第8話 極道、真実に近付く


 襲撃された翌朝 



 宿屋の一室



「襲撃された?」


 尊はチェイルとエカーチェに昨夜の事を話した。


「ああ、どうやら俺は狙われているらしい。生け捕りにしようと思ったが逃げられた」


 その話を聞いたチェイルは、不安そうな表情になる。


「どうしてタケルさんが……」

「分からない。けど心当たりが無い訳じゃない。探りを入れてみる予定だ」


 その言葉は嘘だ。心当たりは見当がついてない。2人に深く関わってもらわないよう、今はこうして話しているだけである。関われば命を狙われる可能性がある以上、深入りはさせられない。


 その言葉を聞いたエカーチェは、どこか不満そうな顔をしていた。


「……何か隠してるわけじゃねえだろうな?」


 その問いに、尊の眉が少しだけ動く。


「……何も隠してないと言えば嘘になるが、やましいことはしていない」

「じゃあ何で狙われるんだよ」

「正しい事をしていても、それを目障りだと思う奴がいるもんだ。そういう輩の目に留まったんだろ。実際はどうか調べないと分からないがな」


 尊はそう言って2人に背を向ける。


「とにかくこれは俺一人の問題だ。俺だけで何とかする。解決するまでは単独行動だ。2人は適当に過ごしててくれ」


 それだけ言って、部屋を後にした。


 チェイルとエカーチェは、その背中を見送るだけだった。



 ◆◆◆



 宿屋を後にした尊は、一人で街を歩く。


 途中、街の人に声を掛けられ、笑顔で返事をしていたが、内心穏やかではなかった。


『いかなる尊? けしきぞ怪しき』

「……そんなに表情に出てたか?」


 尊は手で口元を隠し、表情を確認する。


『まろはこれにも長き年月を生きたり。心地の起伏きは、易く分かる』

「お見通しというわけか……」


 少しだけ溜息を付き、天を仰ぐ。


「今回の件で、2人を巻き込んでしまったらと思うと、気が気じゃなくてな」

『そは何故なり?』

「嫌なんだよ。俺のせいで誰かが傷付くのは」


 自然と拳に力が入り、表情も険しくなる。


「あんな思いは、もうごめんだ。だから今回は俺だけで解決する」


 その目の奥には、決意の火が灯っていた。


『つぶさにはいかなるつもりなり?』

「敢えて狙われやすくする。襲撃してきたところを返り討ちにして生け捕りにするつもりだ。今度こそ雇い主を吐かせる」

『確かにそれが一番手っ取り疾しな。さなるとかたは……』

「人気の無い森がいいだろう。適当に依頼を受けておびき出す」



 ◆◆◆



 尊は近場の森での採取依頼を受け、森の中へ入った。



 なるべく一人になるよう奥へ行き、周囲を警戒しながら指定された薬草を採取する。


「………………」


 黙々と薬草を回収していた時、殺気を感じた。それも一つや二つではすまない数だ。


 尊は気付かないフリをしながら、薬草を籠に入れていく。


 攻撃が来たのは、一度腰を伸ばそうと立ち上がった瞬間だった。


 尊はその攻撃をすぐに避け、攻撃が来た方向を向く。飛んで来たのは、大きめの弓矢だ。


「来るか」


 すぐに右手で刀を抜き、左手に草薙剣を持ち、臨戦態勢に入る。


 次の攻撃が来る前に、矢を飛ばして来た方向に、水の高圧弾を発射した。


「ぎゃ!?」


 凄まじい激突音と共に、襲撃者の一人が木から落下する。それを皮切りに、隠れていた襲撃者達が続々と武器を構えて尊の前に姿を現わした。


 襲撃者は全員緑色の服を身に纏い、森の中では見つけにくい格好をしている。


(ざっと数えて15人。まだいそうだが、今は目の前の連中の対処だ)


 尊が数えていた数秒の隙の間に、剣を持っている襲撃者の数人が尊に襲い掛かる。


 最大三方向から来る襲撃者。尊は後退せず、襲撃者達の攻撃を待つ。


 攻撃の有効範囲内に尊を捉え、隙の無い、最小限の動きで攻撃を放った。それぞれぶつからない、完璧な連携による攻撃は、尊の急所を的確に狙って来ている。尊は両手に持つ武器で、二方向から来る攻撃を捌き、残りの一撃は紙一重で躱してみせた。次に来る第二撃が迫る前に、尊は刀を躱した三撃目の襲撃者に突き立てる。


