第8話 学級委員長決定戦二回戦(1)

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努力よりも実力。


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学級委員長決定戦初戦が終わってから、早いもので一週間が経過した。

前回の試合では色々あったが、どうにか決勝への切符を手にすることができた。

もちろん僕らだけではなく、他に二人、決勝への切符を持っている人間はいるが、讒謗律ならば問題はないだろう。そう思っている。

何故これほどまでに会って間もない讒謗律を信頼しているのかと聞かれれば、全員を納得できる答えを言える自信はない。しかし、僕にとって讒謗律は確固たるものであり、少なからず僕は彼女のパートナーである。嫌でも信用するものだ。

さて、本日は金曜である。

金曜日に何があるのかといえば、僕らの学校では先週に引き続き『試合』が行われる。

僕はその試合に直接出場するわけではないが、間接的には参加する形になっており、今日もそのため登校したというところである。

昇降口から校舎に入り教室に向かう途中の廊下、讒謗律がいた。

どうやら僕を待っていたらしい。

「ちょっといいかしら」

僕は答える暇もなく手を引かれ、空き教室へと連れてこられた。

「どうしたんだよ讒謗律。朝からお説教か?」

「そんな風に思われていただなんて、心外ね」

真顔で言われるとどうしても喰らっていないように見えるが、こういうのは顔に出ないものなのだろうか。

冗談のつもりだったが謝るべきか。

「まあ冗談は置いといて、ちょっとまずいことになったわ」

「まずいこと?決勝にでも出られなくなったのか?」

「そういうわけじゃないけど…。もう少し正確にいうなら『まずいことになるわ』ね」

「なんだよそれ。今回のゲーム内容が不利な内容だったのか?相手が烏夜と甘昧なのか?」

「いいえ、まだ内容は発表されてないわ」

じゃあ何だというのだ。

「前に甘昧の家の話をしたこと、覚えてる?」

「そりゃあ…、まあ」

甘昧家、通称解体屋。

色々な家をどんな形であれ壊してきた家系。

やはりその本質は今回のような試合においても発揮されるのだろうか。

讒謗律は彼女に何かされたのだろうか。

「甘昧がどうかしたのか?甘昧とのタイマン、とか?」

讒謗律は首を横に振った。

まあ甘昧と烏夜に関しては先週に忠告はされているし、やはりまた別の人物ということになるのだろうか。

讒謗律のマークしていなかった人物、とか。

「甘昧は甘昧家という『団体』として色々なものを壊してきたわ。家に尊厳、そして『力を持った個人』までね」

僕は、讒謗律が何を言いたいのかがわからない。

理解が及ばない僕を気遣って讒謗律は続けた。

「新入生が来たのよ。私の後ろの席に。甘昧家と同じような新入生が」

「新入生?」

僕らの学校の入学式は一週間前に終了しているはずだ。今更新入生というと、転校するには早すぎる。

前の学校で問題を起こしたのか、もしかして校長の子供とか、いろいろ考えてみたがよくわからない。校長の子供だからと言って入学時期をずらす必要があるのか?それだと、余計に怪しまれないか?

「つまりは、どっかの名家のお嬢様か、嫡子か、それに次ぐ誰かが来たわけなのか?」

「貴方....、わざと外してるのかしら」

極めて一生懸命に答えているつもりだ。

「俺の不出来さはいいよ。で、結局どんな奴が転校してきたわけだ?」

転校してきた、と言えるほどこの学校に長くいたわけではないので、なんだか不自然に感じた発言だった。

「名前は『囃子蛇花札』よ」

「はやしだはなふだ?僕はその名前にどう反応したらいいかな。珍しい名前ではあるだろうけど、これと言って危険漂う人物名には聞こえないけど...」

讒謗律なんて言葉の方がイカつい。それに比べたら囃子蛇とは、まあ多少は可愛く見える。

「良かったわ。貴方が油断してくれているおかげで、私が忠告した意義があった」

「へえ....、そりゃ良かったよ。ところで、そいつの一体何が危険なんだ?どんな前科があるんだよ」

「前科というよりは私怨ね。『讒謗律家』がどんな家かは話したわよね」

昨日か、そのまた前か。いつかの放課後か昼休みか、とにかくどこかで話されている話題だった。

讒謗律家は情報収集の一家であり、あらゆる情報を売買している。それは公的機関から個人に至るまで、あらゆる情報である。勿論、その取引の中には明るみに出ていいようなものだけではないらしいが、まあ、そういうところも含めて彼女——讒謗律蒼薇は当主を目指しているとかなんとか。

「私達は、囃子蛇に大きな欠損を負わせられた。五年前くらいだから、意外と最近ね」

息を呑んだ。

名家に欠損を負わせる個人の恐ろしさは想像できないが、讒謗律家の娘ですらこの強烈さである。こんなやつの集団を敵に回すとは、僕でも、どれだけ恐ろしいことか理解できる。

この時、珍しく讒謗律が動揺していたらしいが、彼女は僕と似ていて顔に感情が出ることがない。

きっと、指先くらいは震えていただろうか。

「讒謗律家の所有する情報の、約三割が漏洩。一割が破壊されたわ」

再び、息を呑んだ。

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