第4話 学級委員長決定戦初戦(1)

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極力平和に生活したいけど、適度に戦争もしたいわね。


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金曜日になった。学校は今日で三日目である。二日目はなかった様なものなので体感というか実質二日目なのだが、日付上は三日目なのだ。

昨日は結局、気になっていたことのうち一つしか聞けなかった。軍人先生の介入によって強制解散のような形になってしまい、あの後は二人、何も言葉を交わさずに帰路についた。

まあ、タイミングはまたあるだろう。

しかし、それは今日ではない。本日金曜日は、そんな暇はない。

金曜日には何があるのかと疑問に思う人もいるかもしれないが、タイトル通りである。つまりは『学級委員長決定戦初戦』である。

なぜ初戦なのかは大方予想がつくかもしれないが、予想がつかない人は焦らなくていい。きっと軍人先生から親切な説明があるだろう。

昨日の様に僕は教室に入る。

今日は日直ではないので初日同様、登校時間は八時半である。そして初日同様、全てのクラスメイトが集まっていた。

今日は讒謗律が変な騒動を起こさなかった様で安心した(いや、昨日みたいに全員に帰って貰えば不戦勝だったんじゃないか?)。協力者というか、これだけ気にかけてると保護者みたいだな。

それにしても早いなぁ皆さん。

文字通り『おはようございます』だ。

そんなことを考えながら席に着くと、これまた初日同様に軍人先生が教室に入ってきた。

監視されてるのか知らないが、監視しているのか知らないが、この人は僕が入室したと同時に入ってくる。クラスメイトが揃ったと同時に教室に入ってくる。初日から気になってるのだが、何なのだろうか。

「皆んなおはよう!昨日は休みが多かったが今日は殆どの人が集まってくれて嬉しいぞ!さて、噂で聞いている人もいない人も、今日は待ちに待った『学級委員長決定戦初戦』だ」

朝から声の大きい人である。

学級委員長を決めるだけなのに随分と大仰だとも思うが、この学校の学級委員長には相当の価値があることは重々承知だ。

希望する国営機関に無条件で所属できる程の知能の集団。それの頂点の奪還戦に参戦できるチケット。

貪欲で野心家で目的のある人間にとっては、これ程魅力的な地位は存在しないだろう。もしかしたら、これ目的で入学している人もいるのだろうか。考えすぎ、というわけでも無さそうだ。

本当にそれほどの物なのだ。

そう言えば、今日の彼女はそこはかとなく息巻いている様子だ。随分本気で気合が入っている。隙がないってのはコイツのことを言うのか。

まぁ、当然と言えば当然だな。

「知らない人がいるかは知らないが、取り敢えずルール説明をしよう。ルールというかシステムというか、この学校独自の学級委員長決定制度だ」

『学校独自』。こういう文句は必ずと言っていいほど面倒くさい。漏れなくだ。

実際この学校の学級委員長決定制度は少しややこしい。いや、当て嵌めるならば面倒くさいのだ。

ただ、面倒くさくて当然の椅子でもある。これを面倒くさいと思ってるのはきっと僕だけで、他の人からすればこんなことは眼中にないのだろうな。

ちなみに、この制度については昨日讒謗律が教えてくれた。

「学級委員長決定戦予選は全部で三回。今日金曜と、来週の金曜と、そしてまた来週の金曜だ。君たちにはその三日間で異なるミニゲームを行ってもらう。クラスを三等分にグループ分け、その後各グループ毎に同じミニゲームをやってもらう。グループの中で勝者を一人選出し、一日につき合計三人の勝者を輩出してもらう。その三人が学級委員長決定戦決勝の切符を手にすることができ、最大九人で決勝を行うという制度だ。理解できたかな?」

理解はできた。が、理解するのと実際にプレイするのでは雲上月鼈である。頭で原理を理解してそれを実行できる能力があるなら、ここまで人間同士の能力に個人差はない。

だが今回の件に関しては僕以外の話であって、この試合に僕は参戦しない。学級委員長になりたくないからだ。学級委員長に興味がないからだ。

「先生、僕は、どうすればいいですか」

「ん?ああ、お前は立候補者じゃあなかったか。ただそれだけなら見学だろうが、お前は讒謗律の協力者だろ?」

「確かにそうですけど、それだとフェアじゃない。三人寄れば文殊の知恵という様に、二人であれば孔子くらいにはなるんじゃないですか」

「フェア?全員が全員お前を狙っていてかつ、讒謗律が他の二十八人を打ち負かしたことは知ってるだろう?勝負に勝ってお前を習得した讒謗律に何もおかしいことはないだろう」

ちょっと待て。

僕は何も賞品じゃない。勝利品じゃない、戦利品じゃない。訂正したいが瑣末なことなので口には出さなかったが、この人、素で言ってるんだよな。

しかし、言わんとしてることは概ね理解できる。讒謗律は試合をして、その結果、僕と直談判する権利を得たのだ。それでいて見事に僕を懐柔することに成功した。

確かにフェアじゃないなんてことはない。僕は讒謗律の協力者で、僕は讒謗律に協力するだけだ。

「腑に落ちた様だな。と言うわけで、朝っぱらで回っていない脳味噌をフル回転して挑みたまえ!喉から手が出るほど欲しい学級委員長決定戦決勝の切符を放すなよ。と、その前に」

皆んなのボルテージが上がっているのに何だろう。

締まらないな、この軍人先生は。格好の割には少しだらしないかもしれない。

ちなみ今日もこの人は軍服を着ている。

「君たちの入試結果を返そうと思う。何を今更かと思うが、このテストは高校教育の全範囲が含まれている。つまりは君たちは進みすぎと言うことだ、早すぎると言うことだ。すこしは『遅れ』と言うものを体験したまえよ」

そう言って出席番号一番の僕から答案は返された。

返された以上は答案を見る。どの問題で点を取っていた、どの問題で点を落としたのか。

答案を見た僕の目は点だった。というのも結果が良くなかった。いや、悪かった。

数学以外は最悪である。国英理社、どれも四十点台だ。よく入学できたな、よく足切りされなかったなと思う。特に社会に関しては今じゃ見慣れた文字というか響きの言葉があるが、それ以外は殆ど山勘で当たっている。

落ちていてもおかしくない。運が良かったんだな。

とかいう数学も八割に満たない点数だ。本当に入れたことに驚く、今更だけど。

勝負前から参っちゃうぜ。

取り敢えず、僕はそんなナーバスな状態で決定戦に参じた。

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