「うぐ?!!」


 刀は首を貫通し、そのまま右方向へ掻っ捌く。血飛沫で汚れる寸前、左手の草薙剣で左側にいる襲撃者を片手で袈裟斬りにする。呆気に取られた残りの一人に、最初に殺した襲撃者を押し付け、攻撃が出来ない状態にしてから、刀を首に突き立てた。刀を横に切り、首の動脈を切断する。


 3人を討ち取るのにかかった時間は、4秒。その速さに他の襲撃者は呆気に取られるしかなかった。


 その隙を見逃さないのが尊である。


 尊はすぐに走り出し、一番動きの鈍い襲撃者を斬りつけた。襲撃者は防御する暇も無く、その一撃をもろに受ける。深く入った一撃は、心臓までも切り裂き、一撃で絶命させた。


 他の襲撃者達はすぐに間合いを取り、武器を構えて警戒する。


 尊は円を描くように草薙剣を振るう。剣の軌跡には、水が線の様に浮き上がり、一閃となって襲撃者達に襲い掛かる。水の一閃は武器を切り裂き、襲撃者達の身体を斬ってみせた。両断とまではいかないが、半分も切れてしまえば、人体にとって重傷である。この一撃で6人も斬られ、その場で倒れてしまう。


 その光景を見ていた残りの襲撃者達は、すぐに攻撃方法を切り替える。


「【火弾ファイアバレット】!!」


 掌から火の玉を発射し、尊に向かって集中砲火した。躱す隙は無い。


 しかし尊は躱すのではなく、前に出るという選択を取った。一番距離が近い襲撃者を狙って走り出し、正面から飛んで来る火の玉を草薙剣で斬り捨てる。そのまま走り続け、襲撃者の胸に刀を突き刺した。


「ッ」


 しかし、刀は寸でのところで襲撃者の持つ剣に止められ、仕留めることはできなかった。激しい金属音を巻き散らし、襲撃者を大きく後退させるだけで留まる。


「くっ!? 重い!?」

(弾かれたか)


 攻撃された襲撃者は更に距離を取り、態勢を立て直そうとしていた。


 その間に他の襲撃者達が尊の背後を取り、次の攻撃を仕掛けてくる。


(流石に多いか。だが)


 尊は草薙剣の力を使い、背後に水球を展開した。


「【千本水鉄砲】」


 水球から多数の水鉄砲が発射され、背後にいた襲撃者全員に直撃する。人体を簡単に貫通する威力で、次々と襲撃者は倒れていく。残ったのは、目の前にいる襲撃者だけだ。


「さて、色々と話が聞きたいんだが、大人しくしてくれるか?」


 一歩一歩近付いて来る尊から距離を取る襲撃者。剣を構え、間合いを詰められないよう警戒し続ける。襲撃者は尊の問いに答えることは無く、無言で睨み続けた。


(返答は無し、か。こうなったら無理にでも生け捕りにして……)


 そう考えていた一瞬である。


 尊の首元に針が突き刺さった。尊が気付いたのは、針が刺さり、痛みが伝わった瞬間だ。


 すぐに針を抜き、刺さった場所を押さえる。


(この痺れる様な感覚、毒の類か? だとしたらまずいな)


 顔をしかめ、毒の回りを確認した。回り方からして、かなり強力な毒だと分かる。すぐに飛んで来た方向を確認するが、木の葉で隠れてよく見えない。


 襲撃者は尊が怯んだ瞬間、すぐに剣を振り上げて懐へ飛び込んだ。防御の甘い脇腹目掛けて攻撃を仕掛けてくる。


『尊!!』


 思わず声を上げる草薙剣に反応した尊は、すぐに後方に下がるが、攻撃範囲に入ってしまっている。


(これは、まずいか?)


 一度斬られても問題は無い。しかし、次の手で詰む。反撃が出来ず、そのまま殺されるだろう。


 諦めたくは無いが、どうしようもない。


(ここまでか……)


