第3話 パーティーメンバーはどこだ?

「――ふむ、指定された場所はこの辺りのはずだが」


 姫は一見して王族だとはわからないような粗末な身なりで街を歩き、街の外れまでやって来た。ここで、共に魔王討伐に向かわんとするパーティーの仲間と合流するように言われたのだが、それらしい人物が見当たらない。


「早く着いてしまったか?」


 一人ごちながら辺りを見回していると、同じように誰かを探している様子できょろきょろしている少年と目が合った。少年は驚いたように目を丸くしたが、視線を逸らさず、真っ直ぐ姫の元へ近付いてくる。


「……恐れ入ります。フレイヤ王女殿下でいらっしゃいますか?」


 姫と同じ年頃に見える少年だった。腰に剣を下げて、きびきびと姿勢よく歩いてくる。

 表情はどことなく気が弱そうに見えるが、それでも姫と正面から向き合おうとしてくる姿勢は好感が持てると、姫は思った。姫は目つきが悪くて怖いと、敬遠されることが多かったので。


「ああ、そうだ。貴殿が共に魔王討伐の命を受けた者か?」

「はい。ウィスタリア侯爵家の次男、グレンと申します」


 少年はぴしりと敬礼をして、姫に応える。しかし、いくら人気が少ないと言えど、街中で敬礼などされては目立ってしまう。これは、お忍びの旅なのだ。


「そうかしこまらなくていい。わたしは王族としてここに来たわけではないし、我々の旅は大っぴらにはできないものだろう? 同輩だと思って気安く接してくれ」


 はあ、とグレンは困ったように曖昧に笑った。そう言われたとしても、王族に対してそうと思わずに接するなど、普通の人間には無理だろう。まして厳しいことで有名なささくれ姫相手だ。姫もそれはわかっているが、自分は王宮を追放されたも同然だと思っているので、王家の権力を振るうつもりは毛頭なかった。


(しかし……)


 姫は首をひねった。


「失礼だが、わたしと貴殿は初対面だな?」


 ウィスタリア家は、代々武勇に優れ、騎士団長を務めている家だった。息子たちも全員騎士団に所属していると聞いていたが、姫は彼の名も顔も覚えがなかった。


「……はい。わたしは騎士団には所属しておりませんので」


 言いにくそうな彼の様子に、姫は再び首をひねる。だが、何か事情があるのだろう、初対面であまり根掘り葉掘り聞くのもよくないだろうし、必要ならおいおい聞ければいいかと思い直した。


「ところで、他のメンバーはどうした?」


 姫はきょろきょろと周囲を見回す。

 魔王討伐のパーティーは、他に魔法使いや重量級の武器を使う屈強な戦士、斥候などがいると聞いていたのだが。


「……逃げられてしまいました」


 グレンは悔しそうに言って顔を伏せる。


「ふむ?」


 姫は眉を寄せて首を傾げる。


「……わたしは騎士団の入団試験に合格することができませんでした。以来、臆病で情けないやつと、家ではいないもののように扱われ、その話は外にも広まっており……。先程、本日同行するはずの者たちと顔を合わせたところ、わたしのような落ちこぼれと共に行くことはできないと言われ……」


 申し訳ありませんと、グレンは頭を垂れる。

 しかし、姫はなるほどと得心した顔をした。先程気になった、グレンが騎士団に所属していない理由もわかった。


「して、その者たちはどうしたのだ?」


 敵前逃亡も、王命に背くことも重罪だ。同行者が気に入らないからと勝手なことをすれば、後々面倒なことになると思うのだが。


「自分たちだけで魔王を討伐してみせると、先に旅立ちました」

「そうか……」


 困難な道だが、腕に覚えがあるのならそれもありだろう。それに、密かに魔王を討つなど限りなく不可能に近いと言われているが、その分成功した時に与えられる報酬や名誉は計り知れない。それに人生を賭ける者も、少なからず存在するのだった。


「まあ、わたしも貴殿も、このまま何もせずに帰るわけにはいかないだろう。何か成果を持ち帰らねばならん。具体的にどうするかは道々考えるとして、とりあえず先へ進もうか」


 姫は城門の方へ向かおうとするが、グレンは驚いたようにその背中に声をかける。


「よろしいのですか? その、わたしのような者と一緒で」

「貴殿も腕に覚えがないわけではないのだろう? 敵情視察くらいはやってやろうじゃないか」


 姫は不敵に笑い、踵を返す。グレンも慌ててその後を追うのだった。

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