人事異動

田中さんは人事異動になった。

課長補佐というポストだ。

昇進したというわけだ。


今日の仕事の後は送別会だ。

仕事を終えて、早急に送別会へ。



「田中課長補佐の昇進を祝って、乾杯!」


洋風の洒落た居酒屋で、なかなか良いお店だ。

それでいて、一般人が想像する金額と似たようなものだ。幹事、なかなかセンスある。


「このような素敵な送別会、ありがとう御座います。」


パチパチパチ


そして、田中さんが周りのメンバーにお酒を入れてまわる。


私の番に来たとき、少し間があいた。田中さんは私の目をじっと見て、そして日本酒を注いだ。



「宴もたけなわではありますが、この辺でお開きにしたいと思います。 本日はお忙しいなかお集まりいただき、本当にありがとうございました」


二次会は、田中さんに男性数名と女性数名で参加することになった。


私は参加しなかった。

したくなかった。




後日、職場で田中さんを見かけた。同じフロアだから、会うのも当然か。

横にいたのは、イケメンで清潔感のある男性だったら。


私は、思わず引き下がり、給湯室へ向かった。向こうは気づいていない。


私のドロドロしたもの、嫉妬心が頭の中でぐるぐるとしていた。そして…、私の目から涙がこぼれた。


私はまだ吹っ切れてなかったんだな。


インスタントコーヒーを入れ、はちみつを砂糖の感覚で入れた。涙が止まらない。鼻水も止まらない。


そこへ、私の部署に所属する、少し年下の女の子が給湯室に入ってきた。息を切らして。


「玉置さん」


私は振り返った。

可愛い子だな、そう思っていた。


「田中さんに振り回されてばかりじゃないですか」


私はその女子を睨みつけた。でも…。

その子は強引に私を抱きしめた。


「私は誰でも良いわけじゃないの。離してくれる?」


「嫌です。あなたの顔には死相が出てる。このまま放っておくことは出来ません」


女子は、私を抱きしめる力を強くして…。


「私にしませんか。私なら、悲しませたりしないです。振り回したりもしませんよ」


私の涙は止まらない。


女子に身を委ねた。










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