第6話 極道、情報を集める


 ラキューレからエカーチェのことを頼まれた翌日



 冒険者ギルドにて、


「エカーチェ、俺達とパーティーを組んでくれないか?」


 尊はエカーチェに提案を持ちかけた。突然の提案に驚くエカーチェだが、


「理由は?」


 冷静に返す。


「まだ俺とチェイルがこの街に慣れていない。だからこの街に長く住んでいるエカーチェに色々と教えてもらいたい。あと、今後の為に戦力が欲しい」


 尊も端的に理由を述べる。エカーチェは少し考え、


「……止めとけ、絶対損するぞ」


 断った。


「何故だ? 悪い提案では無いと思うが」

「オレが今までソロだったので察しろ馬鹿」


 エカーチェは悪態をつきながらそっぽを向く。おそらく口の悪さが災いして、一人も仲間ができなかったのではと推測する。


「その口の悪さか?」

「容赦ねえなテメエ!?」


 気にしている所を指摘されて図星だったのか、大声を出してしまうエカーチェ。それでも尊は怯まない。


「それぐらいどうってことない。エカーチェ以上に口の悪い連中と渡り合ってきたからな。罵詈雑言が標準語だったぞ」

「どんな連中だよ……」


 流石のエカーチェもドン引きするが、尊は更に詰め寄る。


「頼むエカーチェ。俺達のパーティーに入ってくれ」


 熱烈なアプローチに、エカーチェは戸惑いながら、


「ッ……!! ……分かった! 分かったからそんな目で見んな!!」


 根負けした。尊は了承してくれたことに一安心する。


「それじゃあ改めて、よろしく頼む」

「……ああ、よろしく」


 こうして、エカーチェを同じパーティーに引き入れた。


「ところで、チェイルはどうした?」


 エカーチェは周囲を見渡す。チェイルの姿が見当たらない。


「チェイルならギルドの職員に呼ばれて奥に行ってるぞ。どうも【治癒魔術】について聞きたいとか」

「……多分怒って戻って来るぞ」

「? それはどういう……」


 最後まで言い切る前に、チェイルがズカズカと大きな足音を立てて戻って来た。顔を赤くして、明らかに怒っているのが分かる。


「何なんですかあの人達!!」

「何があった?」


 尊はジェスチャーで落ち着くよう促すが、チェイルの怒りはかなりのものだった。


「【治癒魔術】を使うのをボロクソ言ってきたんです!! 【治癒魔術】は甘えだとか! 怠け者のすることだとか! そんなものよりポーションの方がいいとか!! 緊急で治療が必要な時【治癒魔術】の方がいいのに! 何を考えてるんですか!!」

「……随分な言い様だな」


 尊はチェイルの【治癒魔術】を近くで見た。あれは外傷を素早く治す画期的な魔術だ。外傷が多いであろう冒険者にとっては必要不可欠なはず。それなのにここまでけなすのは何故か。疑問を感じられずにはいられない。


 チェイルの様子に、エカーチェも肩に手を置いて宥める。


「気持ちは分かるぜ。でもギルドマスターの意向だからどうしようもねえよ」

「ギルドマスターの?」

「ああ。偏ってるんだよなあ、考え方が」


 エカーチェが説明しようとした時だった。


「誰が偏ってるって?」


 一人の女性が現れる。


 薄紫色の髪を後ろで団子状にしてまとめ、エカーチェとはまた違ったタイプの目の鋭さをしており、赤い口紅を付けている。その服装から、如何にもできる女を醸し出している女性職員だった。


 女性は3人に近寄り、尊の方を見る。


「初めましてタケルさん。私はギルドマスターの『ミゲル』。お話は常々聞いております」

「そこまで噂に?」

「初日に冒険者3人を制圧し、翌日には三つ狼を8体討伐。噂にならない訳がありません」


 ミゲルはまじまじと尊を見て来る。尊はミゲルから香る濃い香水の匂いに、少しだけ顔をしかめてしまう。


 そんな事は気にせず、ミゲルは話を続ける。


「話を戻しましょう。私はただ、【治癒魔術】よりもポーションの方が信頼できると言っているだけです。これは事実だ」

「言いがかりです!! 【治癒魔術】もちゃんと治療できます!!」


 チェイルが大声を上げて反論した。ミゲルは呆れた様なジェスチャーをする。


「【治癒魔術】は人に依存します。もし使える者が先にやられたらどうするのです? 使えないでしょう? だったらいつでも使えるポーションの方が断然信頼できる。暴利な治療代だって掛からない」

