?


 と、言っちゃったの。その日が丁度、父兄参観日だったから。ちょっと前のことだったの。クラスの男の子が「星野ほしのん家、誰も来ないよな」「仕方ないよな。こいつ母子家庭だから。明日は父兄参観日だし、さらに誰も来れないよな」「星野って、どう生まれたんだろうな? 父親に捨てられた子だしな」と言うの。僕に聞こえるように陰で。


 返す言葉など見つからず、空白な心と、冷たい風。


 ……それでも涙は温かかった。


 ささくれは痛いけど、それ以上に、お母さんと喧嘩したことを後悔した。

 脳内では「ごめんね」が溢れている。涙もそれと比例して、とめどなく。


 すると……


「千佳、帰ろっ」と、僕の手を握った。


「お、お母さん」と、僕はお顔を上げた。涙で濡れたお顔を……痛いけど、温かくなる僕の手。そして「酷くささくれてるね、とっておきの治療法があるから任せて」と、優しく笑みを見せる、お母さん。僕は、その胸の中で「ごめんね、ごめんね」と……


「ううん、お母さんも千佳にごめんね……だったね。今度の参観日、お母さんじゃダメかな? 三者懇談もあるんでしょ。千佳の先生に会うのも初めてだし。千佳はお母さんの自慢の娘だから、胸を張ってドンと構えてなさい」と、お母さんはドンと胸を叩いた。


「うん!」


 パッと晴れるお空のように、お星様は輝いた。


 二つのささくれは、そのどちらも晴れやかに。



 ――覚める想い出。


 或いは白昼夢? 今目の前にいるのは、梨花。


 何処へ? と思っているうちに保健室。梨花が僕を連れてきた。施されたのは、とっておきの治療法。重なる、梨花がお母さんと重なって見えた。思えば、梨花もまた僕と同じくお母さんの娘……同じ日に、僕と同じ日に、同じお母さんから生まれた。それが不思議に思えた瞬間だった。僕は母親似……とすれば、梨花もまた同じ。まるで鏡で見たような容姿だから。それもその筈。施された治療法も、また同じ。その時の笑みまで似て。


 ざらつく心も、しっかりと潤うような感覚だ。


 最近はそうだったの。ウメチカの連載も止まり気味だったから、このKACの挑戦も躊躇っていたけれど、背中を押したのは、またも梨花だった。


 一番初めに、ハートをくれた応援者。心に潤いを与えてくれるお姉ちゃんだから。


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千佳ならではの、二つに意味を持ったささくれのお話。 大創 淳 @jun-0824

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