覚悟は出来ていますから

「覚悟は出来ていますから」


そう言う玉置さん。


顔はこわばり唇は紫に。

手足は小刻みに震える。

この怯えよう、どうやら性的な経験はないようだ。


憧れの玉置さんをこんなふうにさせたのは私だ。


私は玉置さんにゆっくりと近づいた。

額に優しくキスをして、手の甲にもキスをして。玉置さんはびくんと体を震わせる。


「辞めるかどうかは、よく考えてみます。とりあえずは実家に帰る予定なので」


そう言って、私は玉置さんの背後に進み、右手を振った


私は人事異動をお願いしようと思っている。

さすがに、もう辛い。玉置さんと顔を合わせるのは辛い。

人は、合う人とどうしても合わない人がいる。

つらいという事は、合わないという事だろう。


私は自宅のある駅に向かう。ふと気がついた。目から涙がこぼれていた。

自分は何がしたかったのだろう。玉置さんと寝たかったのか。

違う。ハグとかキスまででよかった。寸前までで私は満たされたはずだ。

そうするべきだったのに。





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