「暴利な治療代なんて請求しません! ちゃんとギルド法に則った金額で治療しています!」

「どうだか。分かったものではありませんよ」


 言い合いがヒートアップしそうな時に、尊が割って入る。


「法の下で真っ当な請求してるなら何の問題も無いだろ。それを持論で曲げようってのは、道理が通らないんじゃないか?」


 そう言いながら、ミゲルとチェイルが言い争っている間に受注した依頼をチェイルとエカーチェに見せる。


「今日は『四ツ目茸』討伐と行こう。エカーチェ、案内頼めるか?」

「ああ、いいぜ」


 今にも爆発しそうなチェイルを、エカーチェと共に連れて行く。ミゲルは腕を組んでその様子を見届ける。


「あら、逃げるのかしら?」

「無駄な言い争いする位なら、依頼をこなした方がいいだろ」


 それだけ言い残し、尊達はギルドを後にした。



 ◆◆◆



 街外れの森



 未だに怒っているチェイルを横目に、尊とエカーチェは四ツ目茸を探す。


「探しながらで悪いが、エカーチェの職業と得意な戦術を教えてくれ」

「ああ、いいぜ」


 尊の質問に、エカーチェは素直に答える。互いの手の内を知らなければ、連携のしようがない。最悪大事故になる可能性もある。


「オレの職業は『中級剣士』、得意な戦術は『片手剣術』。これで十分か?」

「片手剣術、というのは?」

「片手で剣を振る剣術だよ。片手空けとけば他の動作がしやすい。基本だろ」

「そうだったか」

「で、タケルの職業と戦術は何なんだよ?」

「俺は職業が『剣士』、戦術は色々だ。近接も遠距離もできる」

「昨日見た通りって訳か、よく分かった」


 そんな会話をしながら四ツ目茸を探すが、中々見つからない。


「チェイル、テメエはどうなんだ……」


 エカーチェが質問しようと後ろを振り向いた時、チェイルは四ツ目茸を杖でボコボコに殴っていた。


「ふんふんふんふん!!」


 力任せに殴り続け、四ツ目茸は完全に倒されている。それを見た2人は、


「……あまり怒らせないようにしよう」

「みてえだな」


 チェイルの取り扱いに気を付けることにした。



 ◆◆◆



 しばらくして、ノルマ分の四ツ目茸を討伐し終える。



 尊達は街へ戻る為、茜色の空が広がる森の中を歩いていた。


「お? タケルじゃねーか」


 その途中、ディアーチェ達と偶然遭遇する。


「今帰りか?」

「ああ。そっちもか」

「おう。討伐対象を狩り終えて報告に戻るところだ。野宿にならなくてよかったぜ」


 その会話を聞いたチェイルが、エカーチェに質問する。


「野宿することもあるんですか?」

「まあな。夜行性の魔獣を討伐する時とかは森の中で一夜を過ごすこともある。……長いこと戻って来ない馬鹿もいるがな」

「?」


 エカーチェの最後の言葉に疑問を感じるチェイルだったが、


「げ?! エカーチェ!!?」


 それを上塗りする勢いでダウルが大声で驚いた。


「あんたタケルとパーティー組んだのか?!」

「オレから入ったんじゃねえぞ。タケルから誘ってきたんだ」

「まじか……」


 意外だという顔をするダウル。尊は気にせずディアーチェと会話する。


「ディアーチェ、今夜空いてるか? 聞きたいことがある」

「お、なんだよ、随分と乗り気……」


 茶化そうとしたが、尊の表情が真剣な事に気付く。


「……分かった。後で2人で話そう」

「ああ」


 約束を取り付けた尊は、その後も他愛ない会話を続けた。



 ◆◆◆



 ギルドで報酬を貰った尊達は、ディアーチェ達と共にこの前行った酒場に向かった。



「あそこのお酒、私苦手なんですよね……」

「オレもだ……」


 愚痴るチェイルとエカーチェ。


「あら、エール苦手なの?」


 そんな2人にルアームが尋ねる。


「頭が痛くなりやすいというか……」

「酔いやすいんだよな、何故か」

「ふーん、そうなの……。って、タケルとディアーチェは?」


 気付くと、尊とディアーチェの姿が無かった。


「アイツ、抜け駆けしやがった……!?」


 ダウルは悔しそうな顔で悪態をつく。



 一方、尊とディアーチェは、人気のない路地裏にいた。


「ここなら誰にも聞かれないだろ。それで、聞きたい事って?」

「最近流行っている怪しい薬についてだ。何か知らないか?」

「……その薬なら、確かに出回ってる」


 ディアーチェは真剣な表情で答える。


「ギルドも問題視して動いてるみたいだが、どうにも尻尾が掴めないらしい。街の外で密かに活動してる山賊が関わっているだとか、裏で商人が売っているとか、決定的な物が無いんだとか」

「そのどちらか、はたまた両方か、それともまだ分かっていない何か、か」

「私ら一介の冒険者じゃ噂を聞く程度しか情報が集まらないのさ。怪しい物は買わない様、ギルドも注意喚起してるけど、少なからず被害者は出てる」

「現段階は自衛するしかない、と」

「そういう事だな。お互い気を付けようぜ」


 ディアーチェは尊の肩に手を置く。


「しかし、何でまたそんな事を聞くんだ?」

「ちょっと頼まれてな。探りを入れてる」

「律儀だねえ。タケルは」


 半分呆れた様な物言いだったが、


「まあ、それもタケルの良い所なんだろうな」


 少しだけ笑って褒めた。


「それじゃあ、皆と合流するか」

「そうだな」


 2人が路地裏から出ようとした時、


「おっと、情報料だけど」


 ディアーチェが料金の話をしてくる。この手の話にはそういうのは付き物だ。


「金か?」

「それもいいけど、一晩付き合ってもらうのもいいかなって」

「……それでいいなら」

「へへ、約束だぞ」


 嬉しそうなディアーチェは上機嫌で歩き出した。尊もそれで済むことに内心驚きながら、その後を付いて行く。



 その様子を監視する存在がいることに、2人は気付かなかった。


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