 そう心の中で思った。



 次の瞬間、襲撃者の攻撃が止められた。



 攻撃を止めたのは、駆け付けたエカーチェの剣だった。


「何やってんだテメエは!!」


 エカーチェの怒号と共に剣は振り上げられ、力任せに襲撃者の剣を上へ吹っ飛ばす。振り上げた剣を一直線に振り下ろし、襲撃者の頭を叩き割った。


「うげ!!?」


 鈍い悲鳴を上げ、そのまま血を噴き出しながら絶命する。


 その様子を見ていた尊は、毒の影響で身体に力が入らなくなり、片膝を付いていた。


「エカーチェ、何故……」

「タケルさん!!」


 更に駆け寄って来たのは、チェイルである。


 チェイルは息を切らしながら、尊の前にしゃがみ込む。


「怪我は?!」

「チェイル、どうしてお前も……」


 疑問に思う尊に、エカーチェは大きく舌打ちする。


「馬鹿かテメエ、気付かないと思ったか? もうこっちは色々知ってんだよ!!」

「一人で薬の出所を探してたんですよね? どうして何も言ってくれないんですか!!」


 2人に怒られた尊は、驚きで目を丸くしていた。バレない様に立ち回っていたつもりでいたからだ。


「いつから、知っていたんだ……?」

「大分前からやけに動き回っていたのは気になってた。んで、7日前くらいにラキューレを問いただした。テメエから言い出すまで待ってくれって口止めされてたが、今日の襲撃を聞いて気が変わった」

「危ない目に合いそうなのに、見過ごすなんてできません。だからこっそり付いてきました」


 殺気ばかりに気を取られ、2人に気付いていなかった。その不甲斐なさに頭を抱えたくなった。


「どうして、そこまで……?」


 尊の疑問に、2人は答える。


「決まってんだろ。借りを返しただけだ」

「私達はタケルさんに恩があります。それに報いるのは、当然の事です」


 尊は2人の答えに、人としての良さを見た。


 知ってた上で静観を決め、いざ危なくなったら行動に移す。そこまで出来るのは、この2人の人間性の高さだろう。それを信じられなかった自分が恥ずかしいと、尊は深く反省した。


「…………黙っていて、すまなかった」


 2人に謝罪し、頭を下げる。エカーチェ達は顔を見合わせた後、


「気にすんな。こっちからも何も言わなかったしな」

「タケルさんの考えがあって黙っていたんですよね? なら、それを責めることなんてできません。顔を上げてください」

「……ありがとう」


 感謝の言葉を告げ、顔を上げようとするが、毒が回り始め、眩暈を起こす。


「ぐ……」

「タケルさん!? 大丈夫ですか?!」

「すまない、毒針をくらったようだ……」

「それを先に言え!!」


 エカーチェは剣を構えて臨戦態勢に入り、チェイルはすぐに治療に入る。


 まだ潜んでいる襲撃者を警戒するエカーチェ。その目の前にある木の影から、人影が見えた。


「来い、オレが相手をしてやる」


 睨みを利かせて剣を構える。


 その言葉に吊られ、木の影から一人の人間が現れた。


「あれ? どうしたッスか?」


 現れたのは、以前ギルドに現れたガルセイである。その姿を見たエカーチェはより一層睨んだ。


「……馬鹿とは思っていたが、ここまで深刻だったとはな。安心しろ、あの世に送って一から治してやるよ」


 襲撃者と共謀したと思ったエカーチェは、剣に込める力を更に強くする。


 それを見たガルセイは、


「ちょ!? ちょっと待ってくれッス!!?」


 慌てて止めに入った。


「ワッチはただ怪しい連中を叩きのめした後、ここから声がするから立ち寄っただけッスよ!! だから敵対する意思は無いッス!! その証拠にほら!」


 そう言って足元から引っ張って来たのは、気絶した別の襲撃者だ。


「これで信じてもらえるッスよね?!」


 ガルセイの熱弁に、エカーチェは、


「…………まあ、いいだろう」


 とりあえず納得することにした。


(アイツは馬鹿だから嘘をつくなんてことはできねえ。もし敵だとしたら、真正面から来るはずだ。だから信用しても問題無いだろう)


 そう判断したエカーチェは、武器を一先ず下ろす。ガルセイは一安心したようで、大きく息を吐いた。


 尊はチェイルから治療を受け、解毒を完了させてもらっていた。


「これで解毒は完了です。もう大丈夫ですよ」

「ありがとうチェイル。助かった」


 そう言ってすぐに立ち上がり、武器を収めた後、ガルセイの近くに寄る。


「ガルセイ。一つ頼みがある」

「? 何すか?」

「そこで伸びている不審者、こっちに渡してくれるか? 用があるんだ」


 

 こうして、尊達は襲撃者を数人拘束したのだった。



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聖剣極道 ~転生した極道、聖剣拾って成り上がる~ 弦龍劉弦(旧:幻龍総月) @bulaiga

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